歴史的瞬間
引き続き今月も混迷を極めております。投稿は不定期となりましょう…
はぁ、ジョンさんに迷惑かけちゃった。フェルも心配してるし……上手く行かないなぁ。
泣きながらフィオレが教えてくれた事、それは私の想像を超えていた。フェルの命を狙い、私の友人であるフィオレを巻き込んで、阻止しようとしたお父さんに大怪我を負わせた。
私は前世で既に中年サラリーマンだったから、正直子供らしく甘えたことは少なかったと思う。それでもお父さんのことは尊敬しているし、何よりその……ちょっと恥ずかしいけど大好きだ。
お父さんは娘の私から見ても荒事には向いてない。なのに、私達を守るために身体を張ってくれた。感謝の気持ちと、そんなお父さんに大怪我を負わせたリーフ人に対して激しい怒りを覚えて、そして私の心を埋め尽くした。
そんな私を止めてくれたのが、ジョンさんだ。ジョンさんは言葉を選びながら、それでもいつものように語りかけてくれて、接してくれた。
もちろん怒りが消えた訳じゃないけど、ジョンさんとお話をして、フェルが寄り添ってくれたお陰で頭を冷やすことは出来たよ。
正直あのままだったらリーフの里へ殴り込みをかけていた。だって、許せる筈がない。フェルを狙ったこと、お父さんを傷付けたことは当然として、フィオレを利用したことも許せない。
ちゃんとフィオレ本人が教えてくれたけど、どうやらフェルがフィーレの命を狙っていると吹き込んだらしい。『忌み者は同胞の血を吸って生き長らえる』とか。フェルは吸血鬼じゃないんだし、そもそも本人の性格的にそんなことはあり得ない。
でもフィオレはフェルの事を知らないし、なにより日頃からフィーレのことを可愛がっているから騙されてしまったんだと思う。本当に小賢しいと言うかなんと言うか……しかもこの事件とは全く関係ない長老が大勢の前で謝罪して命を落としたらしい。これでアード側は追求できなくなってしまった。
……このリーフ人の問題も何とかしないといけない。絶対に地球との交流の邪魔をしてくるだろうし、いつまでもフェルを危険に晒すわけにもいかない。女王陛下に直訴してみようかな。折角謁見する機会があるし……いや、それは駄目だ。今日の主役はジョンさん達なんだ。なのにリーフ人の問題を直訴したら場が滅茶苦茶になってしまう。我慢、するしかないよね。
「ティナ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね、フェル。また心配かけちゃった」
「ふふっ、どうして謝るんですか?」
「へ?」
「だって、いつもティナが怒るのは他の誰かのためなんですよ?そんな優しいティナが謝ることはないんですよ?」
「そうなのかな?」
「そうだとも。自分以外の誰かのために怒ることが出来る。それはとても素敵なことだ。そんな君と出会えて私は光栄に思うし、これからも変わらずに居て欲しい」
「うー、なんだか恥ずかしいな……」
ジョンさんとフェルに誉められるとなんだか恥ずかしい。けど同時に落ち着いてきた。
「ティナちゃん……」
「ばっちゃん、色々考えて秘密にしようとしていたのは分かってるよ。だからばっちゃんを責めるつもりもない」
「ごめんねぇ……」
「らしくないよ。しおらしいばっちゃんなんて見たくない」
「……んふふっ、なら良いよ☆強くなったねぇ☆」
「今まさに我を忘れちゃったけどさ」
それでも、私には大切な人達が居る。リーフ人には言いたいことが山ほどあるけど、今は……皆のために我慢しよう。でもいつか、この問題を解決してみせるっ!
決意を新たにするティナ。そして二時間後、休んでいたカレンも起きてきていよいよパトラウス政務局長との歴史的な会談が執り行われる時間が迫っていた。
「んー、ティナ。本当にこのままでオーケーなの?」
「良いんじゃないかな?そもそもアードには正装なんて無いしね」
カレンは学校の制服姿だ。合衆国の学校は私服がほとんどなんて話を前世で聞いたことがあったけど、カレンの学校には日本の女子高生みたいな制服がある。
白いシャツに焦げ茶色のブレザー、スカート姿。胸元にある水色の大きなリボンが爽やかさを醸し出している。本人の性格もあってか、よくブレザーを腰に巻いたりしてる。まあ、カレンは活発な性格だしねぇ。今はちゃんと着用してる。
腰まで延びる金の髪、合衆国人らしい(?)高い身長と目鼻立ちもあって、まるで留学生みたいだね。
「カレン、出来るだけ大人しくしているようにね」
「もう、分かってる!ティナやパパの顔を潰すようなことはしないわ!」
カレンはジョンさんのことをパパと呼んだりお父さんと呼んだりしてる。その時の気分らしい。パパって呼ばれるとジョンさんがいつも以上に嬉しそうにするのは気のせいかな? まあ、気にしないでおこう。
私達は普段着だ。と言うより、アードには天使みたいな民族衣装しかないし、高位の人が纏うローブも私には関係ない。ただの小娘だしね。ちなみにばっちゃんもローブは使わない。小柄だからね。
リーフ人もそれは変わらない。ワンピースタイプの服だけだ。
そして正午、私達は複雑な手続きを済ませて転移ポートでアード最大の島であるケレステス島へとやって来た。
アード最大の島と言っても、地球で言えばマダガスカル島くらいの面積しかない。いやまあ大きいけどさ。この島は神聖な場所として保護されていて、雄大な自然がそのまま残されている。そして島の中心にはアードじゃ珍しい石造りの大きな建物、ハロン神殿がある。
アード永久管理機構の各部署があるアード政府の中枢で、最奥にはセレスティナ女王陛下が住んでいるらしい。まあ全部アリアからの説明だし、私だってここに来たことなんて無い。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
転移ポートには金色に輝く鎧を身に着けた人が何人も居て、私達を先導してくれた。
『近衛兵です。ケレステス島及びハロン神殿の警備。そしてセレスティナ女王の身辺警護を主任務としたアード軍選りすぐりの精鋭です』
「へぇ、初めて見たよ」
今回フィーレは同行していない。と言うか、私が無理を言って留守を任せた。フィオレのメンタルケアにはフィーレが必要だしね。色々考えてみたけど、フィオレは私達と一緒に地球へ連れていく方がいいと思う。後でばっちゃんに相談しよう。
しばらく舗装された道を歩くと、壮大な神殿の前に辿り着いた。そしてそこには大勢のローブを纏ったアード人とリーフ人の男女が集まっていて、一人のアード人が前に出てきた。
「アード永久管理機構政務局長、パトラウスです。地球からのお客様を心から歓迎させていただく」
「使節団長のジョン=ケラーです。こちらこそ、この度はお招きいただき心から感謝致します」
あの人がパトラウス政務局長、つまりばっちゃんの弟か。彫りの深い顔立ち、短髪にした金の髪に髭がよく似合う。まさにイケオジだね。
パトラウス政務局長とジョンさんが握手を交わして、ジャッキー=ニシムラ(不可解なことにビジネスマンスタイル)さんがその様子を激写してる。歴史的な一枚になるね。




