【第02話】村を出る決意をする
村長の家の前の広場につくと、親はほかの大人の所へ行ってしまい、ぽつんとなる。
前は相方がいたけど、今はもういない。
ぼんやりと談笑している人たちを見ていると、ほかの村娘が数人でやってきた。
「ユイ、釣り合わなくなったね、かわいそう」
「かわいそう」
ああ、悪口を言われたのかと理解、無視を決め込む。
私が無視をするのはよくある事なので、
村娘たちはクスクスと笑いながら離れていった。
私がこの村でおとなしいと思われている原因は、大半がこれだ。
転生する前の私が子供を持っていてもおかしくない年齢だった事もあり、ケンカする気になれないのだ。
昔、一度だけ言い合いをしたことがあるが、何やっているんだろう感がすごくて虚しくなった。
それからはずっとこの対応をしている。
心の中では文句ばっかりだけど。
(なによ。ここはほのぼの村じゃなかったの?)
とこんな感じで。
もちろん、そんな名前の村ではない。
ここはマカニロ村だ。
追い討ちをかけるように他の幼なじみの子からもここぞとばかりに嫌味を言われてしまった。
都会に行ったら垢抜けた子に取られるよ。とか。
ここには慰めてくれる友達はいないの?
いないか。
そんなの、言われなくてもわかるよ。
日本でだってそういう話はいっぱい聞いた。
ラノベでだけど。
”勇者”なんだもん、ちやほやされて、
モテモテになるだろうから、口が回るだけの私なんて相手にする意味ない。
「はー」
悔しいけど彼は戻ってこないだろうな
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鑑定と相方が旅立った日から数日がたった。
(う~ん)
あんなにのんびりした村だったのに、急にみんながそわそわし始めて
正直居心地が悪くなってしまった。私への視線ももれなく痛い。
村長が村の家を全部建て替えるという決定をしたらしい。
なんでも、勇者の生まれた村がこれでは恥ずかしい、って理由らしい。
これから畑仕事以外の時間は村中の家を建て替える為に集まるって言ってたけど、自分たちで建て替えるの?
それじゃあ取り壊した後に、今と同じ家がたつでしょうに。
雲行きが、ひじょうーに怪しい。
こうなるとせっかく忘れようとしていた原因の、勇者を引き当て出て行った相方がうらめしい。
「そろそろ行かないとか」
村の女の子は布の染物を覚えさせられるらしい。
村に来た人に売るためらしいのだが・・・。
うちの村の横を通る川は、通常飲料水や畑に使う水をここからくみ上げるので、染物をする場所が村から出て、
畑のエリアが終わった場所でやる必要がある。遠い。
怒りが収まらずに誰に入れ知恵されて暴走しているのか探ってみたが、ちゃんと村長だった。
(こんな忙しい村は嫌だー)
私だけゆっくりしていたら怒られるからできないし・・・。
「ねえおとうちゃん、無理じゃない?」
「何を言ってるんだ、お前も関係ない話ではないぞ」
眠れる獅子系男子のおとうちゃんも、今回ばかりはやる気を出すようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はあ、私、ここ出ていこうかな」
「何を言ってんのよ、あなたはもう安泰なんだから、
ダメに決まっているでしょ」
村人はダメなので、染物を教えてくれているおばちゃんにそうこぼしてみた。
逃がしてくれる場所を教えてくれないか、ちょっと期待したがダメに決まっているらしい。
そして巡りめぐってこの発言を聞いた村長より正式に村を出ることを禁止されてしまった。
(しかしなあ・・・)
あの後、相方の家に挨拶をさせにいかされたけど、すごい微妙な感じ出されたんだけど?
そしてそれを見ていた、ほかの幼なじみたちからはひがみやらで笑われてんだ。こっちはよう。
「じゃあ、悪いけどそれでいいね?」
「はい、それでいいです」
ある日外でボーっとしていると、勇者の両親がやってきた。
どうやら息子にはお金持ちのお嬢様との結婚を望んでいるようで、
もしそういう子を連れ帰ったら、私に身を引くよう言われた。
さすがにそこで自分が!というタイプでもないので身を引くことを伝える。
相方の両親は満足そうに帰っていった。
といった感じで周りがわたわたしすぎて、スローライフどころではない。
あと、鑑定の日から数日たって違和感の正体に気づいた。
今更だけど、私の前に相方が鑑定をして、勇者と分かってからの騒ぎで教会の一行は
そのまま王都に引き返していったので、私だけ鑑定が行われなかったのだ。
これにも腹が立っている。
そう、行われなかったのだ、鑑定、私がラストだったはずなのに!
我こそはという子たちに譲って、遠慮して後ろに並ばなければよかったよ。
で、この事実、村の大人子供は誰も気づいていない。
私の親さえもだ。
まあ、私も数日経って気づいた。なんでだろ。
うちの村はお金がないから三年に一回しか教会の人呼べないってのに・・・
みんなはずっと勇者の話してる。
勇者は東西南北に1人づつ出るらしい。
それぞれ得意なことが違うらしいよ。
そんな話を私以外が毎日している。
私のことは、誰も見ていないんだと思って悲しくなった。
私はひそかに村を出る決意を固めた。