【第07話】魔道具修理店りゅうのひとみ 2
私は改めてメロウさんにお店の中、カウンターの裏のバックヤードに入れてもらい、説明を受けた。
仕事内容はギルドで説明された通り、掃除や雑務だった。
数年前に大通りにできた商会にお客も従業員も持っていかれたから、ゆっくりでいいとのこと。
ちょっと反応に困った。
先ほどとは一転、落ち着いたメロウさんは上品なおばあちゃんといった感じだ。
気品もちょっと感じる。
お店の掃除も一日で全部やるのではなく、適当に少しづつやってくれればいいとのこと。
というのは、体があまり動かせなくなってしまい、最近は身の回りのいろんなところが汚れて来て、我慢できなくなって募集したとのこと。
誰かが来るから急いで家中をピカピカに磨き上げろ!という事ではないようだ。
「そうなんですね。あ、それでしたら、ご飯も作りますか?」
「ん? 作れるのかい? そうしてくれると助かるけど・・・」
幼いのにえらいとほめられる。
記憶を前世から引き継いでいるのでそこそこの精神年齢ではあるが。
しかし、確かに体は14歳にしては小さいかもしれない。
元気なつもりだけど、栄養が足りていないのだろうな。
私が住み込み用に用意された部屋は2階にあった。
「悪いけど、そこも掃除してから使ってね」
「ありがとうございます。十分です」
メロウさんは腰が痛くて階段を上がるのがつらいとのこと。
腰が痛いのかあ。
私も前世おばあちゃんではなかったけど、腰の痛さは十分知っている。
これはちょっと大変かもしれないな・・・。
「じゃあ今日は自分の部屋の掃除、仕事は明日からお願いね」
「はい。よろしくお願いします」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それからの日々は忙しくも充実したものだった。
朝起きたら朝ごはんを作り2人で食べる。
軽くお店の掃除をしてから表の扉の鍵を開け、札をオープンにひっくり返す。
それからは軽く掃除するんだけど、建物の中は結構ゴミが地面に落ちてた。
髪の毛とかほこりとか。
外に掃いて捨てるよう言われたけど、大丈夫かなって量だった。
まあ誰にも文句を言われず、大丈夫だったけど・・・。
お客はびっくりするぐらい来ないので、昼までメロウさんの話し相手となり、
頃合いを見ていったん自分だけキッチンへ行きお昼ご飯を作り、
二人で一緒に食べ、片づけた後にお店の前の掃除をしてからお店に戻り、また話し相手となる。
前世の知識を使い紅茶いれながら、簡単なクッキーなどを焼いたりクレープなどを焼いたりしてお茶請けにした。
これにはメロウさんはとても喜んだ。
夕方にはお金をいただいて、それで食材の買い出しに出かける。
おやつの材料も忘れないようにと念を押されてしまい、思わず笑ってしまった。
若いころから仕事一筋で、あまり甘いものを食べに行ったりとかはしなかったそうだ。
帰ったら店内やバックヤード、私たちが行動する範囲を軽く掃除する。
夜ごはんを作って二人で食べて、メロウさんはお休み、私は片づけをしながら、明日の朝ごはんのメニューを考える。
それから2階の自分の部屋へ上がる。
しっかりと自分の役目があるスローライフはいい。
まだ確認していないけど、お金も10日ごとにギルドカードに振り込まれているらしい。
心配なのはメロウさんの体調ぐらいだ。
原因は分からない、どんな薬を試してお効果が出ず、治療院へ行くのも辛い状態となっていた。
「年だよ。
体にガタが来たんだろうね。昔は寝る間も惜しんで魔道具の修理をしたものよ。そのつけかしら」
「そんな・・・働き者のメロウさんにつけなんて」
といいつつ私はメロウさんが働いている姿は0.1秒も見たこと無いんだけど。
付き添いで治療院へ行くか聞いてみたが、もう治療院には希望は見いだせないと言われた。
店においてある魔道具の使い方や値段なども聞いて、店番もできるようになると、
自分が死んだらここのものを売り払っていいと言われた。
お休みを言い、自分の部屋でベッドに入る。
「メロウさん弱気になってるなぁ。
でもああなるのも仕方ないよね、確かにつらそう・・・」
今日もそんなことを考えながら寝ようとしたところ、いつもと違うことが起きた。
考えがメロウさんの事から前世で好きだったアニメの事になり、うっつら、うっつらと夢と現実を行き来し始めた時に、からだが熱くなったのだ。
最初は寝始めたから体温が上がったのかと思ったが、すっと意識がはっきりして、更に熱は上がっていく。
「・・う? あっつ・・・え、なんなの? やば」
あまりの暑さに服を脱ぐ。
倦怠感や痛みはない。
ただただ体が熱くなっているのだ。
布団をはぐと部屋の空気がほんの少しひんやりとして気持ちよかったが、それより自分の体から発せられる熱の方が強い。
試しに手のひらを体に近づけると熱気を感じ、体から離すと部屋の空気のひんやりが感じられるぐらいには違う。
この世界の風邪かと思い、明日も長引くなら休ませてもらおうと考えた。
とりあえず我慢して脱いだ下着だけは着こみ、横になり掛け布団をおなかにかけた。
マズイなぁ・・・。