第17話 誰かを信じられる理由
ブックマークと評価、よろしくお願いします。
自分が誘拐されていると気づいたのは、執事の守谷が見たことない顔をして屈強な男達と話始めたときだった。
最初は守谷の「お買い物に出かけましょう。」と言われて、実際それだけだと思っていた。
普段から優しく、私のことを気にかけてくれていた優しい彼はそこにはいなかった。
力が強く、欲望や憎しみで突き動かされるような危険な男だったのだ。
死を覚悟した。実際死ぬところだったようだし。
不思議と涙はでなかった。多分、感情が追いついていなかったのだ。
足音が聞こえる。目隠しをされているせいかやけに音が鮮明に聞こえる。
人は五感のどれかを封じられると、自然と他の感覚が敏感になるというのは本当らしい。
これが、東条家に生まれたものの宿命。きっと今を生き延びても、私は永遠にこの宿命からは逃れられないだろう。いっそこのまま。
その足音はやけに軽く、ドアもそっと開かれたようだった。
守谷じゃない?じゃあ一体。
目隠しを外され、そんこに居るはずのない人物が笑顔でこちらを見る。
「助けにきたよ、お姫様。」
私はこの日、絶望を味わった。
人はそう簡単に信用してはいけないのだと知った。
でも、この世界には敵ばかりじゃない。
私の味方になってくれる人は必ずいる、そう思えた日でもあった。
朝、目が覚めるとパジャマが汗で濡れていた。
久しぶりに見ましたね、この夢。
昔はこの夢を見ると、次の日には涙の後があって皆に心配されましたね。
でも、表情は明るいから余計不思議がられました。
鏡で自分の顔を見る。
「最悪の夢のはずなのに、どうしてこんな顔ができるのでしょう。」
それも全て、優悟君のせい。
「これはやはり責任取って、執事になってもらうしかありませんね。」
朝、学校に行くとなにやら隣の席が騒がしかった。
東条さんの周りに人だかりが出来ていたのだ。
まぁ、名家のお嬢様なのに思ったより話しかけやすいし、美人な上に物腰も柔らかい。
それなら人気も出るか。
俺はその様子をぼーっと眺めていると、東条さんと目があった。
彼女は少しそのまま目を合わせたまま、俺に微笑む。
おい、可愛いな。こいつは将来とんでもない女になりそうだ。
などと、バカなことを思っている間に東条さんの視線は再び周りへと移る。
そんなこんなで今日一日俺の周りは騒がしかった。
ホームルームが終わった。
俺が帰り支度をしていると、後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには志藤君がいた。
「志藤君、何か用事?」
「実は、お嬢様が三上様と週末買い物に行きたいとおっしゃっていまして。
もし、三上様のご予定がないのであれば一緒に行って下さいませんか?」
うむ、この前は執事の話を断ってしまったばかりだしな。
まぁ、状況的に俺が罪悪感を感じる必要なんてないのだが、今回は応じよう。暇だし。
「せっかく誘って貰ったし、行こうかな。
集合場所とかは後日相談って感じかな?本人は今いないみたいだし。」
「はい、なのでこちらを。」
俺はスマホを渡される。
何コレ?急なプレゼント?
「こちらはお嬢様と連絡を取るための端末です。
お嬢様と連絡を取る以外の機能は制限されています。
一様私とも連絡を取れるようになっておりますので、私に用事があればご連絡下さい。」
「あ、ありがとうございます。」
セキュリティは万全だな。
まさか連絡を取るのに専用の端末が必要とは。さすが東条家。
「では、私はこれで。」
「あ、うん。また明日。」
颯爽と帰って行く志藤君の姿を見て、やはりかっこいいなと思う。
あの人と並んで執事やる自信はないな。
その後、俺は東条さんからの連絡を待った。
しかし、待てど暮らせど連絡はない。
そんなこんなで今日は金曜日。そろそろ予定を決めたいのだが。
これはこっちから連絡してもよいのか、ここは考えるより行動だな。
俺は東条さんに送るメールを考える。
『こんばんわ。
夜分遅くに失礼します。
先日お約束した件なのですが、そろそろ詳細を詰めたいと考えています。
今、お時間よろしいでしょうか。』
あれ?俺はこれからクラスメイトにメールを送るんだよな。
この文は明らかに取引先に送るやつだ。書き直そう。
『こんばんわ。
三上です。
志藤君に誘ってもらったんだけど、週末買い物に一緒に行く予定だよね。
集合場所とか決めたいけど、今時間大丈夫?』
よし、こんなもんか。
俺はメールを送信する。
するとすぐに返事が返ってきた。
『大丈夫です。
せっかくですので電話でお話しましょう』
返信早いな。
すぐに東条さんから電話がかかってくる。
俺はそれに出ると、彼女は嬉しそうな声で話し始めた。
「こんばんわ。今日は月が綺麗ですね。」
「あ、うん。綺麗だね。」
「ふふ。
三上君は月が綺麗という言葉の隠された意味は知ってますか?」
「ま、まぁ。
あなたを愛してる、みたいな感じでしょ?」
愛してる、なんて言うだけで恥ずかしいな。
「ええ。
不思議ですね、ただの感想にそんな大切な意味を含めるなんて。」
「大切だから、簡単には伝えられないってこと何だろうね。」
ん?何を言ってんだ俺は。
「それは分かる気がします。」
それから少しの沈黙の後、俺達は明日の予定を話しあった。
ひとまず駅に集合して、そこからショッピングモールへ向かうことに。
駅に集合するが、移動手段は車になるようだ。
なぜ駅に集合する必要があるのか、聞こうと思ったが、結局聞かなかった。
まぁお嬢様だし、色々事情があるのだろう。
当日、俺は集合時間5分前に駅に着いた。
集合場所の木の下に行くと、そこには綺麗な白いワンピースを着た東条さんとスーツをビシッと着た志藤君、そしてその2人と楽しげに話す紺野さんの姿があった。
次回、東条さんから紺野さんに優悟に関するあの事が明かされます。




