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転生聖女さんの無自覚な軌跡  作者: ゆめのなかのねこ
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【第19話】採用してくださ~い(2)

ランプをくみ上げ、机の上にコトリと置いた。


しかし誰も言葉を発さない。

じっとこちらを見つめるのみだ。


私は3人を順番に見ていく。

こちらの言葉を待っているようで、口を開くのをガマンしているのが分かった。


「こほん。

 えーっとですね、回路の途中が弾けて途絶えていたので

 回路をもとの状態に戻したところ、無事修理出来ました」


小さくパチパチと拍手が起きる。


結果のあとは原因の説明だ。

メロウさんから教えられたとおりの順番で話を続ける。


「何かの原因で急に多くの負担がかかって、耐えきれなくなったように見えました。

 その根本(こんぽん)の原因が解消されないと、また同じことが起こると思います」


そう言い切るとまた3人が拍手をした。


「なるほど、よく分かりました。

 それと原因の特定から修理までの流れるような作業もお見事でしたよ」


そいいってオーナーは私の横の2人に顔を向ける。


「ユイちゃん、立派だったよ~」


「ありがとうございます」


「うん、ユイにしてはりりしかった」


「なんでよ!」


2人とも褒めてくれた。


「実はうちの宿ですが、ちょくちょくこの状態になるランプがあるんです。

 その根本の原因というのは、ユイさんは直せますか?」


「・・・いえ、こういうランプであれば教わったので分かりますが、

 今回のコレは、恐らく建物側の、壁の中に埋め込まれている何かだと思います。

 そうなると私の知識とか、持っている道具では対応出来ないです」


「なるほど。ふむ」


私が直したランプを撫でながらそう言うと、オーナーは少し考え始めた。


採用とはいわれているので、それとは違うこと考えているのだろうけど、場がしんとなる。

大体10秒ほどしてオーナーの意識が帰ってきた。


「これは失礼。 いやぁしかしいいウデマエでした。

 そして自分の出来ることもちゃんと分かっていて、

 出来ないことは、出来ないと言える。本当に立派でしたよ」


「え?」


まるで小さな子供を褒めるような猫なで声に言葉が詰まってしまう。


「それと一番感心していたのが修理している時の静かさです。

 前に何度か修理の様子を見せて貰った事がありますが、

 カチャカチャと金属同士ぶつかる音が気になったんですが、

 ユイさんはとても丁寧にやっていましたねぇ」


「・・・はい、あの中にあった基盤というのは人でいう内蔵のようなものです。

 できる限りの傷を付けないよう教わりました」


「ほうほう」


「小さな傷でも人によっては気になるもの、どこでケチがつくか分からないし、

 そもそも修理で持ってきたものなのに傷を付けて返すなんて意味が分かりませんし」


「なるほど、とてもいい師に付いていたようですね」


師であるメロウさんを褒められ、また緊張していたのもあり思わず破顔した。


「いい笑顔ですね」


「あうう、恥ずかしい・・・」


実際メロウさんが私に魔道具の扱いについて教えてくれたのは暇潰しの道楽であり、

関係は師匠と弟子というよりはお茶友達だった。


でもちゃんと治せたことに天国のメロウさんに顔向けができたことを誇らしく感じた。

(まだ生きとるわい!)というメロウさんが目に浮かんだ。



「これをこの街の魔道具屋に持っていくと、調べる前からすごいお金を請求されるんですよ」


「調べる前にですか?」


「ああそうさ、ひどい話だろ?

 しかもお金と物を渡して、じゃあ1ヶ月後に来てくださいだよ、

 横暴もここまで来ると怒りより呆れが先に出ちゃうよね」


これがこの国での常識・・・ではなさそうだな。オーナーの様子からすると。


「さて、こうやってまた明かりが灯った。

 あの魔道具屋に支払わなくて良くなった幾分かをユイさんの給料に上乗せしよう」


「え! 本当ですか!?」


「はい。何か、材料も消費したみたいだしね」


「あ、そうなんです、助かります!」



メロウさんから貰ったツールセットはどちらも高級品で、

中に入っていたあの金属片も品質の高いものだったので手当てが付かなかったら正直辛かった。


もちろん安いのでも修理はできる。

でも、メロウさんから貰ったケースに補充するとなると、しっかりした品質のもの以外は入れたくなかった。


(私の気持ち次第なんだけどね)


「この建物だけど、あと数年したら線を張り替えることになっているから、

 それまではこのままで行くつもりなんだ。

 影響も時々ランプが点かなくなるくらいだからね」


「そうなんですね、しかし線、ですか・・・」


「ええ。他にも客室のと入れ換えて、従業員用の部屋のランプが

 チカチカしてたり点いても暗いところがあるから、それも見て貰いたい。

 できるかな?」


「あ、はい、もちろんです!」


「良かった。

 じゃあ不具合が出ている場所を一覧にさせるから、

 それまではゆっくりしていてね」


「はい! え? 待ってるだけですか? 他の仕事は?」


「出来ればユイさんには壊れた魔道具の修理や点検を優先してお願いしたいんです。

 それが治れば、滞っている仕事は今の従業員たちであっという間に終わらせてくれるだろうからね」


「なるほど、そんなに深刻な影響が」


「ここも一応高級宿だからね。

 お客様にはそれが伝わって欲しくないから、裏方の所のランプを

 どんどん表に出して行くんだけど、どうしても建物の中だから明かりが必要でね。


 みんなにはオイルランタンを使って貰っているんだけど、

 換気が出来ないところや、火を持ち込めないところになると外で作業してもらって、

 戻してとみんなには苦労を掛けてしまっていてね・・・」


「なるほど・・・」


オイルランタンは魔道具のランプに比べてとても安価(あんか)だ。

オイルランタン本体だけでも、この魔道具のランタンと比べると100倍以上は安い。

毎日オイルを消費するけど、それでも十分安かったりする。


ちなみにオイルはあるモンスターからとれるもので、飼育している為なくなることは無く安定供給されている。

複数の牧場がしのぎを削っており、安価なのだ。


こういうお金の問題もあり、未だにオイルランタンを使う家は多い。

私の村では村長さんの家にしかなかったけど、メロウさんの家があったグエツの街では半分以上がまだオイルだと聞いた。


「もちろん全部直ったからと言ってクビにはしないよ。

 彼に頼まれているというのもあるけど、そんなことしたら今いる従業員たちに

 私が見限られてしまうからね。」


「あはは・・・」


「まあ本当に暇になった時は、改めて宿の手伝いをお願いするよ」


「はい。宜しくお願いします」



その日の夜、従業員さんたちに紹介された。

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