ドルワの里へ
ジョンさん達使節団を無事にアードまで連れてくることが出来た。まあ、宇宙開発局の皆が色々勘違いしてちぐはぐな地球流の歓迎をしてしまったけど、こちらの文化を尊重してくれることは良いことだってジョンさんも笑顔だった。朝霧さんは歓迎のお礼として地球から持ち込んだ日本製の保存食の一部を皆にプレゼントして、好感度アップに余念がない。今回は外交団って訳じゃないけど、少しでもアード人からの印象を良くするための地道な努力だね。
まあ、ばっちゃんの話を聞く限りセレスティナ女王陛下が地球に関心をお持ちみたいだし、その辺りは心配しなくて良さそうだけどね。女王陛下が白と言えば皆白に染まるのがアード人だ。偉大で慈悲深く優しい方だし、私も尊敬してるよ。前世の記憶があるからか、他の皆みたいに狂信とは言えないけどさ。
「ティナ、知っての通りパトラウス政務局長との会見場所はケレステス島のハロン神殿に決まった。最初は政務局長と会見し、そのまま女王陛下との謁見となる。大丈夫だとは思うが、くれぐれも無礼を働かないように気を付けてくれ」
「何だか緊張するなぁ」
使節団だけじゃなくて、私達も招待されたんだよね。正確には私とフェルだけ。フィーレは興味がなさそうだし、ばっちゃんは色々考えているみたいだけどさ。
女王陛下との謁見なんて緊張する。
「ザッカル局長殿、改めてスケジュールを確認したいのですが」
「ええ、構いませんよ朝霧殿。本日はあなた方を招いたティナ達の故郷であるドルワの里で長旅の疲れを癒していただきたい。ささやかではあるが、歓迎の宴も準備している」
「痛み入ります」
「そして、明日にはケレステス島へ赴いていただきます。事前にお伝えしておりますが、あの島は我々にとっても聖域となります」
「無作法にならぬよう細心の注意を払わせていただきます」
到着する二日前に滞在中の大まかなスケジュールが送られてきたんだ。私達が地球で受けた歓迎みたいな感じかな。急遽女王陛下との謁見が追加されてビックリしたけどさ。ばっちゃんは知ってたみたいだけど。
一通り宇宙開発局の皆と交流した使節団の皆さんを引き連れて、私達は軌道エレベーターを利用してアードへ降りた。
「お父さん!空に島が浮いてるよ!」
「何と言うことだ……まさに異世界だな」
「ええ、この光景を見るだけでも私達が地球とは異なる惑星にいることを実感させられますね」
皆さんあちこちに浮いてる浮き島に驚いているね。アードは海洋惑星、地球より大きいけど陸地面積は多分地球の半分も無い。だから新たな住処として浮き島をたくさん建造しているんだ。
「え?海を埋め立てたりしないのかって?」
「その方が楽ではありませんかな?」
あちこちの風景を激写してるジャッキー=ニシムラ(非常に残念ながらビジネススーツ)さんからの質問に、私は苦笑いを浮かべた。
「無理、あれ見て」
答えたのはフィーレだ。彼女が指差した先には。
「「「なっっっ!??」」」
「わぁっ!」
多分全長百メートルはありそうな巨大なウツボみたいな生き物が海から飛び出して、また海へ戻っていく様子が見れた。ジョンさん達男性陣は目を見開いて、カレンは目をキラキラさせていた。本当にカレンは物怖じしないなぁ。
「ティナ、ティナ!あのクレイジーな生き物はなに!?」
「んー、私達は主と呼んでる生物だよ。ほら、カレンは海洋庭園で見慣れていない?アードの海洋生物は基本的に滅茶苦茶巨大なんだよね」
少なくともアード人は海に関わるより空に陸地を作ることを選ぶくらいには、海は危険なんだ。今でも不用意に海には干渉しないようになっている。そうすることであの巨大生物達と上手く共存してるんだ。
もちろん漁はするけど、浅瀬だけ。間違っても外洋には出ないように徹底されている。
「とってもキュートじゃない!」
「「「えっ!?」」」
うん、カレンの感性がちょっと特殊なのは今に始まったことじゃないからスルーしておこう。持って帰りたいとか言われたら大変だから。
ジョンさん達を連れて軌道エレベーターに併設されている転送ポートへやって来た。転送ポートと聞いたら如何にもSFな建物を想像するだろうけど、実際は。
「これはまたなんと巨大な……」
「これほどの巨木、地球に存在するかどうか分かりません」
「何とも幻想的ですなぁ」
「うわぁ!」
四人が驚くのも無理はない。この全高百メートルの巨大な大木はリーフ人が世界樹と呼ぶ木の仲間だ。
この世界樹の特徴として、世界樹同士は不思議な異空間で繋がっていると言う点だ。この特性を活かして、内部を改造して転送ポートとして利用している。つまり、この大木がアード中にあるわけだ。
防犯や国防上の問題? 地球人からすれば当たり前の考えだけど、少なくともアード人には無い。犯罪なんて聞いたこともないし。元地球人として言わせて貰うなら、アード人は性善説を当たり前のように体現してる種族だ。
危機に陥った異星の仲間を、考えたくもない程の犠牲を払って救うくらいにはお人好しの種族だよ。
大木の根本をくり抜いて作られた空間には薄暗い照明の他には光輝く魔法陣が描かれている。
「これは、魔法陣かな?」
「はい、その上に立てば完了です。目的地であるドルワの里まで一瞬で行けますよ」
「ほう、通勤のために是非とも地球で普及させたいですな」
「世界樹は高い適応能力がありますから、地球でも育てることが出来るかもしれませんね」
ジョンさん達に答えてくれたのはフェルだ。リーフ人にとって世界樹は信仰の対象みたいで、近くに居ると安らぎを感じるらしい。銀河一美少女ティリスちゃん号の植物園にもあるし、たまにフェルとフィーレが側で眠ってるのを見掛ける。
「いよいよ、ティナの生まれ故郷か。君のご両親にもしっかりと挨拶しないとね」
「私もジョンさんを早く両親に紹介したいです。私をはじめて受け入れてくれた大切な人だって」
ジョンさんに出会えなかったら、多分此処まで上手く事が運ぶことは無かっただろうから。
転送ポートでドルワの里へ転移した私達は、そのまま側にある集会所へ入った。
集会所には既に里の全員が集まったんじゃないかと思うくらいのアード人が集まっていて、広間に出た私達を雛壇から取り囲んで見つめている。石造りの荘厳な雰囲気も合わせて緊張感が漂う。けど、私は知っている。
緊張しているジョンさん達をそのままに、私とばっちゃんが前に出る。そして。
「「ただいまーーっっ!!」」
「「「お帰りーーーっっっ!!!」」」
挨拶をした瞬間皆が笑顔で返してくれた。
「おねーちゃん!」
「おっと!」
勢いよく飛び込んできた妹のティルをしっかりと抱き止めて、ビックリしているジョンさん達に笑顔を送る。
「ようこそ!私の故郷、ドルワの里へ!」
ジャッキー=ニシムラ(自重中)
「生命は生まれた時裸なのだ。つまり衣服と言うものは邪道と考えるが、時代はまだまだこの真理に追い付かないみたいだ」
朝霧
「いかんな、警察が居ない……」




