【第29話】ユイ、さらわれる(4)
(ここだー)
私は避難する人たちの列にさっと割り込んだ。
割り込むとは言ったが、前を歩いている人と、
その後ろを歩いている人には、そこそこの間があったのでトラブルにはならなかった。
そのまま洞窟にはいる。
(わっ)
洞窟の中にはたくさんの人と、それぞれの荷物で左右の壁際は埋まっており、
あとから入った人はどんどん奥へ進んでいく感じになっていた。
暗いけど、洞窟の内部がぼんやりと発光しておりなんとか進めた。
私に対して警戒するような視線を送る人もいたが、なにも言われることはなかった。
どうやら私が目を合わせてしまい、少しの間、相手の反応をうかがったのが良くなかっただけのようだ。
(失礼しましたー)
目をそらし、洞窟の先を見ると微かに光が見えた。
投げ出された足を踏まないように気を付けながら進む。
(わお)
しばらく進み洞窟を抜けると、海に出た。
光っていたのは月の光を海が反射したものだったようだ。
ここは日本でいう東京湾のように内海の地形になっており、
もう少し海側の方では漁業もおこなわれていると聞いている。
アミさんとアユさんの出身の村は外海の方と聞いているので、残念ながらこの近くではないだろう。
(っと)
あとから来た人に押される形で広場まで歩く。
ここなら平気だろうと、また立ち止まる。
今度は海だけでなく、周りを見渡してみる。
洞窟のある山肌にもそれに沿うように粗末な家が並んでおり、そこから何事かと向けられる視線が居心地悪い。
(唐突に始まった聖女の争奪戦で身の危険を感じて逃げて来た人たちなんです。どうかご容赦を)
なんてことを他人事のように心の中で呟いてみる。
みんながそれぞれ、適当なところで座り始めた。
荷物を枕に、横になっている人もいる。
(私が男なら気にせずこの場で寝転がれたのかもしれないけど)
自分に集まるギラギラとした複数の視線を避けるように私は歩き出した。
(大変だなぁ・・・)
ある程度歩いた後にちらりと振り返ってみるも、どうやら追いかけてくる訳ではないようだ。
(うおぅ)
人気のない所まで来てようやく不安に襲われた。
引き返すか少しだけ悩んだが、先程の視線を思い出しあきらめた。
幸いにも、腕輪に財産と呼べるものはほとんど入っている。
食料は、ハインから貰ったお菓子が沢山入っているし、私がお気に入りで買っているどら焼きっぽいお菓子や鈴カステラっぽいお菓子も入っている。
節約して食べればかなり持つだろう。でも甘いものだけなので私の方が持たないかもだけど。
それなら戻って、私の高級な持ち物を見られてトラブルになる方が面倒だ。
このままこの人気のない場所でやり過ごそう。
そう考え、洞窟とは逆に向き直り、歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(そういえば)
とぼとぼと歩きながら色んなことを考えていると、あることに気付いた。
あの時、街で呼び止められた際、完全に私の顔も名前も割れていた。
ハインには様付けしていたけど、こうなったらあの人は完璧に他国のスパイだ。
杯の確認の時に居たんなら、そうとう長く勤めて信頼を得ていることになる。
完全に入り込まれてるじゃん。やばー。
これは兵士さんだけとはいわず、お城の中にもまあまあ居ると考えて問題なさそうだ。
まあそれは今考えても仕方ない。
つまり、彼らは逃げ出した私を、マスタドの街に入る前にとらえたいはず。
彼らとしては、ハインに匿って貰らわれたら、任務が失敗に終わるからだ。
まあ私が聖女かというのはまだ半信半疑というか、自分でも分からないというのが本音だけど。
(これは、ほとぼりが冷めるまでは街に戻れそうにないな)
聖女争奪戦。
この感じだと、見つかるまでずっと街を見張っていかもしれない。
そして恐らくは、次はもうあんな悠長に会話なんかして貰えなくて、
有無を言わさず馬車に乗せられてしまうと思う。
(初回から抱えられての乗車だったもんなぁ。思い出すだけで震え上がる思いだよ)
多分スパイも増員して、街の外にも街の中にも沢山仲間が配置されるんだろうな。
宿屋で働いてるのも知ってそうだし、長期滞在者として宿に泊まり私が戻ってくるのを待ってる、何てことだってあるかもだ。
(これは一旦、別の街に移り住んで、そこでしばらく生活してから戻るくらいのスパンになるかもしれないぞぉ・・・)
「はあ」
心もとない月明かりの下を一時間ほど歩くと、今度は睡魔が襲ってきた。
(ううう)
いつもなら自分の部屋で本を読んだり、ゆっくりした時間を過ごしているころだが、今はずっと歩き通しでヘトヘトだ。
今すぐにでも横になりたいが、ここでモンスターに襲われたら命はないだろう。
ふと、すぐ横の木を見ると、立派な枝が月の光でスポットライトに照らされるように目立って見えた。
この木でいいやとよじ登る。
枝に到達するとそこにまたがり、ロープで幹と自分を結んだところで耐えきれなくなり目を閉じ意識を手放した。




