三日目
来年一月まで不安定な状態が継続しそうな予感……週三本は維持したいが、それも不透明です……
アード来訪三日目、ジョンさん達は今日も積極的に里の皆と交流していた。ジョンさん達は大人達と交流して、カレンは里の子供達と元気一杯に遊び回っている。
三日目になるのに疲れた様子がないので、カレンは相当タフだ。しかも優しくて面倒見が良いから、子供達の人気者だ。
今日は朝からばっちゃんが出掛けて、お父さんとお母さんも仕事で里を離れている。私は妹のティルの面倒を見ながら里でのんびり過ごすことにした。
フィーレは宇宙ステーションでなにかやってるし、フィオレはフィーレについていった。ジョンさん達に紹介したいんだけど……まあ、まだまだ機会はある。まずは落ち着いて貰わないとね。
「ティナは大丈夫なのですか?その、お仕事とか」
「大丈夫だよ、フェル。もう報告書は提出してるし、次のお仕事はジョンさん達を無事に地球へ送り届けることなんだから」
予定では明日ジョンさん達を連れて地球へ向かうことになってる。個人的にはもう少しゆっくりしていって欲しいけど、地球ではジョンさん達の帰りを待っているだろうしあんまり長居は出来ないみたいだ。
それに、親善大使に任命された事も伝えないといけない。まあ、なにか変わることがあるかと言われればなにも変わらないんだけどね。いつものようにあちこちに顔を出して、ハリソンさん達のお手伝いをする。
それと、宇宙へ出るから本来の探索任務も継続している。銀河全体には取り残されたアード人の居留地がまだまだたくさんあるからね。出来る限りの事はしてあげたい。
「フィーレちゃんが張り切っていましたよ。多分、船を弄るんじゃないですか?」
「嫌な予感がするけど、ばっちゃん辺りが指示を出したんじゃないかな?」
セシルさん達ラーナ星系の生き残りの皆さんを移住させる計画もあるからね。
銀河一美少女ティリスちゃん号は居住性が悪化してるけど、プラネット号ならちょっと改造すれば数百人は乗せられるようになる。トランクを使っても良いけど、窮屈で不便だからね。
「それより、フェルはフィオレと会った?」
「フィーレちゃんと一緒に会いましたよ。ただ、酷く落ち込んでいて……」
「こればっかりは時間が解決するのを待つしかないよ。でも、悪い子じゃないからフェルも仲良くしてくれると嬉しいな」
「もちろんです。ちゃんとお友達になりたいと思っていますから」
本来フィオレは明るく活発な性格だ。控え目で思慮深いフェルとは正反対の性格だけど、一緒に旅をするんだから仲良くしてほしい。まあ、あんまり心配はしていないけどね。
二人の性格はよく知ってるし、なにより本質的にリーフ人は同族意識が滅茶苦茶高い。
フィーレとフェルも気付いたら仲良くなってたし、大丈夫だとは思う。
「じゃあ、フェル的にもフィオレを連れていくのは問題なさそうだね」
「もちろんです。フィーレちゃんも喜んでいますよ」
フィオレの件はちょっと複雑になってしまっているんだよね。そこでばっちゃんの提案でフィオレを一緒に地球へ連れていくことにしたんだ。
今の状態でフィオレをリーフの里へ戻すのはどう考えても悪手だ。リーフ人達が彼女をどんな風に扱うかは分からないけど、ロクな事にならないのは何となく分かるからね。私としても友人のフィオレが同行してくれるのは心強いし、何よりフィーレのストッパーになってくれる存在だ。既に地球で色々ヤバいものを作り出しているし、このままじゃ地球の皆さんの手に負えないオーバーテクノロジーを提供してしまいそうで怖かったからなぁ。
「まあ、お喋りはこれくらいにしてこっちに集中しよっか……本当に面倒な作業だけどさ」
「そうですか?私は好きですよ。集中したい時にやっていますから」
「フェルは真面目だなぁ」
今私達は里にある小川にある石に腰掛けて冷たくて気持ちいい川に足を浸して、たくさんの乾燥させた草を編み込んでる。まあつまり、自分用のサンダルを編んでいるわけだけどさ。
アード人は伝統や文化を滅茶苦茶重視する。星間国家で魔法があって空まで飛べるのに、未だに履き物は伝統的な草を編んだサンダルなのだ。
しかもちゃんと一つ一つ手編みだし、自分の分は自分で編むのが伝統だ。だから、アードには靴屋さんが存在しない。地球の靴を輸入……いや無理かな、誰も見向きもしないだろうし。
「魔法や機械を使えば直ぐに作れそうなんだけど」
『自身の歩みを支えるものは自然の恵みを用いて自身の手で作ってこそ、大地への感謝が生まれる。アードの格言ですね』
「文明社会にあるまじき格言だと思うよ、アリア」
『同意しますが、それがアード人です』
「お陰で手先が器用になるから良いけどさ」
翼があるからどうしても歩くより空を飛びたくなる。でもそれだと足がある意味が無いね。苦労して作れば少しは歩こうと……あっ。
「解れちゃった……」
「手伝いますよ、ティナ」
「ありがとう、フェル」
二人がのんびりと過ごしている頃、集会所では大人達の交流が続いていた。
「つまり、現在提供されているトランクや医療シートはアードでは既に古い技術なのですか?」
「ええ。医療シートは万が一に備えて備蓄されていますが、基本的には治癒魔法がありますからな。ティナは平均より遥かにマナ保有量が低いのでかすり傷を癒すことも困難ですが、普通ならばそちらで言う幼稚園児でも骨折程度は容易く癒せるのです。
また、トランクについても最低ランクのものです。高ランクとなれば生物の輸送も行えますし、最近は携帯性に優れたポーチも開発されていますからね」
「そうだったのですか。どちらも我々からすればまさに夢のような品物なのですが……」
ジョンや朝霧と言葉を交わすのは宇宙開発局のザッカル局長。ティナの上司であり、地球との交流を推奨するアード政府要人である。
交流を加速させるため、ザッカル局長とも親交を深めているのだ。
「より高性能なものを用意することも出来ますが、数を揃えるのは難しくなりますな」
「いや、今のままで充分です。交易を継続して、余裕が出来たら品物を増やすことも考えます。
何れは通貨の為替レートを定める必要もありますが……」
「それについては、ティナが興味深い話をしていました。そちらの円と価値が似ているとか?」
「確かに私も日本人として分からないことはありません。1クレジットの価値は1円に近いような感覚はあります」
「それは興味深いな。為替レート策定の基準になるかもしれませんな」
「うむ。もし地球への使節団が編成されるとなれば、私も選ばれるでしょう。その日が楽しみだ」
「是非ともお越しください、ザッカル局長。地球を挙げて歓迎させていただきますよ」
三人は固い握手を交わし、集会所を出る。輝ける未来に想いを馳せて。
「HAHAHAHAHAHAっっ!!」
「ジャッキーさんうるさい」
「ぁあああああっっっ!!!」
スー◯ーマンの衣装を纏い高笑いしながら空を飛ぶジャッキー=ニシムラ(かしこさ5)を巨大化したカレンが叩き落とす光景を見て、瞳からハイライトが消えた。




