そして誰もいなくなった。ついでに、お金もなくなった。
3夜連続更新チャレンジ、4夜目! あれ?
真実はいつもひとつ。少なくとも、ひとつは存在する……はず。
経済ミステリーの行く末やいかに。
なんか、お腹空かない? ご飯は何にしよう?
道行くみんなにインタビュー!
Q.ご飯どうする?
A.こっちのスーパーで買うわ! なんてったって、美味しい野菜がとっても安いの!
野菜ならこっち。めもめも。
Q.ご飯どうする?
A.そっちのスーパーで買うわ! なんてったって、美味しいお肉がとっても安いの!
お肉ならそっち。めもめも。
Q.ご飯どうする?
A.あっちのスーパーで買うわ! なんてったって、美味しい魚がとっても安いの!
魚ならあっち。めもめも。
Q.ご飯どうする?
A.カレーだから、こっちとそっち!
Q.ご飯どうする?
A.ぶり大根よ! あっちとこっち!
Q.ご飯どうする?
A.餃子がいいわね! こっちとそっち! エビ餃子? じゃあ、あっち!
Q.ご飯どうする?
A.たまにはステーキ! そっち! 付け合わせ? 要らないわ!
ややこしい!
でもでも?
Q.住めば?
A.都! 今日はこっち! とにかくサラダが食べたいの!
Q.大豆は畑の肉って言うよね?
A.そっち! じゃない、こっち!
Q.水を得た?
A.魚! あっち! でも気分はお肉なの! そっち!
Q.こっち?
A.そっち!
Q.あっち?
A.どっち!?
さてさて、そろそろ覚えたかな?
野菜はこっち、お肉はあっ……そっち。魚はあっち!
噛んでない、噛んでない。私間違えてないよー?
Q.私たちの町は?
A.ご飯が美味しい!
Q.こっちは?
A.野菜!
Q.そっちは?
A.お肉!
Q.あっちは?
A.魚!
おーけー、もうばっちりさ!
私たちの町は、いつも大賑わい!
Q.毎日毎日、お腹は空くし?
A.こっち、そっち、それからあっち!
Q.こっちで野菜?
A.あっちで魚も!
Q.そっちでお肉?
A.こっちで野菜も!
Q.ご飯が美味しいこの町は?
A.大好き! 次はあっち!
そんなこんなで、この町の道はいつも大混雑!
こっち? そっち? それからあっち? 買い忘れ? こっちに戻る?
こっちからそっち、あっちからもそっち? ごっつんこ? まいがー。
あっちからそっち? そっちからこっち? こっちからまたこっち? 何忘れたの?
Q.それでは今日も?
A.ご飯が美味しい! この町大好き!
わーい、ぱちぱちぱちー(拍手)。
明るく楽しいこの町が、私も大好きです!
そんな町の活力源? スーパーの店長さんにインタビュー!
Q.こっちのスーパー、野菜がすっごくお得ですね!
A.ええ、本気で利益を削って、頑張っているわ!
Q.そっちのスーパー、お肉がすっごくお得ですね!
A.ええ、本気で利益を削って、頑張っているぞ!
Q.あっちのスーパー、魚がすっごくお得ですね!
A.ええ、本気で利益を削って、頑張っているぜ!
経営努力、ばんざーい!
Q.でもでも? もうちょっと高くてもいいんじゃない?(×3)
A.だって、他のスーパーに負けちゃうから!(×3)
仲良しか!?
差別化戦略、おおいに結構!
でもでも最近? 物価が上がって??
経営大変なんじゃない???
Q.こっちのスーパー。
A.頑張っているわ!
Q.そっちのスーパー。
A.頑張っているぞ!
Q.あっちのスーパー。
A.頑張っているぜ!
うーん、頼もしい!
そんなとき、どっかの街でビッグニュース!
Q.どっかの銀行の頭取さんが、交代になったんだって!(×3)
A.げっ!(×3)
Q.どっかの頭取さん、経営は大丈夫?
A.ひどい! こっちもそっちもあっちも、赤字ばかりだ!
Q.こっちの野菜、なんでこんな安いの?
A.だって、そっちのスーパーが!
Q.そっちのお肉、なんでこんな安いの?
A.だって、あっちのスーパーが!
Q.あっちの魚、なんでこんな安いの?
A.だって、こっちのスーパーが!
Q.金返せ!(×3)
A.ぎゃー(×3)
……。
そして、私たちの町のスーパーは、こっちもそっちもあっちも、潰れました。
無茶しやがって……気を取り直して、インタビュー!
Q.お腹空いたね?
A.お腹空いたよ!
Q.もう?
A.こんな町になんて居られない! もう耐えられないよ!
引っ越し資金をかき集めて!
新たな自由を求めて!
次の町へ、旅立つんだ!
†
そして誰もいなくなった。ついでに、お金もなくなった。
そんな荒れ果てた幽霊町に、黒い影がやってきた。
「おお……なんと貧乏くさい! いいぞ! 実にいい!」
――それはもうやりました! 勘弁してください!
(短編『のうなし案山子 vs 最悪の魔王、カネガス=ヴェーテ』より)
「さてさて、大変残念なことに、大好きな町は閑古鳥が鳴いているな!」
――ああ、はいはい、どーせクリアできませんでしたよ。
「その割には、人に聞いてまわってばかり。クリアする気はなかったようだが?」
やたら煽ってくるこいつは、最悪の魔王、カネガス=ヴェーテである。
その魔王城、無限遊園地の一角。体験型アトラクション。難易度は狂気の沙汰。
ちょうどバッドエンドを迎えたところだ。どうしろと?
「では、答え合わせをしようか? 原因はなんだった? 『次の町』では、どうすれば住人に逃げられずに済む?」
――せっかくの良い品物を、安売りしすぎたから。それを止めれば……。
「ダメだな。野菜もお肉も魚も、本気で利益を削っているが真っ当な良心価格だ。原価割れはしていない。あくまで正当な価格競争の結果であって、不当廉売にも当たらない」
――価格競争なんて止めて、品質で勝負をする。
「元から品質では勝負しておるよ。大体、価格協定……カルテルは違法だぞ? まさか、不法な行為をオススメするわけではあるまい?」
――うぐっ……。じゃあ、3つのスーパーが合併すれば。
「わたしのかんがえたさいきょうのスーパー、かね? 協定を結んでいるのと変わらん。トラストも違法。まさか、不法な行為を(以下略」
――たとえば、こっちのスーパーは野菜で多少の利益が出ていても、お肉や魚は売れ残って大赤字になってる。そっちもあっちも、得意じゃないものは大赤字だ。だったら、スーパーなんて止めて、八百屋、肉屋、魚屋として手堅くやっていく。
「他の町からスーパーが移転してきて以下同様」
――そもそも、借金をせずに、価格をもう少しだけでも上げていれば。
「金がなくなっての倒産が早まるだけ。というか、元よりあのスーパー3軒は全て借金を負って事業開始しているものとする。そうでないなら、他の町から借金を負ってでも事業拡大してきたスーパーが進出してきて、あとは同じ流れだ」
――リーズナブルな商品はそのままに、利益幅の大きい高級品も並べる。
「御客様はどちらを選ぶと思うね? 途中で物価高に見舞われるのだが?」
――お金がないのが原因なら、株とかで利益を上げる。物価高なら、大企業のような販売価格を上げやすいところはかえって利益が増えている。
「借金経営でさらに投資をしろと? 頭取がやってくるのが早まりそうだな? そもそも、本業で利益が上がらなくて副業に賭けるのはまともな経営だと思うか?」
――思わない。でもそれ、カネガス=ヴェーテには言われたくない。
あと、これはあくまで会社の話な? 会社が本業に集中するほど、企業努力(笑)の結果として社員さんの給料が上がらなくなって、社員さんは副業に手を出すようになる。
あれ? 全体で見たら結局同じことじゃない? とか、正直思うけど、ままあること。
副業を個人でやるのは自身を安売りしすぎない限り、自由じゃないかなぁと思います。
「おい、誰に言い訳しとるんだ?」
――ああはいはい、美味しいご飯届けようぜ! って掲げてるスーパーが短期投資に夢中になってたらどん引きですよね。社会的分業ばんざーい。
†
困った。経済ミステリーを書いてみよう――なんて気軽に考えたものの、これ、答えなんてあるのか? 小手先のアイディアじゃ、まるで太刀打ちできないぞ?
「どうした? ギブアップかね?」
――視点を変える。新機軸を起こすのはどうだ? 画期的な保存技術が開発されれば、食品ロスからの赤字はなくなるのでは?
「そのための開発費をとても用意できず、金がなくなって潰れるな」
ダメか。それなら。
――じゃあ、法律を変えるのは? カルテルやトラストを禁じている法律を廃止する。価格を好きに決められるようになれば……。
「失敗する。ひとつの町の都合で、国のルールは変えられない。他の町が反対して終わりだ」
――他の町のことも尊重しろ、そういうことでいいかな?
「そうだ」
――なら、私としてはスーパーも尊重しなければいけないな。経営が苦しいので、国に支援を求める、というのはどうだろう?
「おお! 揚げ足を取ってくるとは素晴らしい。それなら、スーパーは潰れずに済む!」
その返答に、喜んだのも束の間。
「そして、死に体のスーパーは、ゾンビスーパーとして復活を遂げた! 絶対に潰れない! どれだけ! 価格を削っても! 国が潰れさせてくれない! 社員の給料は絶対に上がらないが、食品以外の物価はどれだけでも上がる! 店員たちは過労死した。スーパーは人員不足で潰れた。そして誰もいなくなった。……バッドエンドその2だ、おめでとう!」
――アホかぁぁぁぁぁっぁ!?
「国はスーパーを助けるべく、どんどん金を刷るのだぞ? 企業努力のため給与は上がらないが……普通に物価は上がる。当然だろう?」
――実際には国債がどうとか、言いたいことはあるけど、結局同じだよなぁ……。
†
――無理。解けそうにない。
「ふふ、ふはは、あーっはっはっは! ざまぁないな」
――だぁぁ、畜生、ホント腹立つ。なぁ、これ、ホントに答えあるの?
「はて? さきほどは揚げ足取りをしてきたしなぁ。迂闊なことは言えないなぁ」
――だいたい、こんなの解けるワケないじゃんかー。あーもー。
魔王は何も答えない。本当にノーヒントかよ。
――だってさ、みんな薄情だよ! 口先ではこの町が大好きとか言っときながら、すぐに逃げ出すじゃないか! 誰もこの町なんて愛してないんだから、どうにかなるワケが……。
あれ? 誰もこの町を『愛していない』?
この町の住人たちは、確かにこの町が大好きなんだ。恋をしている。どうしようもなく、欲している。得をしたがっている。
反面、誰もこの町を愛していない。愛するということは、与えること。無粋に言い換えるなら、損をしても構わないと思えることだ。この町の住人たちは、損をしたがらない。
誰もが得をしたがり、絶対に損をしたがらない?
全員? ひとり残らず? それでどうやってお金が回るんだ?
え、つまりそういうこと?
この気付きを、魔王に突きつけた。
――人が人を愛することなしに、この町は決して救えない。
魔王はそれを聞いて――、
†
そして私は目を覚ました。
あの野郎、夢オチで逃げやがった!? 本当に最悪だ!
ああもうせめて、ちゃんと正解だったかどうかだけは教えてよ!
ミステリネタのついでに、誤誘導を仕掛けていた話。
前々々々回(4夜連続更新を始める、そのさらに1つ前)短編「それいけ!キャピタリズム号」で仕掛けていた罠について、ネタばらし。
いつもの友人が綺麗に引っかかってくれていました。
資本主義号に乗って、宇宙に飛び出していき、最下段をどんどん切り離していく話。
資本主義を皮肉っているんですね! と思われた方は、作者のトラップに掛かっています。
資本主義は最下段を必要とするでしょうが、切り離しはしません。搾取のためにね!
これは「新たな自由を求めて!」の一節がヒントになっていて、資本主義の皮肉とみせかけた、新自由主義への皮肉。
でも大体、資本主義が悪者にされます。悪者にしちゃった?
同じ一節がこの短編にも出てくる……ということは?
さて、次回は『杞憂』、体感型アトラクション。5夜連続はさすがに無理ですが、近いうちに。
あとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが爆上がります。よろしくね!^^