第1話 負け確定ヒロイン登場
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「どいてーどいてーー。」
甲高い声とともに巨大な物体が俺の前に飛び出してきた。
ドンッ!
「いったーーい。」
俺の目の前でやってしまったという顔をしながら頭を押さえる女。
なんだこいつ。俺は普通に通学してただけなのに、急に横からぶつかってきた女の子。
あんまり痛くはないが、気分の良いものではない。
「ごめんね、急いでて。
はい、これ。これで許して。」
そう言いながらその子は俺に黒い物体が入った透明の袋を渡してきた。
女の子はすぐに立ち上がり、こちらに一礼して去って行った。
俺はその袋を開け、匂いを嗅ぐとカレーとラーメンとキムチを混ぜたような匂いがした。
「なんだ、これ。
食べたら死ぬんじゃないか。まぁせっかくもらったし、蒼空に押しつけるか。」
俺は教室に入り、席に着くとさっそく蒼空に話しかけられた。
「優悟、久しぶり。
正月ぶりか。」
「おっす、冬休みはどうだった?」
「どうもこうも、基本、響子と一緒だったしなー。」
「へいへい、仲のいいこって。」
「優悟も作ればいいじゃん、響子も優悟なら友達紹介してもいいって言ってたし。」
「施しはいいよ、俺は1人が好きなんだ。
人を好きになるようなことも小学生以来ないし。」
「小学生ってあの先生を好きになったってやつだろ?
それはカウントされないって。」
「そ、そんなことないし。めっちゃ好きだったから。」
そんな事を話していると先生が入ってきてホームルームが始まった。
久しぶりに会ったが、相変わらず良いやつだな。真っ先に俺に話かけてくれるとは。
正直彼女にかまって俺はほったらかしにされると思ったからな、少し嬉しい。
しかし、北条のやつに友達がいたとは。今度紹介してもらおう、恐らく口止め料としてご飯を奢ってもらえるはずだ。
睡魔と戦いながら、何とかその日の授業を終えた。
帰る支度をしていると、俺は蒼空に声をかけられる。
「優悟、、今一緒に帰らない?
響子とゲーセン行こうと思って、優悟もどうかな?」
ゲーセンか、久しく行ってないな。せっかくだし、俺も。。。
だが、俺は教室のドアの向こうからの視線を感じ、断る決心をした。
「悪い、俺今日は用事があるんだ。」
「そっか、じゃあしょうがないね。」
少し残念な顔をする。まずい、このままだと後でこの視線の元から色々言われそうだな。
「お、お迎えが来てるぞ。」
蒼空は教室の出口の方に視線を向けるとそこには笑顔で手を振っている響子が。
あいつ、さっきまで鬼の形相だったのに。
「ほんとだ、ごめん優悟俺いくね。
じゃあまた。」
「おお、じゃあな。」
そう言って、蒼空は響子の元へ。
すると、すぐにスマホに通知が。
『賢明な判断ね、褒めてあげる。』
ものすごい上から目線だが、どうやら俺の判断は正しかったらしい。
少し時間をおいて教室を出てると、そこにはこの世の終わりみたいな顔をした女の子が立ったまま死んでいた。
俺は他人の振りをしてその場を立ち去ろうとすると、その女の子に裾を掴まれる。
「ねぇ、君さっき宮澤君としゃべってたよね?
もしかして友達?」
「う、うん。そうだけど。」
ていうか、こいつさっき俺に黒い物体を渡してきたやつか。
どうやら俺のことは覚えてないらしい。
そのまま、俺は空き教室に連れ込まれた。
「あのさ、もしかして宮澤君と北条さんって、、、。」
質問をしてきたくせに、両手で耳を塞いでいる。
俺はちゃんと聞こえるように少し大きめの声で言う。
「ああ、蒼空は北条と付き合ってる。」
「う、うそ、、、、。」
その子はその場に崩れ落ちた。
「もしかして、蒼空の事好きなの?」
「え?な、なんで?」
「何でって、まぁその。
あれだ、男の勘ってやつだ。」
「そ、そっか。すごいね男の勘。」
どうやら、少しバカのようだ。
まぁそんな事はどうでもいい。
「残念だけど、諦めた方がいい。
あいつらはそう簡単に別れたりしないだろうから。」
「そ、そうなんだ。
で、でも好きって気持ちはまだあるから。
当たって砕けろで告白してみるよ。」
どうやら肝が据わっているらしい。彼女のいる男に告白するとは。
「で、何かプランはあるのか?」
「バレンタインデーにとびっきり美味しいチョコを渡して告白。
なかなか良いアイデアでしょ?」
「へーー。で、間は?」
「間って?」
「だからバレンタインデーまでの間は何をするのかってこと。」
「それは特に何も考えてないけど。
でもでも、今からバレンタインデーに向けてチョコの試作してるから。」
「いや、まだ1ヶ月以上あるだろ。
なるほど、最後のプランしか考えてないのか。うーーーん。
まぁきっかけくらいなら作れるか。俺に一旦任せてくれ。」
「え?協力してくれるの?」
「うん、冷やかしってわけじゃないみたいだし。
チャンスは誰にも平等にあっていいだろ。」
「ありがとう、、、だけど北条さんが納得するかな?」
「無理だな。」
「即答!!
え?じゃあどうするの?」
「納得させることはできなくても、説得するための策はある。」
「す、すごい。
最初は凄い頼りなさそうだなこの人、相談しても無駄かなって思ってた自分を殴ってやりたい。」
「そうか、それは思う存分殴ってくれ。」
どうやら凄い素直な子らしい。でも、悪いやつではなさそうだ。
「じゃ、また明日。
俺の策が上手くいけば、今週末には遊ぶ機会を作れるだろうから空けといてくれ。」
「う、うん。
えっと、大変なこと頼んじゃってごめんね。」
「別にいいよ、友達に関することなら無視するわけにもいかないし。」
「三上君は友達思いだね。」
彼女は笑顔でそんな事を言う。
こいつは気合い入れてやってやりますか。
「あ、そういえば名前言ってなかったね。
紺野 美波です。よろしく。」
「おお、よろしく。
俺は、、、。あれ?なんで名前知ってるんだ?」
「え?あーーー、ちょっとね。友達から聞いて。」
「そ、そうか。」
思いっきり目をそらしたな。何か言いづらいことでもあるのだろうか。
俺はそこで紺野さんと別れて、家へと帰る。
帰ってすぐにメッセージを北条へ送る。
5時間後、メッセージが帰ってきた。
『話って何?』
『電話の方が話しやすいんだが、電話でいいか?」
『まぁいいけど。』
俺は深呼吸してから電話をかける。
やっぱり女の子に電話をかけるのは緊張するな。
「もしもし。」
「で、用って何?」
「いきなりだな、雑談タイムとかないのかよ。」
「話したい相手と今さっきしてきたばかりだし。
私、基本男と話すのは時間の無駄だと思ってるから。」
「それはそれは、さすが学年二大美女の一角、北条様は格が違いますね。」
「ふざけるなら、切るわよ。」
「ご、ごめん。本題に入ります。」
「よろしい、で?」
「えっと、大変言いづらいことなんだけど。
実は蒼空のこと好きっていう女の子がいて、その子が蒼空と遊ぶ機会を作りたいのだけど。
いい?」
「ぜっっっったいダメ。」
「だ、だよな。」
「というか聞く前から分かるでしょ。彼女に何聞いてるのよ。」
「そういや、俺に友達を紹介してくれるって蒼空から聞いたけど、どんな子なんだ?」
「へ?あーえっと、、その可愛い系の子よ。」
「学校は?部活は?好きなタイプは?」
「え、えっと、それは。
はぁ。私の負けね。で、その遊ぶのを許可すればいいの?」
「ああ、頼む。別にお前らに別れて欲しいわけじゃないんだ。
ただ、その子にチャンスを与えてやりたい。」
「はぁ、本当にお人好しね。
でも、今回限りだから。」
「ああ、それでいい。」
そして俺は通話を切る。
これで任務完了か。
しかし、やっぱり友達なんていなかったな。
次の日の放課後。
俺は昨日と同じ部屋で紺野さんと会っていた。
「というわけで、今週の土曜日4人で遊ぶことになった。
設定的には紺野さんは俺の友達だからそこら辺よろしく。」
「う、うん。
ありがとう、三上君。私、頑張るね。」
「あーうん。
でもどう頑張るかは事前に教えてね、心配だから。」
「えーー。心配性だねー三上君は。
まるで沙也加みたい。」
ガラガラ。
突然部屋のドアが開いて、とんでもない美少女が入ってきた。
「だ、だれ?」
その子はこっちにやってくるやいなや俺の頬を思いっきりビンタした。
「美波に手を出すきなら今ここで私に殺されても文句ないわね。」
「は、はい?」
「沙也加、やめて。この人は私の恋を応援してくれてるだけで。」
「え?そうなの?
ごめんなさい、てっきり美波を襲おうとしてるのかと。」
「あ、ああ。
分かってくれたならいいけど。」
こ、怖。美人はなんでこう迫力あるやつばっかなんだ。
この人が二大美女のもう一角。
西条 沙也加。まさか紺野さんと知り合いだったとは。
「じゃあ、私は一旦外出てるわね。
美波、終わったら一緒に帰りましょう。」
「うん!」
「ああ、それとさっき言ってた土曜日の件私も行くから。」
「お、おう。
皆に連絡しときます。」
「ええ、よろしく。」
この後、俺は紺野さんと当日の作戦を練った後、家に帰った。
とんでもないメンツになってしまったが、果たしてどうなることやら。
一番大変なのは、渦中の本人が何も知らないことだな。
ごめん、蒼空。
次回、皆で遊びに行きます。