後始末inティリス(シリアス)
翌日、引き続き使節団の面々はドルワの里での交流を続けるために動き、またジャッキー=ニシムラ(実はネタキャラ)についてはアード側で精密検査を受けることになった。
そんな最中、ティリスはパトラウスからの要請を受けてティナ達に後を任せて里を離れた。
彼女が転送ポートを使って降り立った場所は、交流センターがある浮き島である。
アード、リーフ双方の融和と交流を目的とした場所であり、センター以外は豊かな自然や見事な庭園などの寛げる環境が整えられている。
リーフ人は基本的に里から出ることに消極的なのだが、若い世代の好奇心などを抑えられる筈もなく、島内には少なくない数の若いリーフ人達が束の間の自由を満喫していた。
そんな彼らと交流するため同じく若い世代のアード人が集まり、積極的に交流していた。
中には男女の仲になることもあり、今まさにリーフ人の青年とアード人の女性による若いカップルが仲睦まじく庭園を散策している姿があり、ティリスは彼らを優しげな瞳で見つめる。そんな彼女に壮年のアード人が近寄る。
「姉上、お待ちしておりました。お忙しい最中、時間を割いていただき感謝します」
「無茶を言ってごめんね、パトラウス。どうしても私自身の口で言ってやりたかったから」
「お気持ちは良くわかります。先方も了承してくれましたよ」
「当たり前だよ、断ってたらタダじゃ置かなかった」
「でしょうな……良いものですな」
庭園にはちらほらと異種族カップルの姿が見えて、パトラウスも目を細める。
「若い子達にこの場所は狭すぎる。新しい浮き島は交流の場を拡張するために使うべきだよ」
「融和の促進のためですな。開発部に指示を出しておきましょう。しかし、リーフ側は里からの出入りを制限しようと企んでいるのだとか」
「本当にロクな事をしないよね、ミドリムシは。対策は?」
うんざりした様子で吐き捨てる姉に苦笑いを浮かべつつ、パトラウスも対策を講じた。
「融和促進の名目で、婚姻に関する手続きの簡略化と“処置”に対する補助金制度の制定を行います。既に財務局の認可も得られましたし、直ぐに実行可能です」
「愛し合ってる子達からすれば朗報だね」
当然ではあるが、アード人とリーフ人は姿形こそ似ているが別の惑星で誕生した生命である。双方が如何に愛を育もうと子を成すことは出来ない。だが、技術の進歩により特別な処置を行うことで異種間でも子を成すことが出来るようになっている。
問題は婚姻の手続きが複雑な点と処置に必要な費用が高額であることだ。
「更に交流センターの広報を幅広く行いますし、リーフの若者向けのカンファレンスも継続して行う予定です」
「ん、若い子達を古い柵から解き放ってあげないとね。それが双方の融和に繋がる」
「ええ、そう信じております」
「……それで、私の要求はどうなるかな? 変えるつもりはないけど」
「法務局としても今回の事件は異例ですからな。双方が了承するならば法的に問題はないとの結論が出ました」
「よし。楽しくもないし、さっさと終わらせよっか」
「御意。こちらへ」
パトラウスに伴われて木造のドームのような建造物である交流センターへと赴く。三階にある応接室へ入ると、そこには一人のリーフ人が待っていた。
「お待たせしてしまい申し訳ない、フリースト殿」
「何の、必要ならばいくらでも待ちますとも。ティリス殿、お久しぶりです」
「ごきげんよう」
リーフ人の族長、フリーストである。パトラウスとティリスはテーブルを挟んだ向かい側へ座った。
「この度はお時間をいただけたこと、感謝する。改めて先日発生した事件について深く謝罪を……」
「前置きは要らないし、謝罪はもう必要ない。フリースト卿、お互い忙しいよね? さっさと本題へ移ろっか」
まさに塩対応とも言えるティリスに対して、フリーストは薄い笑みを崩さない。
「まさにその通りですな。お忙しい時間を割いていただいているのだ。早速本題へ移りましょう」
「下手人についてですな?フリースト殿」
「左様です。既に自害した三名については一族からの除名処分とし、墓も作らせておりませぬ。これは長年の盟友にして恩人であるアード人へ危害を加えたことに対する罰です」
「死んだ三人の事なんてどうでもいいよ。フリースト卿の心配は別にあるよね?」
「左様、唯一の生き残りであるフィオレの処遇に関してです。此方としては速やかに里へ召還し、厳罰に処したいと考えています。危険思想の持ち主を野放しには出来ませんからな」
「それについてなのですが我々が実施した取り調べに因ると、彼女はどうやら洗脳に近い状態だったみたいですな。軽い洗脳魔法の痕跡も発見されています。下手人達によって仕立て上げられたと見るべきでしょう」
「しかし、だからと言ってこのまま無罪放免とはいきますまい。アードの皆様への示しになりません。ここは我々が自らの手で身内の恥を処理しなければ……」
「フリースト卿」
フリーストは、自身の言葉を遮ったティリスへ視線を向ける。
「当事者であるティドルは事を荒立てたくないと陳情しているんだ。でも、確かに貴方が言うように無罪放免では示しが付かない。模範にするような輩が出るかもしれないし、罰は必要だよ」
「ご理解いただけて何よりです」
「だから、当事者が属する里長として提案がある」
「何なりと」
「フィオレについては、リーフの里からの追放処分が妥当と考えている。どうかな?」
庇うと考えていたティリスの口から出された重い処罰にフリーストは一瞬だけ唖然としたが、直ぐに無表情となった。
「それで納得していただけるのであれば」
「決まりだね。フィオレはリーフの里からの追放。これを落とし処としてこの件は解決したと判断する。そっちもそのつもりで」
「無論ですとも」
フリーストからすれば思わぬ展開ではあったが、唯一の生き残りであるフィオレを追放処分とするならば一族も納得するだろうとティリスの提案を呑む。その後パトラウスを仲介者として双方が誓いを交わし、この事件は幕を閉じたのである。
「宜しいのですか? 姉上」
フリーストが去ったあと、転送ポートにてパトラウスが声をかけた。
「フィオレちゃんを護るためには仕方ない。あのミドリムシ達に引き渡したら間違いなく悲惨なことになるのは目に見えているからね」
「……でしょうな」
「フィオレちゃん、それとフィーレちゃんはドルワの里で預かる。フェルちゃんと同じ扱いだよ。手続きは任せるよ、パトラウス」
「御意。幸いあの姉妹には両親が居ません。手続きも容易です」
「ん……私がしてあげられるのはこれくらいだ。故郷からの追放はショックだろうけど……後は、ティナちゃん達に、若い子達に任せよう」
何処か憂鬱そうな姉をパトラウスはただ見つめることしか出来なかった。




