【第30話】聖女の里(1)
次の日。
「い、いたた・・・」
固い枝の上にまたがり、固い幹にもたれ掛かって、ほほを寄せて寝たせいで色々とからだが痛い。
「うう、
・・・とりあえずモンスターにはどこも齧られていないようだ。
って、え? 何?」
姿勢を変え、痛みが和らぐのを待つしかないと、体を動かしていると周りの異変に気付く。
なんと地面が水没していたのだ。
「ど、どういうこと?」
唖然とし、ぼーっと地面もとい、水面を見る。
きらきらして綺麗だ。
そういえばすぐ近くに海があり、昨夜は月が反射して綺麗だったなあと思い出す。
「これ、海水かぁ」
水位は自分の腰ほどはありそうだ。
これなら追っ手もすぐはこちらに来ないだろう。
しかしそれは自分にも当てはまって、このまま降りて先を目指しても苦労の割りに、
あまり進めなさそうだし、風邪を引きそうだ。
もう少し待ってみようかな。
昨夜は水がなかったとなると、もう数時間待てばマシになるかもしれない。
こんな地形ならモンスターも居なそうだな。
または水が来るとともに移動するとか。
そう考え、しばらく木の上で体制を変えながら、立ったり座ったりをしながら過ごしていると、
ぼしょん、ぼしょんと、遠くから水の中を無理やり、力強く掻き分けるような音がし始めた。
かなり力強く、音の大きさからも人間ではないことは明らかだった。
(私が進んでいた方向からだ。もしかしてモンスター?)
しかもどうやらそれは、まっすぐこちらへ向かっているようだ。
(ばれているの?)
よじ登っている木の枝や葉で、完全には見えなかったが、
四足歩行の白くて巨大な何かがあと少しでこの木の下まで来るのが分かった。
(むう・・・)
昨日から非現実なことが起こりすぎて、もはや恐怖とか、
なんの感情も分かず良く分からないため息を付く。
それよりも昨日、あのまま地べたで寝なくて良かった、
などとどうでも良い(良くはないが)ことをポケッと考えていたくらいには冷静(?)だった。
ぼしゃん、ぼしゃん。
それは一定の速度、一定のリズムでそのまま、すぐ足元まで来た。
(犬だ。でかい。馬よりでかい。あ。)
犬がふいに顔を上げ、目と目が合う。
(綺麗な目)
白くて大きい犬は、透き通った水色の目をしており、その奥を覗きたくなるような魅力があった。
数秒間、じっと見つめ合ったあと、犬は自分のからだの向きをくるりと180度変えてからまたこちらを見た。
その目、表情は獲物を狙うものとは違い何かを訴えかけているかのようだった。
(獲物を狙う時ならひとうなり、ひと吠え位はするはずだ。多分。)
しかし目の前の大きな犬は、ただじっとこちらを見ているだけ。
その体制つらそう。
(あ、背中に乗れと?)
位置的にもそうだし、目がそう促しているように感じた。
ロープを枝に回し、ゆっくりと降りていくと、大きな犬は自分の体を幹の方に寄せてくれた。
私はその背中にそっと足を掛け、ようとして、土足はなんとなく嫌だったので片方づつさっと靴と靴下を脱いで腕輪の収納に放り込んでから背中に降りた。
(あ)
ロープは回収でき無さそうだ。
「失礼しま~す」
犬はこちらが安定して座れたのを確認したのか、ゆっくりと歩き始めた。
普段からこの森はこうなのだろうか。
犬は歩き出したけど、私はこのまま乗っていて大丈夫なのかな。
そんな事を思いながら海に水没した森を大きな犬にまたがり進んでいく。
ぼしゃん、ぼしゃん。ぼしゃん、ぼしゃん。
海水の中につま先を入れてみる。
冷たい。
「~~」
「ん?」
ふと遠くから聞こえる人らしき声に気付く。
私が振り向こうとすると、大きな犬は足を止め、ゆっくりと体の向きを90度ほど、変えてくれる。
かなり遠いところに小舟がいくつも浮かんでおり、木の上を覗き込む様子が(ギリギリ)見て取れた。
「うわ」
こちらに気付いている様子はないが、明らかに自分のことを探しているのが分かった。
今またがっている大きな犬のがやってきたときとは違い、不安が心を支配する。
私は大きな犬の背中を、早く行ってちょうだいと、ポンポンとたたく。
すると大きな犬は進んでいた方向に体を向き直し、歩き始めた。




