ティナ「フェルとのんびり……したかった」
二日目の朝、朝霧さんとお話をした後私はフェルと一緒にのんびり過ごすことにした。ジョンさん達の会談は昼過ぎだし、まだまだ時間がある。
お母さんがジョンさんをちょっと借りるって言ってきたから、任せることにした。どのみち私に政治の話は分からないし、細かい打ち合わせとかはばっちゃんに丸投げしてる。
地球でも色々あったし、ちょっと疲れているのも確かだ。昨日は夜通しで里を挙げたドンチャン騒ぎだったしね。
「ティルちゃん、まるでティナを小さくしたみたいでとても可愛らしかったですね」
「姉としてはちょっと将来が心配ではあるけどさ」
ティルは私に似たのかとても好奇心が強くて、特に地球から持ち帰った品物に興味津々だった。一応今回は販路の更なる拡大のために地球の工芸品や美術品の類いを持ち帰ってる。まあ、美術品の大半はレプリカだけどさ。
その中で面白かったのは、人物画に興味を持った人が何人か居たことかなぁ。風景画の類いは売れるかなとは考えていたけど、正直肖像画の類いは見向きもされないと思っていたから意外だったよ。具体的にはその人物画の髪型とか服装に関心があるみたいだ。まあそうだよね。アードは基本的に天使みたいな装束が一般的。地球みたいに多種多様な服は存在しないんだよね。
で、ティルはよりによって地球のロボットアニメに興味津々でフィーレが怪しい笑顔を浮かべていたから、直ぐに可愛らしいぬいぐるみで興味を逸らせることに成功した。私も大概アード人の中じゃイロモノだけど、出来たばかりの妹にまで同じ道を歩ませるつもりはない。
もちろんこれから地球との交流を進めていけば地球の文化もアードへ流れてくるけど、内容は慎重に考えないと超兵器を山ほど作りそうで怖い。いやまあ、センチネル相手に使うなら文句はないけどさ。
「そうですか?いろんなものに目をキラキラさせている姿は、ティナそっくりでしたよ?将来は探検家さんですね」
「そうなるなら嬉しいかな」
ティルにもアードに籠るんじゃなくて、星の海へ漕ぎ出してほしい。何となく、あの娘が宇宙へ出る時私は一緒に居られないような気がした。成長したあの娘を見送る姿が頭に浮かぶんだよね。
出来れば姉妹で宇宙を旅してみたいと思うんだけど……変な話だけど、たまに頭に浮かぶイメージが外れたことはない。未来予知かと思ったけど、アードにはそんな魔法は存在しない。
セレスティナ女王陛下が未来を見通せる力をお持ちだって聞いたことはあるけど、私みたいな凡人以下にそんな芸当が出来る筈もない。前世にも第六感なんて言葉もあったし、偶然だと考えるようにしてるけどさ。
「フェルはどうだった?楽しそうにお話をしていたよね」
「はい、まるで開拓団に居た頃みたいでした。皆さん私の髪や羽根について心配してくれて、優しくしてくれました」
ドルワの里には数人だけどリーフ人が住んでいるんだよね。しかもフィーレみたいな変わり者みたいで、排他的じゃなくてとっても友好的な人達だ。
そんなリーフ人の人達とフェルは交流していたんだけど、差別しないドルワの里のリーフ人にビックリして、そして嬉しそうにお話してたんだ。
「ばっちゃんの人徳なのかなぁ。里の人達はリーフ人らしくないんだよね」
ティナは知らないが、里に居るリーフ人達もまた、ティリス率いる特務艦隊の生き残りや遺族達である。民度は一般的なリーフ人と比べるまでもない。
「おや!これはこれはティナ嬢にフェル嬢ではありませんか!」
颯爽と現れたのは、色んな意味で濃い地球人のジャッキー=ニシムラ(申し訳ありませんが、ビジネススーツです)さんだ。
「おはよーございます!ジャッキーさん!」
「おはようございます、ジャッキーさん。昨日はありがとうございました。とても美味しかったです」
「HAHAHA!フェル嬢のお口に合ったならば何よりです!ティナ嬢も随分と手慣れていましたな?」
「あー、地球の事はたくさん勉強しましたから。あはは」
うん、ノリノリでバーベキューに参加しちゃったのは悪かったよ。手慣れすぎて皆から不思議に思われたし。前世でも、社員旅行で焼くだけ焼かされて自分はピーマンだけだったのは良い想い出だよ。ハハッ。
「おや?ティナ嬢がまるで疲れきったサラリーマンのような顔をしていますが?」
「たまに起きるティナの発作みたいなものですよ」
「発作ってなにさ!」
いやまあ、思い出して黄昏てしまうのは悪い癖だと思うけどさ。その分今世は……まあ色々ハードだけど幸せで満たされているよ。
「まあ良いや。ジャッキーさん、アードはどうですか?」
「最初は別の意味で驚きましたよ。メガロポリスのような世界を空想していましたが、いざ現地に踏み込めばそこは森の隠れ里のような場所。アニメで言えばエルフみたいな集落が広がっていましたからなぁ」
「あー、何となく分かりますよ」
確かにアードの集落はドルワの里だけじゃなくて、基本的に森の中にあるツリーハウスみたいなものばっかりだ。屋内はドロイドがうろうろしているけどさ。
「我が父祖の国の言葉を借りるならば、まさに風光明媚な光景ですな。この里の風景だけでも地球人にとっては衝撃的なものになるでしょう」
「なりますかね?」
「なりますとも!誰もが空想するファンタジーの世界が広がっているのですからな!今回は私が撮影していますが、ティナさんもアードの文化などを撮影して地球の動画サイト等にアップしてみては如何ですかな?」
「私が動画を?」
そんな配信者みたいな真似が出来るとは思えないんだけど。
「数々の奇跡を地球で起こしていますが、やはり大半の一般市民にとってアードやリーフはニュースの世界です。しかし、誰もが視聴できる動画サイトを使えば地球市民との距離を縮めることが出来ると思いますぞ」
「面白そうですね。ティナ、一緒にやってみませんか?」
珍しくフェルが積極的だ。なら、その気持ちを無下には出来ない。
「分かりました、今回の件が終わったら配信をやってみます。ただ、準備とかはお任せしても良いですか?」
アリアに任せたら大変なことになりそうだし。
「お任せあれ。誰でも視聴できてコメントを書ける自由度の高いサイトのアカウントを直ぐに用意しましょう。なりすまし防止もお任せあれ」
「それだけは阻止してくださいね」
アリアの報復が怖いから。
「もちろんですとも!……おや?ティナ嬢、あの方は?」
ジャッキーさんの視線の先にはリーフ人が一人……って。
「フィオレじゃん」
「フィオレさん……?」
「大丈夫だよ、フェル。フィオレは私の友達でフィーレのお姉ちゃんだから」
「フィーレちゃんの?」
フェルが警戒を解いてくれた。そう言えば昨日居なかったなぁ。フィーレを連れていく時も連絡できなかったし、謝っとかないと。
フィオレはフィーレを大事にしてるからね。
「ティナ……」
俯いたままフィオレが私の前に立って呟く。
「ごめんね、フィオレ。フィーレ、まだ寝てるんだ。連れ出す時に連絡できなくて……っと!?」
いきなり抱き付いてきた!?まさかのフェルのライバル出現か!
……そんな馬鹿なことを考えていると、フィオレが震えていることに気付いた。
「ごめん……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
泣きながら謝罪するフィオレを相手に私は困惑するしかなかった。その理由を知ったのは、少し後だった……。
ティナ、父が巻き込まれた事件を知る




