【第12話】コーンドルグ王国 マスタド1
ハインが用意した馬車に乗り新しい国を目指す。
今から目指すのは、コーンドルグ王国 マスタドというところだ。
砂漠という単語があったので、暑いのか聞いてみたところ、そこまでではないらしい。
店を出る前に、メロウさんとお別れをする。
言葉はすでに言い尽くしたので、長めのハグでお別れをした。
長すぎてメロウさんとハインさんにまだかと言われるほどだった。
馬車に乗り、街を出てしばらく走った後にふと振り返る。
そこには意外とこじんまりとした街があった。
結構大きな街だと思っていたけど、少し距離を開けるとこんなものだ。
ふとその先にある山が目に入り、そちらを見る。
あの山を越えたところに私が生まれた村はある。
戻るつもりなんて全くないけど、ゆっくりと離れていくことを意識した時に、ほんの少し不安な気持ちになった。
つんつん
「・・・はい?」
少ししてつんつんされていることに気づく。
「あ~ん」
「あ、あ~ん」
振り向くとハインさんの高ランクパーティのちっちゃいもの担当のアミさんが、
クッキーのかけらを手にこちらの口に差し入れようとするのが見えた。
思わず口を開く。
ぱくり。
かりかり。
「お、おいしいです」
「うん」
質素だけどしっかりとした甘みを感じた。
うなぎパイの味がした。懐かしい。
ちなみに、ちっちゃいもの担当とは、私の中だけの称号だ。
ちっちゃくてかわいいのだ。
私よりは背は1~2cm高いらしいが。
時々お店に遊びに来ていて、そこで知り合いになっていた。
「ふう」
いつの間にか上がっていた肩が下がったのを感じた。
みんながそれを見て安堵の表情を浮かべたので、気を使わせてしまったなと申し訳なくなった。
「はい」
「いただきます」
今度は手渡しで割ったばかりのクッキーを貰う。
朝一の馬車で、メロウさんの朝ごはんは用意したけど私は食べる時間がなかったのでありがたく頂く。
かりかり。
「はっ」
はっとして、腕輪よりクッキーの入った紙袋を取り出す。
私が手ぶらなのを見て、クッキーを分けてくれたのだと思ったからだ。
しかし私のクッキーの袋を見た後に、笑ってみんなも同じ紙袋を取り出してみせた。
中身は長持ちするように焼き固められたクッキーで、どうやらみんな、同じお店で購入したようだ。
「それは最後の手段」
アミさんが苦いものを見るような目で私のクッキーの袋を見た。
「ボクたちは、娯楽の少ない旅路ではなるべくおいしいものから食べようって決めているんだ」
弓と魔法を使うアクセスさんがそう言った。
「なるほど」
「それ味ないし、硬い。水分持って行かれる」
「そうなんですか。私食べたことなくて」
「そうなの?
じゃあこっち全部食べていいよ。
次の町でまたなんか買うから。だからそれ仕舞って」
「ん、分かった・・・」
私とアミさんのやり取りをみんながほほえましそうに見ていることに気づく。
私はその視線がムズムズした。
ここは私がアミさんより大人のお姉さんだという事を示すしかない。
「・・・じゃあ、次の町でおいしそうなの買って、これのお返ししますね」
「うん、いいよ、一緒にお店に行こう」
「・・・そうですね、私お店知らないから・・・」
「うん、私が案内する」
どうやら私は、アミさんの中で、妹枠に収まってしまったようだ。
アミさんは私の3歳上の18歳らしい。
私からしたらアミさんの方が妹みたいなもんだが・・・。
そんなことを考えながらクッキーを食べていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
目を覚ますと私とアミさんには1枚のブランケットが掛けられていた。
「ぬ」
アミさんも寝ているようで、全体重(と言ってもお互い座っているのでそこまでではない)で寄りかかってきており身動きが取れない。
「よく寝ていたね」
「すいません」
なんといえばいいか分からず、とっさに謝罪をしてしまった。
「いいよ、朝、とても早かったもんな」
「そういえば、そうでした」
そろそろ首や肩が痛くなってきたのでアミさんをそっと動かし膝枕をする。
「ふふふ、これじゃあどちらがお姉さんなんだか」
アミさんの本当のお姉さんのアユさんが、アミさんの頭をなでた。
アミさんは少しして目を覚ました。
ぽかんと私のことを見上げている。
アミさんは不覚、と言った顔をした後に起き上がり、自分のふとももと叩いた。
「なに?」
「ユイがここで寝るの」
「私もう眠くない」
「うう・・・」
アミさんはあっさりと撃沈した。
それからはなぜか交代で膝枕をするようになった。
アミさんは膝枕をするのも、されるのも好きなようだ。
「旦那さん、お願いします」
「ああ」
時折街道にモンスターが現れる。
それで馬車が止まる以外は、ゆっくりと流れる景色を眺めた。
20日ほどして、新しい国についた。