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転生聖女さんの無自覚な軌跡  作者: ゆめのなかのねこ
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【第23話】黄金の杯(1)

「ユイ」


ハインが来た。

前回から日が経っていないのにと思ったら。


いつものようにオーナーの応接室で3人がテーブルにつく。

ハインがそわそわしている。

何かを心配しているように見えた。


「それでハイン、何かあったの?」


「ああ、ユイ、落ち着いて聞いてほしい」


「落ち着いて? はい、落ち着いてます」


「そうか。

 ユイ、メロウが亡くなったとギルド経由で連絡が入った」


「え!」


メロウさん、私の師匠。


村から出て住み込みで働かせて貰っていたグエツの魔道具の修理屋さん。

突然のことに思考が停止してしまった。


「安らかな死に顔だったそうだ」


「や、・・・そうでしたか。苦しんでないなら、よかったです・・・」


ああ、最後は元気そうにしていたのに。

でもつらいと言っていた。薬も効かないって。

もうか。早いな・・・。


だんだん目の前が真っ白になっていった。


(・・・あれ?)


ふと視界がぐらぐらしてきて、意識を現実に引き戻された。

気づいたらハインが私の頭をなでていた。


ハインもオーナーも配そうにこちらを見ている。

私は空いていた口を閉じる。


「失礼しました。知り合いが、えと、こういうのは初めてで」


思えば前世でも、おじいちゃん、おばあちゃんはまだ健在で、

近しい人の死というのは体験したことがなかった。

いや、メロウさんは近しいどころではなく家族のように感じていたから、それ以上だ。


私は表情の抜け落ちたひどい顔をしていたかもしれないなと顔をもみながら、

なんとかそう2人に伝える。


「仕方ないさ」


「お茶を入れましょうか」とオーナー


「ああ頼む。

 ユイはメロウと一緒に暮らしていたんだ」


「おやメロウさんと。そうでしたか」


入れてもらった紅茶を飲み、事実を受け入れられた後は

ハインからそれ以外にも元住んでいた街、グエツで起きたことを教えてもらった。


私のことを気遣って、いろいろと話をしてもらったようで、

本当は話す予定がなかったものも話してくれた感じがあった。


「グエツで言えば、聖女がグエツに出現した可能性があるという事で一斉に捜索が行われたそうだ」


ちなみに先ほどから出ているグエツという名前だが、

もっと正確に言えば、シオコツ王国 地方都市グエツで、

私がメロウさんのお店兼住宅でお世話になっていたかなり大きな街だ。


ついでに言えば私が生まれ育った村がドリアー王国 マニロカ村。

ここはそこから2つ国境を越えたところにある、砂漠化が進む国コーンドルグ王国 マスタド。


「へぇ聖女さんがあの街に。

 そういううわさは全く無かったから、私と入れ違いになったのかな。

 ハイン、聖女ってどんな人か分かってるんですか?」


私は紅茶を両手に持ち、ふうふうと冷ましながらハインに聞く。


「いや、まだだ。

 聖女に反応する魔道具があって、

 教会本部がそれをもっていろんな女性に試しているそうだ」


「へぇ。どういう仕組みなんだろ」


「詳しいことは分からない。

 しかしずっと聖女をかこっている教会だ、

 そういうものを持っていても不思議ではない」


「ああ、なるほど、確かに」


その後しばらくお話をしてからハインは帰っていった。


大変だなあ。いろいろと。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



それから2日後、またハインが宿に来た。

いつもと違い、ピシッとした格好だ。

王子様かと思った。

正直かっこいいと思った。


「ユイ、元気か?」


「気にして貰ってありがとうございます。元気でしたよ」


私はにっこりと笑ってそう答えた。

メロウさんの死を伝えられた時、あまりの顔をしていたのか心配されたようだ。


「みんな気にしてるさ。

 ところで今日はどこかで話をしたいことがあるんだ」


「いいですよ。

 宿の外ってことですよね?」


「ああ。それと今回は俺一人じゃないんだ」


「え? 誰ですか?」


「部下たちだ」


「え? 部下? 何かあったんですか?」


こわっ。部下とは?


「それもついてから話したい」


ハインの顔を見る。

とてもまじめに、そして少し不安そうな顔をしている。


「では行きましょうか。今日、休みなんです」


外に出ると兵士さんがいた。

部下とは兵士さんたちのようだ。


かなり不安になったけど、「大丈夫」と言われついていく。

兵士さんの様子からは確かにそうかもしれないけど、怖っ。


連れてこられたのは今の仕事を斡旋(あっせん)してくれた冒険者ギルドだった。

知らない場所ではなくちょっと安心する。


でもちょっとだ。

私はメロウさんから貰った右腕に装着している収納の腕輪を左手で隠すように握りしめた。

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