【第11話】街を出る2
話が終わりハインが帰っていった。
次会うのは3日後の朝、このお店でだ。
「あの、お店閉めますか?」
「ああ、そうだね、ユイはよく気が付いてくれる。お願い、終わったらそこで待っていてね」
「はい」
そういって私は外へ、メロウさんはバックヤードへ引っ込んでいった。
私がお店を閉めてバックヤードで座って待っていると、メロウさんが戻ってきた。
「ふふふ、ユイ」
「本当にひと財産じゃないですか・・・」
「いいから」
一つ目は”携帯魔道具メンテナンスセット”
真鍮製のメガネケースのような形で、
開けると棒が2本とハンダのチップが入った小さなケース、ニッパー、
魔力ドライバー、小さな拡大鏡、小さなホコリを避けるブラシが入っている。
作りはしっかりしており立派な刻印もあり高そうだ。
二つ目は自分がよく使っていた”修理教材”
これ自体も何気に高額らしい。
実物より少し大きめの回路で、これを使い修理の練習をする。
ただし説明書が付いていないので、使い方や例題などはメロウさんが作った。
このお店の手順書などはほぼ、メロウさんの手作りなので、
意外とマニュアル職人なのかもしれない。
「あの、もしよければ」
「なんだい?」
店を閉めるという事だったので、
おねだりしてほかのメロウさんが作ったマニュアルも頂くことができた。
三つ目は”魔道具の回路図大全集”
かなり大きく、1ページがA4サイズで、分厚さが8cmほどある。
ページ番号がなく、何ページあるのかはわからない。
いろんなパターンや回路図案が書かれている。
それぞれに細かい説明はあるが、用途が分からないものも多い。
王立図書館寄贈レベルらしい。
回路図が読めるようになってからは、こういうのを指で追って、
チップを通った時の動きを頭の中で考えるのが楽しいのでうれしい。
四つ目は発掘された”小型結界装置”
壊れており、これを直すのが先代からの最後の課題とか。
最近は触っておらず弟子が出来たら渡すつもりだったとか。
一応部品は全て揃っているらしい。
「重いっ」
「そうだね」
形状としては、日本ではコンビニやスーパー、自販機でも売っている150円ぐらいのカフェラテのプラの容器。
上ぶたにプラのカバーがついていて、上の穴からストローを指すタイプのやつだ。
そんな形をしており、ひっくり返してみると底面には電気ケトルなんかにありそうな穴が開いており、
その表面には金属が使われていて、これが魔道具であることを印象付けた。
専用の台があり、それに乗せないとダメなのでは?と思ったが、これで全部という事だ。
最後に”収納の腕輪”
これだけで貴族の別荘くらいの価格になるそうだ。カバン代わりにと渡された。
驚いていると、自分が死んだら他の店に行ってしまった元従業員たちがやってきて
山分けにされるだろうから持っていけとのこと。
そう言われたら遠慮する気持ちは驚くほど失せたので受け取った。
頂いたものはすべてこの腕輪の中に納まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お別れの前日の夜。
「ユイ」
「はい」
夕食のあとかたずけをしていると、店の方からメロウさんに呼ばれた。
なぜお店の方から?と思いながら向かうと。
「来たね・・・ほら、最後にこれをあげる」
「なんですかこれ」
メロウさんはそういって、少し恭しい仕草で私に紙を渡してきた。
私もそれに倣い、卒業式の時に卒業証書を受け取るように、恭しく立派な紙を受け取った。
「ええと・・・・うそ」
「ユイ、よくここまで頑張ったね。
お話相手の延長で色々と教えてきたけど、びっくりするぐらい理解が早くて、
正直、本当の弟子として教えてきた、どの子よりもあんたの方が出来が良かった。
最後にユイに教えることが出来て本当に私は幸せ者だったわ。
これは私メロウ・チェンバースが発行した免許皆伝の証明書よ。
すでに協会にもこの証明書について届を出しているから有効よ。
私の名前はね、全国魔道具修理協会の名鑑にも乗っているの。
だからこの証明証はどんな国でも邪魔にはならないわ」
「メロウさん、いつのまに。
ありがとうございます。
わざわざ作っていただいたんですね。うれしいです」
「ユイはそれにふさわしいって私が判断したからね」
「ありがとうございます、メロウさん。・・・お師匠様」
「ふふ、今まで通り、私の事はメロウさんって呼んでよ」
「はい、メロウさん」
私は涙が止まらなくなりメロウさんに抱きついて泣いてしまった。
翌日、私はこの国を出た。