第20話 優しすぎる先輩
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今日は上野先輩と映画を見に行く日だ。
東西北の女子たちで開かれた会議の内容は気にはなるが、ひとまず今日を楽しもう。
俺は家を出て、駅へ向かう。
最寄り駅から数駅進んだところで降り、待ち合わせの改札口へ行く。
そこには淡い水色のワンピースに白い傘を持った上の先輩の姿が。天使か。
普段はスカート丈も全く短くせず、見本通りの服装の彼女。今日はT-シャツにズボンという姿を想像していた。しかし、これは凄いな。
俺は恐る恐る上野先輩に声をかける。
「お待たせしました。」
「おはよう。
それでは早速行こうか。」
そう言って彼女は傘を鞄にしまい、前へ歩き出す。
「あの。」
俺は思わず呼び止めてしまい、彼女は振り返る。
「か、可愛いですね今日は。」
彼女は目を丸くしてこちらをじっと見る。
あ、この言い方だと普段は可愛くないということにならないか?
俺は焦って言葉を続ける。
「普段が可愛くないというわけではなくてですね。
その、いつもはかっこいい感じなので、今日は可愛さが目立つと言いますか。
えっと、はい。」
早口でよく分からない事を言ってしまった。
はは、冷たい言葉をかけられても文句は言えないな。そう思い、彼女の言葉を待つ。
「ふふ。
別に悪口などど思ってはいないよ。」
彼女は微笑みながらそう言って、言葉を続ける。
「ありがとう、君にそう言ってもらいたくて頑張ったんだ。」
顔が熱い。こんなのまるで、カップル。いや、違う。
先輩が俺を好き、だなんて。でも、もしそうだったら。俺は、、、。
俺達は映画館へと向かう。
映画館は駅近くのショッピングモールの中にある。このショッピングモールはこの前、東条さんと紺野さん、志藤くんと来た場所だ。今回は普通にお客さんもいる。
映画館に着いてすぐ映画券を発券し、売店へと並ぶ。ポップコーンか。先輩は買わなそうだし、俺も普段買わない。ドリンクだけで良いか、と思っていたが。
上野先輩がじっーとポップコーンの方を見ている。
「ポップコーン食べますか?」
「へ?いや、飲み物だけにするよ。
三上はどうする?」
「俺はポップコーンと飲み物のセットにします。
でも、俺1人じゃポップコーン食べきれないと思うので、手伝ってもらってもいいですか?」
「ああ、もちろん手伝うよ。」
満面の笑みで彼女は言う。
絶対食べたかったな、コレ。
俺達は指定のスクリーンに入り、席に着く。
既に予告が始まっていてもうすぐ映画か。
先輩の方を見ると、予告を見て表情をコロコロ変えている。
今日は先輩の意外な一面が見られる日だな。
映画を見終え、俺達は映画館を出る。
映画の感想を話し合いながら、俺達はそのまま昼ご飯を食べることにした。
「行ってみたいところがあるんだけど。」
先輩がそう言うので、俺はそれについて行く。
ショッピングモール内にあるカフェに俺達は向かった。
静かすぎず、うるさすぎずといった感じの店内。カフェと言いつつ、豊富なランチメニュー。先輩は良い店を知っているな。
先輩はサンドイッチとコーヒー、俺はカレーを頼んだ。
注文を待つ間、映画の感想の続きをと思っていたが、先輩は急に真剣な表情になり、席を立つ。
「すまない、少し電話をしてくるよ。」
「は、はい。」
そんなに大事な電話なのだろうか。
15分ほど経って、料理が運ばれてくる。
そのすぐ後に先輩も戻ってきた。
「料理来ましたよ、先輩。食べましょう。」
「うん。美味しそうだな。」
先輩の表情はさっきと違い、明るい。
何か良いことでもあったのだろうか。やはり、さっきの電話で何か。
まぁいっか、腹減ったし、カレー食べよう。
俺達はご飯を食べ終え、一息つく。
「おいしかったですね。」
「満足してもらえてなによりだ。少し不安だったからな。」
「いえいえ、先輩のセンスが間違っているわけありませんよ。」
「はは、随分信頼されているな。期待を裏切らず済んでよかった。」
先輩を鞄からケータイを取り出す。
少し操作をして、それをテーブルの上に置いた。
「三上は今日見た映画でどのシーンが一番よかった?」
「そうですね、やはり主人公の女の子が告白したシーンでしょうか。
相手の男の子は終始主人公のことが好きでしたから、報われてくれて嬉しかったです。」
今回見たのは少女漫画原作の恋愛映画。
主人公の女の子がある男子に恋をして、必死に振り向かせようとする話だ。
女の子はある男友達に協力を頼むのだが、その男友達は主人公のことが好きで、辛い気持ちを隠しながら主人公に協力する。女の子は好きな男の子を振り向かせようと頑張る内に、自分にはもっと好きな相手がいることを自覚する。その相手が協力を頼んだ男友達というストーリーだ。
「私もそのシーンは好きだ。
しかし、主人公は少し残酷ではないだろうか。
初めは別の男の子が好きで協力を頼んできた。それなのに、最後には友達への恋心を自覚す
る。彼にとっては辛い状況だ、主人公を嫌いになってもおかしくなかった。」
なるほど、確かにな。
まぁ、でも。
「好きな気持ちなんてそんなもんじゃないですか。
主人公が気に病む必要なんてありませんよ。それに最後は好きになってくれたんですし。
結果良ければ全て良しってやつじゃないですかね。」
「ああ、そうだな。」
先輩は満足そうに頷く。
「さて、では帰りに少しお店を回ってみようか。」
「はい、いいですね。」
俺達は軽く店を回った後に、駅で別れた。
彼女は彼と別れた後、あろ人物に電話をかける。
「彼はああ言っていたが、君はそれでも自分を卑下するつもりか?」
「私が自分勝手なことをしているのは自覚しています。
でも、自分勝手を通そうと思います。少なくとも彼は気にしなさそうなので。」
「ああ、紺野さんが気にする必要はないよ。」
「でも、良いんですか?敵に塩を送るような真似をして。」
「それはまぁ、正直痛手ではある。
でもこれが私の性分なんだ。正々堂々君と戦うよ。」
「はい、負けません。
ただ、今日のことは本当にありがとうございました。」
「ああ、ではお互い頑張ろう。」
そして、紺野さんとの電話を切る。
今度は今回の協力者へと電話をする。
「胡桃、今日は助かったよ。
今度、何かお礼をする。」
「お礼はいいよ。
だって、全く里香が得してないし。
私は反対したのになー。」
「う、それはまぁ言い訳のしようがない。」
「ま、里香らしいけどさ。
でも私からの情報だけでよく事情を把握できたね。」
「紺野さんと彼の関係は何となく分かっていたからな。
今回の作戦を思いついたのはたまたまだが、上手くいってよかった。」
「さすが里香。
しかも三上君には秘密にするんでしょ?」
「ああ。」
「ほんっと優しすぎる先輩だよ、私の親友は。」
「胡桃には負けるよ。」
「はぁ、そういうところだよ。」
少し、沈黙の時間が訪れる。
「負けんなよ、親友。」
「ああ、ありがとう親友。」
こうして上野先輩の優しい企みは無事成功に終わった。
次回、紺野さんが勝負をかけます。
完結まで、あと3話。




