【第16話】検品
「くぃぃ・・・」
おなか一杯になり幸せな気持ちで部屋へと戻ってきた。
ちなみにアゴはまだ痛い。
あのパンの硬さは普通なのだろうか。
見たこともない色だったし、お国柄という事なのだろうか。
「さて・・・そうだ。」
部屋に帰ってから何をしようかと考え、腕輪の中の整理をすることにした。
昨日たくさん買って貰った服がたくさんあったのでベッドに出していく。
「検品、検品♪」
日本で生きていた頃のクセと言うわけでもないが、
通販などで買ってきた服に、ほつれ等無いかとか、タグやボタンが取れ掛けてないか、
しっかりと縫われていない場所がないか見ていく。
(すごいな)
完璧な仕事だった。
クローゼットを開け、空いている3つのハンガーに何となくで選んだ3着の服を掛けた。
賑やかになったクローゼットの中身を見てニッコリした後は、それ以外の服を収納の腕輪にしまっていく。
ちなみにほつれなどがあれば直していくつもりだったが、よく考えたら裁縫道具を持っていなかった。
ボタンや、ボタンの糸の色を変えたくなった時にも使うだろうし、今後のためにも買っておかないと。
次にメロウさんから頂いた品々を出していく。
魔道具の回路図大全集
実は譲り受けてから一度も開けておらず、旅の間ずっと気になっていた。
収納から取り出す。
(重っ)
油断して手首を痛めそうになった。
慌てて両手で持ち直し、テーブルにそっと置いてしげしげと見つめる。
表紙も立派で重厚感があり、使われている紙も市販されているものとは少し違う。
長く持つように工夫されたものだとわかる。
泥棒が見たら狙われそうだ。
ページをめくり、前もやっていた通り、回路図の線を指でなぞってみる。
本当はもう、指でなぞらなくても読めるんだけど、
感傷的な気持ちでなぞってみたらメロウさんとの思い出がよみがえって少しぼんやりとしてしまった。
魔道具に関しては、やっていないと忘れる自信があるので今後も時々はこうやって復習がてら読み進めよう。
次は高級そうな造りの携帯魔道具メンテナンスセット。
パカリと開けてみる。
(わお)
金属製でピカピカしており、それに加え精巧なデザインと造りで、これはひとつの完成された芸術と評価されてもおかしくはない。
それらを手に取りうっとりとした。
前世は宝石には興味はなかったけど、こういうキラキラしたものが大好きで集めていた。
とあるRPGゲームの鎧のモンスターのメタルフィギアや、キラキラした記念コインやお土産メダルなんがいっぱいあった。
もちろん古銭のように歴史的な価値なんて無いんだけど。
ちなみに古銭はピカピカしていないので手は出していない。
(懐かしいなあ~。
私が死んだあと、親戚の子供たちが貰ってくれたかな)
それ以外にも一つづつ見ていく。
(はぁ・・・メロウさん元気してるかな)
メロウさんから”足がつく”から手紙などは控えるように言われている。
ここで意地になったりして、無理やり手紙を出してみたり、顔を見せに行くというのは考えていない。
冷たいかもしれないが、似たようなお別れの仕方を前世でもした事があって、
落ち着いた頃にわざわざ会いに行ったところ、本人の反応も微妙だったし、
家族の方達をモヤモヤさせてしまったことがある。
それにメロウさんの財産のほとんどは、私が持っているのだ。
そうなるとゆくゆくは、もと従業員たちからも探されてしまう可能性がある。
街に出ると時々話し掛けてくる元従業員の女性がいた。
メロウさんの話だとその女性は大層なトラブルメーカーらしい。
やさしそうなおばちゃんなんだけど会話の内容がメロウさんの体調だったり、遺産に関しての話ばかりでヤバかった。
詳しい話は分からないの一点張りで返すようにしていてらバカだと思われたのか、
最近はおばさまの体調を聞いてくるくらいになっていた。
そんなに様子を聞いて、毒でも盛っているんかいと思ってしまった。
メロウさんから、かかわりは無くなっているとは聞いたのでそれはないようだが。
「あり得なかったなあ、あの人」
話は戻るが、手紙は偽名で送れば良いのではと思うが、
国を越えたときに押されるスタンプなどでどの国のどの町から送られたものなのかわかるらしい。
それだとせっかく国を跨いで逃げた意味がなくなる。
ちなみに手紙で足がつくなら行き先のギルドで証明書を提示するのはどうなのか。
いついつにこの人はあの国のあの町に来たよというのが分かってしまうのではないか。
と、思って旅の馬車で聞いてみたところ、かなりしっかりとした回答をリーダーのハインさんから頂いた。
「基本的には一般人がギルドに人の行方を探してもらう依頼を出そうとしても断られるが、
やむ得ない事情があり、それが認められた場合は高額な依頼料を支払えば探してもらえる」
高額なのは全ての拠点とやり取りをしていく必要があるため、その手間賃という事らしい。
ちなみに金額はピンキリらしいが、120万円で依頼した人間がいることは聞いたことあるらしい。
確かにある程度の工数はかかるだろうがとんでもない金額だ。
調査結果が帰ってくるまでにも時間がかかるだろから、ギルドはその間ずっと抱え続けなければならないし、
終わったら終わったで、全拠点にその旨を連絡して依頼を破棄してもらう必要もあるだろう。
連絡をもらったギルドも、依頼票を探し出して、どういう終わり方をしたかを台帳に記載して、依頼票を破棄するという作業も発生する。
「それと、この手の依頼は昔からトラブルが原因で行われることが多くてね。
不幸な連れ戻しに利用されてしまうことがあって色々と問題となったらしい。
だから今は見つかったとしてもすぐに依頼者に情報を渡す事はないんだ。
まず、本人に話をして、依頼者へどう返答するか決める。
高額なお金を貰っているので、最低でも自分の意思でそうしているのか、
今後は探さないでほしいとか、戻る場合はいつ頃だ とか、帰りたくない理由とか、
いくつかの情報だけが依頼者へ渡され、そして依頼は終わりとなるんだ」
とこういう感じらしい。
私の生まれたマニロカ村には100万円を越すお金を支払ってまで私を探すことなんて無いだろうから安心なんだけど、
グエツの街の、メロウさんの元従業員さんは分からない。
私が託された資産が相当なもので、腕輪だけでも貴族の別荘が1つ買えるぐらいのお金になるので、
もし見つけられたら大儲けと、依頼してしまうかもしれない。
こんなことなら何か一筆おばさまに書いてもらうんだったなぁ。
これらの資産はゆいちゃんにあげますってね。
まあもう考えても仕方がない。
そのときはその時だ。
「さて!」
ギルドからはどんな仕事が紹介されるのだろう。
魔道具の部分を押したので、そういう系のお店かもしれない。
知識や技術は通じるだろうか。
メロウさんから受け取った証明書を取り出し見つめる。
「・・・うん、きっと大丈夫。
私はメロウさんの弟子なんだもん。
それも一番出来のいいって」
ピカピカのツールケースを見る。
「これは出さない方が良いだろうなぁ」
若い娘が持っていると目立つし、何かの拍子に壊れたら泣いてしまう。
「練習を始めるときにくれた、こっちで行くことにしよう」
私はもう1つのツールセットを取り出した。
私がメロウさんから習っていた時に使っていたものだ。
こちらは従業員さんに配っていたツールセットだそうだ。
ピカピカの方とは違い、少し大きめのケースに収まっている。
道具を確認した後は、回路図大全を読みながら時間をつぶし、お昼のベルが鳴ったのを聞いて1階の食堂へ向かった。
アミさんとアユさんの姿はまだ無かった。