【第14話】お仕事探し
「ここだよ」
「ここかぁ」
アミさんに手を引かれて冒険者ギルドに到着した。
前の街のグエツとは外観も看板の雰囲気も全部違った。
こちらの町の方が、ちょっとおしゃれというか、かわいい感じがする。
中に入り、受付へと向かう。
造りも違うが、入ってすぐの場所にカウンターがあり、数人の人が並んで座っているのは同じだ。
私は真ん中のおっとり系のお姉さんのところへ並んだ。
「いらっしゃいませ。どのような御用件ですか?」
お姉さんはにっこりと笑ってそう言った。
「先ほどこの国に来たばかりで、お仕事を探してます」
「そうなの。ようこそマスタドの街へ」
「あ、ありがとございます」
「ふふ、ギルドへの登録はお済ですか?」
「はい、これです」
私はギルドカードを見せた。
「はい、ではこちら、ご記入ください」
「はい」
私は応募用紙を受け取る。
「すべて埋まったら、こちらに持ってきてくださいね」
「わかりました」
私はそう言って、カウンターの横にある背の高いテーブルへ向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カキカキ、カキカキ・・・
「・・・ねえ、ユイは女の子が好きなの?」
唐突にアユさんがそう聞いてきた。
「え? そういうのは特にないですけど。何でですか?」
「いや、ほらあの人、左手の中指におしゃれな装飾の指輪してたでしょ?」
「え、見てませんでした」
「ああ、そうなんだ。
この指に、植物の指輪をしている女性は、男興味ありませんって意味なんだよ」
なんかそれ日本でも聞いたことあるな。
「へぇ。それって全国共通なんですか?」
「あ~。他の国ではそういうの見ないから、そうかも」
「へぇ。じゃあ男よけにつけていると、ナンパとかお誘いは来なくなるの?」
「ちゃんと空気を読める男は指輪を見て、あって顔をして引いてくれる時はあるかな」
「ユイは付けた方がいい」
静観していたアミさんも話に乗ってきた。
私はふとした疑問を投げかける。
「でもそれだと女性からナンパされるようにならないですか?」
「そういう時は男よけで付けてますって言えばいいわ」
「それでいいんだ」
そんな話をしながらでも手は動かす。
”簡単な魔道具であれば修理、点検できます。”
出来ればメロウさんの教えを生かしたくて、こう書いた。
実務経験は0なんだけどね。
保証人のところはスルーするつもりだったが、2人が名前を書いてしまった。
「ちょっと、保証人って、私が何かやらかしたときに、2人に迷惑かけてしまうって事なんだよ?」
「知ってる」
「ユイなら問題ないでしょ」
「いや・・・」
「むしろ、何かあった時に私たちに連絡がこずに処分されてしまう方が良くないわ」
「え、処分?」
「そう」
「20日の旅路でユイの人柄は十分わかったつもりだよ」
「その前からお店で会っていた。ユイはいいやつ」
「あと、ここに私たちの名前があると、よりいいところが紹介されるから、トラブルもそっちの方が減るよ」
「そうなの?」
「うん。そのはず」
「・・・ありがとう。そういう事なら、お名前お借りしますね」
「うん」
「はいどうぞ。 決まったら、しっかりやるのよ?」
「はい、しっかりと働かせていただきます」
「ふふふ」
3人で笑いあった。
ちなみに保証人は、トラブル時ばかりではなく、病気や大きなケガをした時にも連絡が行くようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お願いします」
「はい、ではこのままお待ちください」
そういって受付のお姉さんは1つづつ項目をチェックしていく。
そして最後に、ポンと大きなハンコを押した。
「この条件なら、ユイさん、明日のお昼ごろにまたこちらへ来ていただけますか?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
私はフカブカと頭を下げその場を去った。
あれ、前はその場でいろいろ話し合って仕事を見繕ってもらったけど、ここではやり方違うんだな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルドからの帰り道では約束通り、いくつかの服屋さんを巡ってなん着かの服を買って貰った。
やはり1着2着ではなく、いっぱい買って貰った。
明らかに生地の質が良いパジャマまで。
当分の服は揃ってしまったが、いいお店を教えて貰ったので機会があればまた来ようと思った。
購入したうちの一着に着替え、他の服と一緒に腕輪にしまい込む。
宿屋に帰ったらどうやって洗えばいいか聞かないとな。
「ユイにあってる。かわいい」
「ありがと」
「本当に似合ってるわ。プレゼントしてよかった」
「ありがとうございます」
「そういえば2人は宿に泊まるって言ってたけど、家には帰らないの?」
察すべきかと思っていたが、うかつにもぽろっと聞いてしまった。
いい意味で2人に対して気を許して気が抜けてしまっていると言うことなのかもしれない。
「あるけど遠いんだ。うまく乗り継げれば3日位なんだけどね~」
「用事が終わって、良いよって言われたら帰る」
「へぇ。この街ってそんなに広いんだ」
「私たちの家はここは街じゃないよ。私たちの家は田舎の方にある漁村にあるんだ」
「へぇ」
「ここは都会。お城もある」
「お城?王様のいる?」
「うん。あっちに行くと見える」
「へぇ」
ここはこの国の王都なんだ・・・。
「ユイは魚好き?」
「好きだよ~」
「私も好き。毎日は無理だけど」
「あはは、そうなんだ」
思わず笑ってしまった。
「ユイも付いてくる?」
「え?」
「お仕事決まったら、おやすみ貰って」
「え、それって次の帰郷の時にってことだよね、それはさすがに良くないよ」
「そうなの?」
「うん、仕事決まったばかりなのに、人としてどうかと。首になっちゃうかも」
「ふふ、そうね。すぐには無理だね」
「そっか」
用事はすぐに終わってしまったので夕方まで遊ぶことになった。
アクセサリー屋さんや魔道具屋さんを巡る。
3人でお揃いの指輪を買った。
ツタの装飾の中に、小さな花が咲いているというデザインだ。色も薄く主張しなくていい感じだ。
3人で左手中指に付ける。
当分男はいいという3人の意見が一致したのだ。
お昼は2人のおすすめの定食屋さんで頂いた。
お礼にとそこは、自分が支払いをした。
その後も甘いものを食べたりたくさんお喋りをした。
こんなに笑ったのはこの世界に生まれてからは初めてだった。