【第03話】村を出る 1
村を出ることを決めた日から私は動き出した。
あまりお金のやり取りがない村なので旅費は溜められない。
なので知識を入れることにした。
私はこの村の人たちの話では信ぴょう性に欠けることもあるし、
今はあまり人と接したくなかったので、村長の家にある本をあてにする。
ちなみに文字の読み書きは村長が教えているので問題なく読める。
村長の家に行き、将来のために読みたいと言うと、勝手に勘違いしてくれて、
どうぞどうぞと本を貸してくれた。
村長の家には21冊の本が一室にカルタのように表紙を上にして、綺麗に寝かせて並べられている。
どうでもいいほかの村の生活とか、ゴミみたいな・・・コホン。
必要としない内容ばかりだったけど、1冊だけこの世界の地理について
説明している本があるので、それでイメージを膨らませている。
「そんちょーさま、魔法の本とかないの?」
「魔法? 無理無理、そんなの高くて買えないよ。それになユイ」
生活魔法と言うものがある。
種類は沢山あるらしいが、よく見かけるのが母が洗い物をしているときだ。
あとは父と母が一戦交えた後にお互いに掛け合ったりしているがこれはどうでもいい。
これは成人の日を迎えた後に教えて貰えるものだ。
なぜ成人まで待たなければならないかというと、
子供は魔法を使った後、その魔法が止まらずに
MPが枯渇して亡くなってしまう事があるからだそうだ。
そういわれたら、これ以上私が言えることは無い。
やれやれ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こんにちは、少しよろしいですか?」
1か月後、村を訪れて来た教会関係者に私は話しかけた。
あの鑑定の日から教会関係者が来たのはこの日が初めてだ。
私は人がはけたタイミングで、自分が許嫁である事は伏せ、
旅に同行して、その後教会で働くことができないか聞いてみた。
ちなみに鑑定については教会で働いているうちにやって貰えばいいと思い、ここでは話に出さなかった。
教会の人はじろりと私を見てから口を開いた。
「ふむ。
我々の所で働くとなるとシスターになることになるな。
シスターの仕事はとても忙しいぞ?朝早く起きて掃除洗濯お祈り・・・夜もいろいろと仕事がある。
こんな村でのんびり暮らしていた君には勤まらないかもしれないが・・・」
(え?)
「特に夜なんか、まだ幼いキミは無理じゃないか?
途中で投げ出すくらいなら、ここで暮らした方が幸せだぞ?」
「まあそうだな」
教会関係者たちは私をぶしつけに見ながら、とても面倒そうにいった。
そんなに面倒な事?
「・・・そうですか、ありがとうございました」
この人たちに同行をお願いするのはやめにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後、今度は女性だらけの冒険者パーティーがやって来た。
気高き野薔薇という名前らしい。
ちょっと口にするのは恥ずかしいと思ってしまった。
この人たちは前にもこの村に寄ったことがあるのを知っている。
とても気さくな人たちだ。
「こんにちは!」
「おや、ユイじゃないか、元気してたか?」
「はい!」
今はクエストの帰りらしい。
リーダーさんが私の頭をなでてくれる。
「あの・・・」
「ん?」
ダメ元で事情と覚悟を伝えると、隣の国へ逃がしてくれるという話になった。
まあ街で仕事を見つければ何とかなるさ、と言って貰えた。
その夜。
「おとーちゃん、おかあちゃん」
私は夕飯の時、初めてかしこまった様子で二人を呼んだ。
「ん? どうした?」
「ええとね・・・私・・・」
「もしかしてユイ、村を出ていくのか?」
言葉に詰まる私を見かねて、父が口を開いた。
「えと」
顔を上げ父の顔を見る。
父は心配を含ませた優しい顔をしていた。
「・・・うん」
「そうか。
・・・まあそうだよな、ユイに、ここはあまりにも酷だ。
さすがにおとうちゃんも、それが分かったよ」
「おとうちゃん・・・」
「あっちの家からさ、約束はなかったことにしてくれって言われたよ。
ユイはもっとつらいよな」
「うん、つらかった」
「ユイ・・・」
「おかあちゃん」
母がハグをしてくれた。
(むにむに・・・)
母はムチムチしており抱っこされると気持ちがいい。
そういえば何で私には弟や妹がいないんだろう。
父と母は毎晩・・・いや今は関係ないか。
「それとな、お前が必死に本を読んで準備していることも分かっていたよ。
あんな状況じゃ、さすがにやめろとは言えなかった・・・。
おい、おかあちゃん」
「はいはい」
母は戸棚から小さな布の袋を取り出し、父に渡す。
そして父がその布の袋を私へ渡してきた。
「いいか、冒険者ギルドに行くと、その街での働き口が紹介されているはずだ。
こちらは仕事を貰う身だけど、しっかり選んで仕事を受けるんだぞ。
お前はまだ若い女だという事を忘れるな?」
「うん、冒険者ギルドね、わかった。ありがとう。ふたりとも。
お金も、大事に使うね」
「幸せになるんだぞ」
「ありがと、・・・ごめんね」
しんみりした後は、母が明るい話題を出してくれて、楽しい夜となった。