第15話 執事の誘い
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今日、転校生が来るらしい。
6月に転校生とは珍しい。まぁ高校で転校という時点で珍しい気はするが。
しかも二人。噂ではイケメンと美少女らしい。
まぁこのクラスにはすでに蒼空と北条に、西条さんと紺野さんもいる。
今更騒ぎ立てることもないだろう、と思っていたが。
教室に現れたのは明らかに高貴な雰囲気を纏った女性とまるで物語に出てくる騎士のような姿勢で立つ男だった。
これは、すげー。まるで二人がいる所だけ別空間みたいだ。
クラス全員二人に釘付けで、声を発する者すらいない。
「初めまして。東条 冬美です。
これからどうぞよろしくお願いします。」
その声は決して大きいわけではないが、周りを圧倒するような迫力を持つ綺麗なものだった。
しかし、どこかで聞いたことある声のような。
「も、もしかしてあの東条家の?」
誰かがそう言った。
言った当の本人はうっかり口を滑らせてしまったようで、額に汗をかいて俯いてしまった。
しかし、彼女は笑顔でその疑問に答えた。
「はい、私は東条家の長女。
いずれは兄とともに東条家を支える覚悟です。」
東条、確か東京に古くからある名家だっけか。
「東京にある全ての企業は東条家から始まる」なんて誰かが言ったらしい。
さすがにそんなことはないと思うが、お嬢様であることは間違いないだろう。
でも俺、東条家の人なんて見たこともないのになぜか彼女を初めて見た気しないんだけど。
まぁいいか。
彼女のターンが終わると見るやいなや、隣の騎士が口を開く。
「私は志藤 正道。
この方を守るのが私の使命です。どうぞよろしく。」
おいおい、本当に騎士だったよ。
ははは、何か見てるだけで面白いな。
自己紹介を一通り終え、二人の席は俺の後ろとなった。
俺は窓際の一番後ろの席。朝来たら後ろに机が二つ用意されていたしな。
二人とも俺の後ろに来ると思っていたが、急に俺の横の朝日さんが俺の後ろに移動する。
そしてさも当然かのように東条さんが俺の席の隣に。
志藤君は東条さんの後ろに座る。
「えっと、東条さん?」
「はい。
これからよろしくお願いしますね、優悟君。」
「ああ、うん。よろし、、、。」
突然、後ろの席から殺気を感じる。
やばい、敬語じゃなきゃ殺される。
「よろしくお願いします。」
これはなぜ俺の隣に?
何て聞ける雰囲気じゃないな。
「放課後、少々時間はいただいてもよろしいでしょうか。」
「え?
は、はい。大丈夫ですけど、一体何のお話でしょうか。」
「それは、すみませんがここでお話するわけには参りません。
どうかご容赦ください。」
「わ、分かりました。」
何の用だろうか、俺何かしましたっけ?
取りあえず不敬な態度を取って殺されないよう注意しよう。
こうして放課後、俺は一人で校門の前に来た。
車の中で話すというので、校門集合とさっき言われた。
黒くて長い車が門の少し先に駐車している。俺は恐る恐る近づき、中の様子を伺う。
中にはすでに東条さんと志藤君がいる。
俺は深呼吸をし、扉を開く。
「お待たせしました。」
「いいえ、こちらこそお呼び立てしてしまい申し訳ございません。
どうぞ、お座り下さい。」
俺は東条さんの隣に座る。
長すぎる胴体の後方の後部座席に彼女と共に俺はいる。
志藤君は運転手の隣の助手席だ。運転手の方が東条さんの許可を取り、車を発進させる。
少し走ったところで、彼女が口を開く。
「どうでしょう?うちの車の乗り心地は?」
「えっと、すごいいですね。
何というか高級車という感じで。」
「そうですか?
私はあまり好きではなくて、無駄に大きいですからコレ。」
それあなたが言っちゃうのって感じだな。
でも、思ったより親しみやすい人みたいで安心した。
取って食われるようなことはなさそうだ。
「さて、早速本題へと参りましょう。」
「はい。」
彼女は俺の方に向き直り、まっすぐ目を見てから話を始める。
「あなたには私の執事になっていただきたい。」
「執事?
というーと、あれですか?身の回りの世話をしたりする?」
「はい、その執事です。」
なぜそれを俺に?
そもそも志藤君がいるじゃないか。
「その、俺に務まるとは思えないのですが。
志藤君がいるのですし、必要ないのでは?」
「確かに、彼がいれば普段の生活に問題はありません。
しかし、あなたのような人に私は側にいていただきたい。
心から信頼できる人物に。」
心から信頼できる?
はて、なぜそんな結論に。
疑問だらけだ。一つ関係がある話があるとすれば。
「もしかしてウチの母が関係ありますか?」
「それは否定できません。」
母さんは昔メイドをやっていたらしい。
てっきりメイド喫茶だと思っていたが、リアルメイドだったのか。
しかも東条家の関係者とは。
「実は昔、あなたのお母様が私の使用人になっていただいた時期がありまして。
その時は大変助けていただきました。そして、ある約束をしたのです。」
約束?嫌な予感がする。
「もしあなたにお子さんが生まれたらウチの使用人にしても構わないですか?と」
おいおい、何その親が勝手に婚約者を決めましたみたいな展開は。
「それで母は何と?」
「子供の意思を尊重すると。」
ふぅ、決定権は俺にあるようだ。
「えっと、大変ありがたいお話なのですが俺には務まりそうもないですし。
丁重にお断りさせていただきます。」
「そうですか。それは残念です。」
あれ?やけにあっさり。
そこで車が止まり、目の前には俺の家が。
「本日はお付き合いいただきありがとうございました。
これからはクラスメイトとしてよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。」
こうして、俺は家へと帰った。
不思議な出来事だった。今日はもう早く寝よう。
次の日の放課後。
ある二人の少女が優悟と同じように東条家の車に呼び出された。
優悟のことを好きな女の子と優悟が好きだった女の子。
「あの、私達はどうして呼ばれたのでしょうか。」
「すみません、少しお話したいことがございまして。
上野先輩、紺野さんあなた方に。」
「お話とは。」
「はい、一つお聞きしたいことがありまして。」
彼女はただ聞きたいことをストレートに私たちに問いかけた。
「あなた達は優悟君とはどういう関係なのでしょうか。」
次回、東条さんの秘密が明らかに。




