【第37話】ハインとの再会
勢いよくドアが開く。
「ハイン、ひさし・・・」
「ユイ!!」
「きゃ!?」
挨拶をしようと口を開くも、勢いよく入ってきたハインにより抱き締められてしまう。
後ろのと兵士さんと目が合う。
困った顔で、申し訳ない!と手を合わせられる。
(ぬはっ!?)
この人生で初めて男性に抱きしめられ、しかも相手がハインだったので、不覚にも腰が砕け落ちそうになる。
かろうじて砕け落ちなかったのは、ハインがずぶ濡れで冷たくて、その状態なのに抱き着いてきたハインにちょっとした不快感を感じたからだ。
「ど、どうしたんですか、ハイン? ずぶ濡れですよ」
しかしこのままでは話も進まないと、私は体が熱くなるのに耐えながらなんとかそう言葉を切り出す。
「・・・ユイ、無事で良かった、本当に」
ダメだこりゃと聖女スキルを使いハインと、一緒に来たであろう兵士さんたちを乾かす。
一瞬のことで、しかも感触なんて無かっただろうからハインは気づかないだろうし、
兵士さんたちは気づいても不思議な顔をするだけだった。
「えと、ご心配お掛けしましたね、すごく」
そういいながら、継続してしばらくの間ぎゅうぎゅうと抱き締められる。
「ユイ、聖女の里に行っていたのか?」
みじろぎを繰り返し、ハインより身体を引き離すとそう問われた。
「ん、あそこってそう言う名前なんですか?」
「ああ、やはりか」
ハインは私の反応で状況を察したようだ。
私の認識ではあそこは試練所という名前だったが聖女と言われてピンときた。
「聖女になったものは、ある一定の期間を置いた後に突然居なくなるそうだ。
そしてきっかり1年後に戻ってくる。
恐らくユイは前の町ですでに聖女になっていたのだと思う」
「なるほど・・・心当たりはあります。
メロウさんの家に住み込みを始めた頃なんですけど、
ある日の夜、とても体が熱くなったことがあって。多分その時かな?」
「体が熱くか。きっとそうだと思う」
(・・・というか)
ハインは引き離されてはいるが、まだ手が自分の腕をつかんだままで、目の前50cmの位置に顔がある。
「あ~もう、居なくならないので・・・」
「ん、ああ・・・そうだな」
ハインはようやく手を放してくれた。
オーナーが促し、3人でイスに座る。
兵士さん達はドアを閉めて下に降りて行った。
私が居なくなった当時、一番最初に異変に気付いたのはオーナーで、
私がハインと別れた次の日だった。
というのは、正装をしたハインに連れられて行ったからだ。
だから、もしかして、とほっといたらしい。
しかし次の日の昼になっても顔を出さなかった為、
ユイらしくないなと思い、念のためにハインに連絡を入れ事態が発覚したそうだ。
「さて、どうしようか」
「ん?」
「今後の話だ。もしよければうちの国にいてくれないか?
どういう待遇でとかは、今後考えていくとして・・・だな・・・いてくれると嬉しい。
いてくれると・・・うん、助かる」
珍しくもじもじとし出したハインに私は耐えきれず、
「じゃあ、私をハインのお嫁さんにして下さい」
と言ってみるテスト。をしてしまった。
よく考えたらハインは王子らしいし、無理か?
しかしハインは「なに!?」と立ち上がった。
「おおっ」とオーナーも立ち上がる。
「ど、どうですか?」と私もつられて立ち上がった。
「いい! それはとてもいい考えだ!><」
「わっ」
ハインは私の手を取った。
「・・・やはりこの指輪はただの男除けだったんだな?」
「え? ああ、そうですよ、気にしていたんですね?」
「正直言うと、かなりな」
「・・・紛らわしいマネしてごめんなさい」
私は指輪をすっと外しテーブルに置いた。
「いや、そのおかげでほかの男からも声がかからなかったという事でもあるだろ?」
「ん~そうかな? 効果あったのかな」
「あったさ。 ああ、本当は俺から言えればよかった」
やはりハインは私に気があったようだ。
これまで散々アプローチ・・・控え気味だったけど、その気配はあった。
アプローチと言えば。
「そういえば、私の部屋のクローゼットは、ハインが?」
「そうだ。詫びにもならないが、何かしないと俺がもたなかった。
服を選んでいるときすごく虚しかったが・・・何かユイにしてやりたかったんだ」
「そうなんだね。
まあ、これからは多分どこにも行かないから、よろしくね?」
「ああ、こちらこそ、もしかしたら王妃というところで少し面倒なこともあるかもしれないが、
極力そういう事は排除するし、避けられないときにはちゃんと相談もする」
「わかったわ。
私も聖女ってところで面倒があるかもしれないけど」
「うむ、そこは覚悟の上だ」
「とうとう・・・おめでとうございます」とオーナー
「ああ、いろいろすまなかったな」
「いえ、私にはまだまだ返しきれないほどの恩もありますから」
私はオーナーを見てふと要望が浮かんだ。
「その、ハイン?
結婚してからもここで魔道具をいじってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
「そっか、よかった」
「はは、それは私も、宿の者たちもみんな喜びますよ」
「よかった」
「これからもこの宿の魔道具の事はユイさんにお任せしますね」
「はい、任せてください」
私はにこりと笑ってそう言った。




