第3話 失恋と好きバレ
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あれから3週間、紺野さんから連絡は特にない。
やはりもう諦めてしまったのだろうか。あの二人を見て心が折れない人はなかなかいない。
もしそうなら、俺も諦めなくて済む。
放課後、なんとなく教室でボーッとしていると、ドアの方から誰かが手招きしている。
手しか見えないので誰か分からなかったが、中には俺しかいなかったためとりあえずドアの方へ近づいていくと、ぴょこっと顔を出し可愛らしい笑顔で彼女は言う。
「久しぶりー、三上君!
私に会えなくて寂しかった?なんて、そんな訳ないか。」
「お、おう。久しぶり。」
これだ、どうしてこんなにもドキドキするのか。
少し前までは普通に話せていたはずだろ、しっかりしろ俺。
「今日はどうしたんだ?」
「えっと、バレンタインデーまであと2週間でしょ?
だからチョコの試作をしてて、試しに食べてくれないかなーって。
ほら、男の子の意見とか欲しいし。」
「あーそうだな。
分かった、食べるよ。」
嬉しいような悲しいような。
あの黒い塊を食べるのは正直きつい。前もらったやつもびっくりするぐらい変な味したし。
でも、一生懸命作ったんだろうし、食べてあげるか。
俺は家庭科室に連れて行かれ、そこにはいくつかチョコのクッキーが置いてあった。まだラッピングはされておらず、ハートや星など形はさまざまだ。見た目は前より遙かに良い。
「どうぞ、食べてくれる?」
「ああ、うん。」
手渡されたハート形のクッキーを口に入れる。覚悟を決めてそれを噛む。
カリッ。クッキーの音だ、味も美味しい。
「これ、ほんとに紺野さんが作ったの?」
「う、うん。実はここ3週間ずっと練習してて。
三上君にはこの前失敗作あげちゃったから、そのお詫びもしたくて。
お、美味しい?」
「うん、めっちゃ美味しい。
こんな美味しい手作りクッキー久しぶりに食ったよ。」
「よ、よかった~~~。」
ほっとした表情を浮かべる紺野さん。
「これで、宮澤君にも渡せるよ。」
「うん、ほんとよかったね。」
言いたくないことを平然と言うのはこんなに辛いのだと初めて知った。
今までこんな事思ったことなかったが、今は蒼空が死ぬほどうらやましい。
「三上君にも当日渡すね。」
「え?
お、俺はいいよ。ほら、その今貰ったし。」
「そ、そう?
遠慮しなくていいのに。」
紺野さんは好意で言ってくれてるのは分かる。でも、蒼空のついでに貰うのは耐えられない気がする。
そして、バレンタインデー当日。
昼休み、学校中でチョコの受け渡しやらが行われている中、俺は教室で聖書を読んでいた。
うん、やはり聖書はいい。頭を空っぽにできる。
目の前に黄色い包みが置かれる。
「はい、どうせ誰からも貰えてないでしょ?」
「いや、お母さんからは貰えるし。」
「はいはい、そういうのいいから。」
前を見ると、蒼空はとても嬉しそうにピンクの包みを掲げている。
「北条の手作りか?」
「ええ、私美人な上に料理まで出来るから。」
「わーすごっーい。」
「やっぱあげない。」
北条は黄色い包みを手に取る。
「ごめんなさい。北条様は完璧な美少女でございます。」
「見え見えのお世辞を。まぁいいわ。
はい、どうぞ。ちゃんとあなたのも美味しく作ったから。」
「お前なんだかんだ良いやつだよなー。」
「もう少し素直に褒めなさいよ。」
北条からのチョコ、入学当初からじゃ考えられないような代物だ。
全男子生徒はこれが欲しくてたまらないだろう。
「俺と蒼空以外にはあげる予定あるのか?」
「あとは、お父さんと弟くらいかな。」
「親と兄弟と彼氏のラインナップに俺入ってていいの?」
「良いのよ、あなたは私にとって初めてのと、、、。」
恐らく友達と言いたいのだろう。少し頬が赤くなっている。
嬉しいもんだな、友達から貰うチョコも。
しかし、今回蒼空はすげーな。二人の子から本命チョコとは。
あーやべ、考えないようにしてたのに。
「ん?どうしたの?
急に深刻そうな顔しちゃって。」
「なんでもない。」
「ふーん。まぁ別にいいけど。
話したくなったらいいなさい。ちゃんと聞くから。」
「お前なんだかんだ良いやつだよなー。」
「はぁ、また茶かして。
ちゃんとホワイトデーには返しなさいよ。」
そう言って北条は蒼空とイチャイチャした後、自分の教室に帰っていった。
放課後。
蒼空は紺野さんに呼び出される。
俺はというと、それを見てすぐに図書室へ向かった。
すぐに帰ることもできたが、聖書を読み切るため。いや、なんとなくまだ帰れない気がしたからだ。
現在の時刻は5時。結局あんまり進まなかった。
俺はカバンを手に取り、エントランスへと向かう。
たまたま紺野さんと作戦を練った教室を通りかかる。この部屋にはしばらく入りたくないな。
その時、部屋から誰かの声が聞こえた。耳を澄ませるとどうやら泣いているようだ。
「まさか、な。」
俺はゆっくりドアを開き中を見る。
そこには顔を机に伏せて泣いている女の子がいた。
「紺野、さん?」
女の子は顔を上げ、すぐに涙を服で拭き、無理矢理笑顔を作る。
「三上君、まだ残ってたんだ」
「うん、聖書読みたくて。」
「聖書って。三上君面白いことするね。」
そこからしばらく沈黙が。
30秒くらい経って、紺野さんは口を開く。
「私、ふられちゃった。
好きな子がいるからって。クッキーも受け取ってもらえなくて。」
そう言って、彼女はピンクの包みを取り出す。
「そ、そっか。」
どうしていいか分からない。そのまま気まずい空気が続く。
「あ、俺。お腹すいててさ。
そのクッキー食べてもいいかな?」
「う、うん。どうぞ。」
俺はもらったクッキーを口に放り込む。
「めっちゃ美味しい!
これ食べないなんて蒼空は勿体ないことしたよなー。」
「はは、そうかな。」
「絶対そうだって。
ホワイトデーは楽しみにしといてね。俺、最高に活かしたやつお返しするから。」
彼女は今日初めて心からの笑顔を見せる。
「うん、楽しみにしてる。」
その後、西条さんが紺野さんを迎えにきて俺達はまたねと別れた。
もう、会う理由はなくなってしまったが。
次の日、俺は北条を呼び出しある相談をした。
「なるほど、最近失恋した子を振り向かせる方法を友達が聞きたいと。」
「そ、そうなんだ。」
「はぁ、恋は盲目っていうけど本当にそうよね。
あなたがこんな分かりやすい嘘をつくなんて。」
「え?何のことだよ。」
「私昨日蒼空が紺野さんに告白されたこと知ってるから。
蒼空は包み隠さずそういうの教えてくれるの。でも他の人に言ったりしないからそこは心配し
ないで。」
「そ、そうなのか。それと俺の話関係あるのか?」
俺はシラを切るつもりでそう言う。
「つ、ま、り。
あなたは紺野さんが好きで、付き合いたいってことでしょ?」
ド直球に言われた。
誤魔化すこともできるが。
「えっーと。
はい、そうです。」
「やっぱりそうなのね。
私としてはあなたが紺野さんと付き合ってくれるなら変に心が痛まないし。
協力するわ。」
「お前、なんだかんだ良いやつだよなー。」
そう言った俺の背中を北条が思いっきりひっぱたく。
よし、頑張ろう。応援してくれる友達のためにも。
次回、優悟と紺野さんがデートに行きます。