【第10話】街を出る1
「おや、あの子たちときたら、ドアを閉めずに出て行ったんだね、まったく・・・」
メロウさんが溜息を吐く。
私も吐きたかったけど、目の前にハインさんがいたのでやめた。
「さっきの4人組か。
なにやらおかしな空気だったな。教会の関係者のようだったが」
(分かるんだ)
「おかしいよねぇ。
ハイン、とある魔力に反応する魔道具が無いか探しているんだって」
「ほう・・・なるほど。しかし・・・」
(?)
メロウさんが短くそう言い、ハインさんが反応を示す。
「さて、ところで今日は?」
「ああ。実はそろそろ国に戻ることになった」
「おや、じゃあちょうどいいね。
ユイをつれていってくれないかしら?」
「え? メロウさん?」
「ふむ、その話か」
「そうよ。それにねハイン、・・・ここだけの話だけど・・・」
「ん?」
「ユイはね、とてもいい形のお尻をしているんだよ」
「なっ! メロウさん!?」
「・・・こほん」
「あっはっは。
まあというのは冗談でね。ユイ」
メロウさんが一転、まじめな顔をしていいね?と聞いてきた。
実はハインには完全に事情を話していないのだ。
「いいですけど・・・」
そういうとメロウさんは私の事情をハインさんに説明した。
ううむ、なんかあの4人が来てから、何か様子がおかしい。
具体的に言えば、心で決意したって感じだ。
今からでもあの4人を追いかけて行って、元相方に石投げてもいいかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へぇ、あの少年が勇者で、ユイの婚約者?」
ハインはなぜかちょっと高圧的にそう復唱してきた。
「あの、婚約者って言ってもそんな上品な感じでもないですよ。
父が私が生まれたときの宴で、意気投合した隣の家の、彼の父親と口約束をしただけなので」
「それでも一応は約束があったんだろう?」
「まあ一応は」
「ハイン、あっちにもそういうつもりはないみたいだよ。
一緒にいた女の子には婚約者じゃなく、ユイのことを幼なじみとして紹介してたしねえ」
「はい、まあそうなるだろうなと思って村を出たので。
あの人は主体性がないんですよ、全部受け身なんです。
教会に行ってもそうだったみたいで、見事に性格変わってましたね・・・」
そういえばここに私を連れて来てくれた女性だけのパーティー、
気高き野薔薇のリーダーの幼馴染さんも、教会に入ってから性格が悪くなったって言っていたような。
「ふむ」
ハインさんはなにやら考え始めた。
婚約者がいる私を勝手に連れて行ってもいいのかと考えているのかな?
それなら心配はいらないんだけど。
それに私としては村に連れ帰られるのも困るけど、
メロウさんを置いて行けないという方が大きいんだよな・・・。
最近は元気になったとかでいろいろ歩き回ってはいるものの、旅となるときついはずだ。
「ユイ、今から行く国は砂漠化が進んでて、辛い生活になるかもしれないんだが、それでも良ければ来るかい?」
「え、意外と乗り気なんですね。でもそれだと」
私はメロウさんを見る。
「いい機会だからね、私はもう店を閉めるよ。
そして、あんたとの契約も切る」
「えっ!?」
目の前が真っ暗になった。
「私はもう、寿命以上に生きている気がしててね、
時々感じるんだよ、この・・・いや。
ふふ、ユイ、あんたとのおしゃべりが楽しくて、行きそびれちゃったのかもね」
「え? なんですか?」
「約束どおり、ここの物を売ったお金をあんたにあげるよ」
「ええ?
でもそれだとどうやって食べていくんですか? 料理は誰が?」
「この店以外にも貯金はあるからね。
そういう施設だってある。
あんたにたくさんよくして貰って、もう満足したんだよ」
「そんな、満足だなんて」
「でもユイ、あんたはこれからだよ。
だからこの男についていきなさい。
これはここに居る誰よりも長く生きた私のカンだ。
この男はユイを悪いようにはしない」
「ああ、約束しよう」
(マジか! 謎に息ぴったりだな。確かに悪い男ではないだろうけど)
「あんた、私を看取るつもりでいるだろう。ありがとう。とても嬉しいよ。
でももうそんなことは言ってられなくなった。違うかい?」
「もし村に話が伝わったら、引きずってでも村につれていかれると思います・・・」
本人同士はそのつもりはないが、一応村では婚約者として、訪ねてきた人をもてなす仕事がある。
そんなゴミみたいな仕事が待っている村に戻されたら発狂する自信がある。
あとあの恰好・・・絶対に嫌だ。
私は急に寂しくなりメロウさんに抱きついた。
「行っておいで、これからは幸せになるんだよ」
「あ、ありがとうございます。
そんなことありません。
ここにおいてもらえて幸せでした」
「ふふ、そうかい? じゃあ次はもっと幸せになれるねぇ」
「そうでしょうか・・・」
「ユイ、我々は3日後には出なければならない、間に合うか?」
「問題ないよ、ユイ、お前に渡し物がたくさんあるんだ、さあ」
事情を聞いていたハインは出発の待ち合わせ場所をこの店にしてくれた。
そして約束の日までにメロウさんとたくさんのお話をしたのと、
ほとんど押し付けられるようにいろんなモノを貰った。