【第34話】空側から帰ります。
(え、なに?!)
私は聖女スキルのひとつを使い空を飛んでいた。
歩きなんてあり得ないし、道も分からないからだ。
狼の聖獣の背中に乗って数日走り続けてたどり着いたのだ。
人の足だとどれぐらいかかるんだ。
それなら何となくこっちだろうという方向に飛んでいき、軌道修正すればよかろうと思ったわけだ。
では私が何に驚いたのかといえば、地面が途中から肌色に変わったからだった。
何も邪魔するものがないことを確認して地面スレスレまで高度を下げると、予想した通り、それは砂だった。
「あ、砂漠化」
上からは分からなかったが、枯れた木や葉っぱもいっぱいあった。
あの逃げ延びた洞窟の前も半ば砂に埋もれていた。
もちろん沢山いた人たちも居なくなっていた。
少し嫌な予感を胸に更に進んでいくと、国は川の水を堀のようにしていたからかまだマシに見えたが、壁の内側は半ば砂にのまれていた。
砂漠になったせいで川の水位は下がっていたが、まだ水はしっかりと流れている、不思議な状態になっていた。
(なにこれ)
呆然として、ぼんやりとマスタドの街を空から見下ろす。
街の中まで砂漠化が進行しているのか、砂嵐か何かで地面に砂が積もっているだけなのかは判断できないが、
北東側が特にひどいように感じた。
人を探してみる。
あれだけ人が闊歩していたのに、今は全く見当たらず、
滅んだのかと思ったが、良く見たら10人ほどが色んな場所で道の砂を掃いていた。
(いや、どちらにしろもう滅ぶ一歩手前じゃん、これ)
このままだとこの街はいずれ砂に埋まる。
最初から砂の国というならまだ平気なんだろうけど、こんなに短期間で砂に埋まるというなら話が違ってくる。
一年前は少なくとも街の中に砂はなかったし、壁の外も草木こそ多くはなかったけど、ちゃんとした土の地面だったはずだ。
(砂漠化の進行が速すぎる)
ぼんやりとしていると、風に乗ってきた細かな砂が目に入って涙が出た。
聖女スキルで風と砂を遮断し、聖女スキルで目から砂を取り出す。
(痛たた・・・
まあこれだけ荒れたらもうここに聖女は居ないと判断して、引き上げるわな)
街に入る門は閉められて、門番の姿も外には見えなかったので、聖女スキルで姿を消し、壁の内側に着陸する。
そして姿を表し何もなかったように街を歩く。
上空に比べて風は穏やかだった。
屋台や人の往来がなく、そのせいでアミさんアユさんの2人や、
ハインとよく歩いた街なのに、今どこにいるのかちょいちょい分からなくなりそうになる。
古い記憶と、備え付けの看板などを目印に道を進む。
【営業中!入ったらすぐにドアを閉めてください】
本屋のドアに貼ってある紙にはそう書かれている。
(一応、やっている店もあるんだね)
屋台は全滅してるけど、建物の中でモノを売っているお店はやっているようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お」
しばらく歩いてようやく目的の場所についた。
宿屋もちゃんと営業していた。
1年ぶりだと思うと気後れするけど、意を決して中に入る。
フロントにはメルという男性従業員がぼんやりと帳簿を見ていた。
「どうも~ユイですぅ~今戻りました~」
思ったより気の抜けた声が出た。
「え! ユイ!? 無事だったのか!?」
メルさんががたりと立ち上がった。
奥から何人かが反応して歩いてくるのが見えた。
「はい、ひどい目にあいましたけど、なんとか戻って来ました!
砂、すごいですね。びっくりしました」
「良かった。
砂は・・・そうだな。
まあ、そうなんだけど、ユイ、帰ってきたばかりで申し訳無いが、
自分の部屋に帰る前にとりあえず、オーナーの所へ顔を見せやってくれないか?」
「そうですね。分かりました」
数人がやってきて、かるく挨拶をした後メルさんに促され、オーナーの部屋に向かう。
何と言われるだろうか。
まあ言うしかないな、ありのままを。
コンコン。
「はい、どうぞ」
「ユイです」
「え!ユイさん!?」
ガチャリ
ドアを開けると席を立ちこちらへ向かおうとするオーナーがいた。
懐かしい。
「えっと、ご無沙汰しておりました」
「ほ、本当にユイさんだ・・・」
「はい、どうも、なんとか戻ってこれまして。
一応無事には過ごしておりました。私は元気です。」
私は元気であることを示すために、両手を自分の胸元に持ってきて、小さくガッツポーズを取る。
私はまだやれると示すファイティングポーズともいう。
「そ、そうでしたか。元気そうで良かった・・・」
オーナーは私の無事と帰還を喜んでくれた。
「みんなで心配していたんですよ。
ささ、どうぞ入って下さい」
「失礼します」
「そうだ、ハインさんに、ユイさんが戻ったことをお知らせしてもいいですか?
約束しているんです、戻ったら何よりも先に知らせると」
「お手数お掛けしますけど、お願いします。
あ、では自分の部屋に戻っていますね」
オーナーが知らせに部屋を出たら自分だけになってしまうので部屋に戻ることを伝えた。
「分かりました。
お疲れでしょうからゆっくりしていて下さいね。
食事も持っていくよう伝えておきましょう」
「ありがとうございます!
この一年、果物とお菓子しか食べるものなくて!」
私がそういうとオーナーは驚いた顔をした。
私は外套に手を伸ばすオーナーに会釈をしてから部屋を出た。
「では後程」
オーナーもすぐに追い付いてきて、部屋の前で別れた。
ハインにもやはり、心配を掛けたようだ。
あの日仕事があるというハインを見送って、その後に行方不明になったからなぁ。
もしかしたら責任を感じて自分を責めたかもしれない。
そんなことを考えているうちに自分の部屋に到着した。




