【第09話】勇者がきた
メロウさんのお店、”りゅうのひとみ”に来てから一年の月日が流れた。
私は和やかに流れる時間を過ごしていた。
ご飯も沢山食べられるし、体の方も成長してきた感じがする。胸も。
ここ一年での一番大きな変化としては、メロウさんの思い付きで、
雑談の延長で魔道具の修理について教えを受けるようになった事だ。
お互いに話のネタも尽きており、私はこれ幸いとそれに乗った。
話題がなくてきつかったので、これには正直助かった。
メロウさんは、才能かねえとか言って褒めてくれるので嬉しい。
それが終わるとお茶となる。
「ユイは本当に丁寧で見惚れてしまうときがあるよ」
「ありがとうございます」
メロウさんは魔道具の修理が専門とあって、この話題の時はよくしゃべってくれるのでこれも助かっている。
「その話し方もだよ。
本当に村から出たことないの?」
「ないですよー」
「村のみんながそんなしゃべり方なのかい?」
「いえいえ、違います」
「そうなのかい?
じゃあどうやって・・・」
それは前世の記憶があるからなのです。
メロウさんが見ているのは年の割に体の小さな今の私であって、前世の私ではないので、言わないけど。
チリンチリン
「あ、はーい! メロウさん、行ってきますね!」
「ええ、よろしくね」
お店の方に出ていくと4人組のお客さんが来店していた。
前回のハインさんが来て以来だ。
ちなみにハインさんは、あのあと何度もここに遊びに来てはお菓子をおいていく。
自分で作るのもいいけど、外のお菓子もいい。
「お前、ユイか?」
「え? ・・・久しぶりね」
「お前、この店で働いているのか?」
なんと4人のうちの1人は勇者と鑑定され村を出て行った元相方だった。
(世界は狭いな・・・)
村にいたころはユイと呼んでいたのに、お前になっていて、ショックもあったが確信に変わった。
(あの村から出てよかったわ)
「そうよ?」
相方は不思議そうな顔をした。
この様子だと私が村から逃げた事は知らないらしい。
恐らくあれから村に帰っていないのだろう。
みんなは、あなたのことで頭がいっぱいなのにね。
「ねえ、この人はだあれ?」
店の中を物色していたピンク色の小柄の女性が元相方に話しかけた。
なんとも儚い雰囲気の、男なら守ってあげたくなる少女だ。
服装的に、聖職者といった感じだ。
戦闘時には後ろから回復魔法とか使ってくれそう。
「ああ、こいつは同じ村に生まれた、沢山いる幼なじみの一人だよ」
昔の相方はそう言って、なにか目配せをして来る。
(話し合わせろってか、ダルいなこいつ・・・)
「・・・そうなんです、こいつは何の関係もない、幼馴染の一人なんです」
私はニッコリと笑い、そう言おうとしたが、笑顔の方は失敗した。
「まあそうなんですか」
来客を見る。
少女1、少年1、青年2といった組み合わせだ。
元相方は今の発言が気に食わなかったかのか睨んできている。
どうやら人の波にもまれて、のほほんとした雰囲気は消え失せたらしい。
青年2人は同じような服を着ているが、どことなく少女と服装の作りが似ている。
つまりこの3人は元相方が連れていかれた教会関係者ってところかな。
相方は冒険者と言った感じだ。駆け出しの。
少女の周りを幼なじみ含めた三人の男たちが取り囲んでいる構図。
少女は性格は悪くはなさそうだけど・・・。
「掘り出し物があるかと、古い店を巡っているところなんだ、何か無いか?」
幼なじみはそんなことを言った。
「何かとは?」
「そういうものだよ、古い店なんだから何かないかって聞いているんだ」
「・・・はあ? 看板見なかったの? ここはお店じゃなくて、修理屋さんなんだけど?」
「は? ・・・そんなの関係ない!」
「うわ・・・では店主に相談してみますね」
こいつ終わってるわ。
つい冷たい声で言ってしまう。
というか口調が昔と全然違い、ヒリヒリとした空気を感じる。
しかし私が何かしてやれるはずもなく、すぐ後ろにいた店主に引き継ぐ。
本当はガラクタを法外な値段で売ってあげてほしいと伝えたかったけど、さすがにこの距離では全員に聞こえてしまう。
私はあえて4人には目線をよこすことなくバックヤードに引っ込む。
私がてふてふとカウンターの後ろから退散していると・・・。
<モウダメダ、今ノデツナガリガキレタ。セッカク、ヒキアワセテヤッタノニ>
「ん?」
時々聞こえてくる、このモニャモニャとした音声のようなものは何だろう?
足を止めるわけにもいかずそのままバックヤードに引っ込んだ。
それ以降、声のようなものは聞こえてこなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれは人探しをしてるみたいね。
ある魔力を検知する魔道具を探しているんだってさ」
「へぇ。あの人たちに探される人が居るなんてかわいそう」
「あっはっは、ユイも言うねえ。
今のがこの前話してた男かい?」
「ああ・・・はい。少年の方です」
「どうするの?」
「どうするとは?」
「居場所が見つかったんだ、村の連中に連れ戻されるかもしれないだろ?逃げるかい?」
「ああ・・・うーん、逃げる・・・か」
私は店を見回した。
「この店を気に入ってくれているんだね。
うれしいけど、私だっていつまでもこの世にはいないよ?」
「そうかもしれませんけど・・・」
「何の話だ?」
ハインさんがいつの間にかカウンターの前にいた。