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転生聖女さんの無自覚な軌跡  作者: ゆめのなかのねこ
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【第25話】黄金の杯(3)

「死ぬまで閉じ込められて生きるなんて、死んでいるのと・・・いえ、死ぬよりつらいことだと思います。

 私がそうかはわからないけど、念のために隠れるか、

 ほかの国に避難しておいた方がいいですか?

 というか、今しているのはそういう話ですか?」


「いや違う。

 それと今から逃れるのは無理だろうな。

 この街から出る人間は全員調べられる」


「男装してみたり?」


「男もだ。男装はやつらも考慮している」


「あの、ハイン、それで私はどうすればいいの?」


「・・・俺たちなら守ってやることができるんだ」


ハインは真剣な顔でそう言ってくれるが・・・。


「で、これがそうだ」


コトリとテーブルの上に置かれたのは金色の高さ、幅ともに5cmほどの

小さな黄金色の杯だった。


小さな優勝トロフィーのようにも見える。


「あ、あるんですね、調べるアイテム。ですよね?」


元婚約者のPTが昔メロウさんのお店に来た時の話を思い出す。

彼らはこれを探していたのだろうか。


「そうだ。

 なんとか1つ手に入れることができた」


「へぇ、沢山あるんですね」


「ああ。全部で99個あるらしい。

 大半は教会が収集して聖女を探す際に諜報員に支給されるんだが、

 争いになって破れたりすると、それは教会に戻らずに人の手を渡るんだ。

 それで、これにさわるだけでいいらしいんだが・・・」


ハインはそういって杯をこちらへの方にすっとよこしてきた。


「・・・え、なんか緊張するんですが」


「そうだな、俺は頑張れとしか言えない・・・」


これは、勇気がいるぞ。


こんなに兵士、しかもちょっと上の位の感じがする人たちに囲まれて、

盗聴防止魔道具まで用意されて、聖女だったらどこへ連れて行かれるんだろう。

触ってなんでもなかった、であったとしても怖い。


黄金の杯を目の前に戸惑(とまど)っているとハインが口を開いた。


「ユイ、俺はな、この国の王子なんだ」


「へ?」


貴族だろうなとは思っていたが、まさかの王子だった。

そういえば王城がこの街にはあるが、そういう事なのか。


「だから、もしそうだった場合、守ってやることができる。

 ユイが嫌でなければ。

 教会やほかの国に捕まったら外に出られないが、俺に保護された場合は護衛付きで

 町を歩いたり出来るようにする。

 その場合には今まで通り、俺も一緒に行く」


「うれしい。

 でも、違ったらって、そっちの方がこわい」


「いや、むしろそっちの方が都合がいいさ」


「そう、なの? じゃあ・・・!」


私はにこりと笑ってから黄金の杯に触った。


聖杯は何の変化も起こさなかった。


「あ、あれ」


私は杯を持ち上げ、ぺたぺたと触ってみた。

杯の内側にある、丸く盛り上がっている部分も押してみたが、

それでも何の反応も見せなかった。


「・・・なにも起きませんでしたね、ああ怖かった」


ハインの顔を見ると破顔していた。

なにわろてんねん!


「いや、よかった。

 すまない、俺たちの勘違いだったようだな、くくく」


「・・・いえ、心配してくれてたのは分かってますから」


(めちゃくちゃ嬉しそうじゃん)


「ハイン、は、王子なのにいろんな国にクエストで行ってたんだね」


「ああ、この国はいろいろと苦しかったからな。

 ほら、気候変動やら砂漠化ででた損失を埋めるためにねん出が続いていたし。

 それに王子でないと入れてもらえない場所なんかもあるし、まあ、会えない人とかもいるんだ」


「ああ、なるほど」


「ユイ、休みの日にすまなかったな。今度埋め合わせをする」


「いえいえ、今でこそですけど、ちょっとドキドキして楽しかったなって」


私はそう言って杯をハインの方にどうぞと返した。

そういえばどういう仕組みなんだろう。

中が気になった。


仕組みがあるとしたら杯の台座の部分だろうか。

確か特定の魔力に反応するとメロウさんは言っていたな。


私がよこした杯を、お偉いさんぽい兵士さんが横から持ち上げ木箱に収める。


「では、我々は先に出ています」


「ああ。すぐに向かうから外で待っていてくれ」


「はっ」


兵士さんの1人がてきぱきと盗聴防止用の魔道具を停止させ、

回収していく横をお偉いさんぽい兵士さんが杯を持って外に出る。


「お嬢さんも白だった」


外からはそんな声が聞こえた。


「そうだこれ、検査が終わった人に配っているブレスレット。

 着けておけばダブって検査されることがないから楽だよ」


「ほうほう」


疑問が生まれた。

とりあえずこれを渡しておいてくれればよかったのではと。


「普通カモフラージュなんかしない。

 もし見つかったら、そのまま連れていくからな」


「ああ、それもそうですね」


「今の場合、護衛つきでそのまま王宮に連れて行かなかった時点で白と判定されるだろう」


「白って。

 もしかして今も見られてるの? 諜報員さんに」


「ああ、見ているだろうな、もちろん、直接この部屋にはいないだろうけど」


「そっか。怖いなあ」


「大丈夫だ。ユイがこのまま解放されたら襲われる理由はない」


「そうだよね、どうどうと帰宅したらいいんだね」


「そうだ」


ギルドの外に出ると兵士さん達がいた。


「みんなありがとう、聞いているとは思うが、違ったみたいだ」


(ん? あの人、へんなメガネしてるな・・・何かの魔道具だろうか)


「じゃあユイ、また会いに行く」


「ん、うん、待ってる、ばいばい」



いやあ、ハインは王子様か~。


私はこの後、仕事があるというハインとギルドの前で別れ、帰り道で(さら)われた。

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