ドルワの里の集会所
久しぶりのティリスちゃん爆誕。
ばっちゃんからの呼び出しを受けて、荷物を家に置いた私は集会所へ行く事になった。お父さんは留守番するみたい。まあ、久しぶりの休暇なんだからゆっくりしてほしいしね。
家を後にした私は、翼を広げて里の空を飛ぶ。地球じゃあんまり飛べなかったから、思う存分空を満喫しておく。具体的には宙返りなんかしちゃうくらいに。
『スカートを着用している自覚を持つことを推奨します』
「誰も気にしないから大丈夫だよ、アリア」
前世の習慣がたまぁに前に出てくるのは仕方無いと思ってる。具体的にはスカートで激しい動きをしたりすることだ。ついでに、気を抜いたら胡座をかきそうになるからそこだけは注意してる。いや、需要があるのは理解してるけど残念ながら私の見た目は幼女だ。いや、ばっちゃんに比べたらマシだけど明らかに平均より成長が遅い。
それでも需要がある?……世界は広いなぁ。
ドルワの里の真ん中に位置する集会所。ウッドハウスが当たり前のアードの建物らしからぬ、森の中心に建設された石造りのドーム。その中は中心に壇があってそれを取り囲むように石造りの雛壇がある。まるで古代ローマとかの議場を彷彿とさせるような作りだ。
アードは優れた科学技術と魔法技術を持つ星間文明だけど、古い伝統を大事にする文化も根強く残っている。
流石に政治の中枢ではまさにSFチックな未来感溢れる議場があるらしいけど、里の集会所は昔ながらの伝統を守ってる。
発言者は中央の壇上に上がって発言し、周囲の雛壇に座ってる多数と激論を交わす。雛壇も石の段差がそのまま椅子になる感じだ。
流石にお尻が痛いから、ばっちゃんがクッションの使用を認めさせたと言う逸話がある。
既に集会所にはたくさんの人が集まっていた。里の有力者は当然として、里の者なら自由に参加できる気軽さがある。この辺もばっちゃんが改革していったらしい。
「ティナ、こっちよ」
会場を見渡していると、手招きするお母さんとフェルを見付けて隣に座る。お母さんの右側に私、左側にフェルだ。
「お帰りなさい、ティナ」
「ただいま、お母さん」
お母さんは相変わらず天使衣装に白衣を纏ってる。フェルは初めてみる集会所に興味津々みたいで、場内を見渡してるみたいだ。
「無事に帰ってきてくれて良かったわ。アリアから報告は受けているわよ」
あっ、やばい。スーパーマーケットでの事も知られてる……?
ちょっとばつの悪い気持ちになってると、温かい感覚がした。お母さんが私の頭を撫でてる。
「無事だから良かったけれど……出来るだけ無茶は控えて頂戴。やるなとは言わないけれど、心配する身にもなりなさい」
お母さんは困ったように、それでいて安心したように頭を撫でてくれた。心が温かさで満たされていく。
「……気を付ける。ごめんなさい、お母さん」
「謝らなくて良いのよ。ティナの行いは、私にとっても誇りだから」
「お母さんっ!」
その優しさに涙が溢れそうになったけど、気合いで我慢した。流石にこんな大勢の前で泣くのは恥ずかしい。
精神面も体に引っ張られているし最近はますます薄れているけれど、やっぱり中身は中年サラリーマンの一面もあるし……ね?
そうしていると、集会所へばっちゃんが入ってきた。その瞬間賑やかだった屋内は静まり返り、ばっちゃんが石造りの床を踏みしめる音だけが響く。
いや、なんでハイヒールじゃない平べったいサンダルなのに、コツコツなんて音がするのさ。おかしくない?アードの不思議の一つだ。
ばっちゃんはふざけた様子もなく、黙って壇上へ上がって中心へ歩いていく。場が厳粛な空気に包まれていき、私も緊張してきた。実は集会に参加するの初めてなんだよね。当然初めてのフェルも緊張してる。
ばっちゃんは基本的にふざけてるけど、真面目な時はアード人有数の長寿を誇る長としてのオーラと言うか迫力がある。だから皆に頼られてるんだよね。普段はアレだけどさ。
中心にたどり着いたばっちゃんは、ゆっくりと屋内を見渡していく。自分を中心に周りを囲むように座ってる皆に物怖じせず、厳格な表情のままだ。
私と一瞬視線が合わさると、優しげに目を細めた。気遣ってくれたのかな?
それにしても集会を開くにしても私までお呼ばれされたんだ。重要なお話に違いない。緊張が増していくのを実感しながら固唾を飲んで状況を見守る。
一通り皆を眺めたばっちゃんは目を閉じて大きく息を吸い込む。そして、目をカッと開いて!
「はろろ~~~~んっっっ!!!☆ティリスちゃんだよ~~~ッッ!!!☆」
「「「イェアアアアッッッ!!!!!!」」」
はい!?
「皆元気かな~~!?☆楽しい楽しいパーティーをはっじっ☆めっるっ☆よーー!!☆」
「「「ティ☆リ☆ス☆ちゃーーーんっっっ!!!フゥウウウウーーーーーッ!!!☆」」」
「はっ?はっ!?」
里の有力者である威厳たっぷりのおじさま達が、ケミカルライトみたいな光る棒を両手に持って激しく振ってる。
まさに前世で何度も見たヲタ芸そのものだ。しかも翼にまでくくりつけてバタバタさせてるから、無駄に豪華。というか、この掛け声はなに!?
さっきまでの緊張感は何処へ!?私達がビックリしていると、お母さんが溜め息を吐いた。
「はぁ……驚いたわよね。これがドルワの里の集会の始まりなのよ」
「これが!?」
視線の先では、大半の人がケミカルライトみたいな光る棒を振り回してるし、ばっちゃんはノリノリでダンスを披露してる。
「覚えておきなさい、ティナ。里長はアードでも有数の長命、有力者を含めて里の出身者の大半は里長に小さな頃からお世話になっているのよ。つまり、度を越えたレベルで慕われている。そして、貴女が持ち帰った地球のデータから、ヲタ芸なる儀式を見付けてインスピレーションを刺激されたみたいね」
ヲタ芸を参考にしちゃった!?アードにそんな文化を輸入しちゃったの!?
私とフェルは目の前で繰り広げられる厳粛さとは正反対のカオスを眺めながら。
「「なにこれ……?」」
そう呟くことしか、出来なかった……どうしてこうなった!?
シリアスさん……どこ…?




