【第01話】親が決めた許嫁、勇者誕生
「ユイ、明日は鑑定の日だな」
「そうね」
夕日を見ながら2人が話をしている。
一人は私、もう一人は男の子。
私はこの男の子の許嫁だ。
正直親が決めたものだけど、
とくにこの結婚には抵抗しようと思っていない。
この男の子、特に性格に難もなく、しかし特に秀でた点もない。
付き合ったり結婚したとたん態度が変わる男は山ほどいる。
なのであまり期待せずに、私がこいつをうまい事調教してやろうと考えている。
期待値が高いと裏切られた時のショックも大きいからだ。
実を言えば、今までも結構いいように扱っていた。
言い方が悪いか。
扱うというよりは、いい方向に導いていたというのが正しい。
「魔法使いになれたらさ、一緒に町でくらそうよ」
「冒険者ってことね。それもいいわね」
魔法使いになれれば大きな町で沢山お金を稼げるらしい。
この人、ここ1年はずっとこんなことを言っている。
前にこの村を訪れた冒険者の影響だ。
確かに高級そうな装備に身を固めていた。
しかしその夢が叶った場合、私もついていくことになってる。
モンスターか。痛いのは嫌だなあ。
この村の周辺にはモンスターがいないので実感はわかないが、
あの冒険者たちのような重厚な装備が無ければいけないと考えると・・・。
それと、彼は魔法使いになったらそれで全部うまくいくと考えているようだけど
何事も、努力と工夫なしではうまくいかないと思うんだよね。
魔法使いになってからが本番だよ。きっと。
今日も未来の相方の夢を聞かされて1日が終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ビカー!
「これは・・・! 「「勇者だ!」」」
(出たー!)
というのは私の心の中の叫びだ。
私の前で水晶玉がずいぶんとハデに光っている。
虹色で、まるでガチャでレアを引いた時のような演出だ。
「少年、名前は?」
その水晶玉に手を乗せているのは私の相方。
どうやら相方は勇者と判定されたようだ。
すごい。
なのになぜそんなにしょんぼりしているの?
・・・ああ、魔法使いじゃなかったからか。
「勇者は魔法使いよりすごいんだよ、たぶん」
私は教えてあげた。
「そうなの?」
「そうですよ!」と神官さんも興奮している。
集まっていた大人たちも騒然としていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
村から勇者が出たという事で、のどかだった村は一変した。
もちろん私が望まぬ方向で。
そして急な事に、私の未来の旦那はその日のうちに王都へ行く事になった。
そのまま魔王退治の旅に出ることになるだろうとの事。
「なにも用意しなくていいからね、みんなにしばらくのお別れを言って来なさい」
(というかこの世界って魔王居たんだ?
まあ勇者がいるってことは、魔王もいるのか)
どう考えても厄介ごとだけど、魔法使いよりすごい!と教会の人に
煽てられ続け、相方は嬉しそうに、誇らしそうに笑っていた。
(あー)
いやな予感がした。
そしてすっかりその気になった相方は結局、私へは一言もなく村を出て行ってしまった。
勇者と判明してから1時間ほどの出来事だった。
相方の気が変わらないうちにということだろうか。
それとも日帰りがどうしてもしたいから、続きは教会で、という事か。
(なによ・・・)
置いて行かれた私は、さすがに傷ついた。
そして同じくらい恥ずかしくなった。
一緒に行こうと言われるかと思っていたから。
でも昔からそうだった。
この人、目の前のことに夢中になるといつも私のことを忘れてどこかへ行ってしまうのだ。
村の外で遊んでいた時に忘れて帰られたこともある。
その時は夜ご飯のことで頭がいっぱいだったようで、私は悲しい思いをした。
そして今回も見事に忘れられた。
きっと彼と関わっていると、今後も同じ思いをするのだろう。
広場は大人だけになったので私も帰ることにした。
何か忘れている気もするが、相方に一言も声をかけられず
置いて行かれたショックの方が大きく、気にする余裕はなかった。
<コンナハズデハ>
と誰かが言ったのが聞こえたが、今の私にはそれを気にする余裕はなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま」
「おかえり、揃ったわね、食べようか~」
私が家に入ると若い母がそう言った。
ちょうど支度ができたようでそのまま食事となった。
テーブルに着くといつもの質素なメニューが並んでいた。
「ユイ、彼が旅から戻ったら結婚だな」
忘れようとしていた不安が倍になって私を襲う。
「おとうちゃん。 それはないでしょ?」
「ん? なんでだ?」
「いや、なんで世界を救うりっぱな勇者さまが、
こんな何もない村の村娘と結婚するのよ」
「いや、お前たちは許嫁だろ?」
「それはおとうちゃんたちが、勝手にした口約束でしょ?」
「そうだが・・・まさか約束を破るのか?」
「あんなの、破らない方が無理あるでしょ!」
この許嫁だが、私が生まれた際の宴の時に、
お酒の勢いで決めたような感じらしい。
おとうちゃんはショックを受けた顔をする。
(なぜあなたが傷つくのよ)
「それはそうと、この後、宴があるらしいわ。
ご飯を食べたら広場へ集合だって」
悪くなった空気、沈黙を破るようにおかあちゃんが言った。
「・・・本人いないよ?」
「そうなんだよね~」
相方はすでに旅立ったのにこれを祝う宴があるらしい。
食事を終え村長の家の前の広場に向かう。
先ほど鑑定を行った広場である。
鑑定・・・?
何か忘れているような・・・。
あっ・・・。