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エルテンリンク  作者: だっくす憤怒
6/20

きっと初恋だった







 ――朝か。


 俺はやり遂げた……ゴブリン族とかいうヤベー案件を秘密裏に処理しきったのだ。

 もちろん誰の評価も得られないが、そんなことはどうでもいい。


 確かに今回の件は反省点が多いだろう。それでも、イレギュラーに対してできる限りの対応はしたつもりだ。


 ただ、どうにもできそうにない新たなイレギュラーも呼び寄せてしまったが……。


 ふと窓際のテーブルに置かれた、新しい植木鉢に視線を送る。そこには心地よさそうに眠るアサガオちゃんの姿。

 結局アサガオちゃんは帰らなかったが、以外にも俺の言うことをそれなりに聞いてくれた。新鮮なトマトさえくれてやれば、それなりにお願いも聞いてくれる。


 また、鮮度によって機嫌も変わった。


 萎びたトマトを捧げようものなら、キレて俺の生命力を直接吸ってくる。と、ここまで言えばわかるかもだが、どうやら俺はヤツに寄生されているらしい。今はこの現実を、加護を得たと考えるべきかでとても悩んでいる。


 でも原作がなぁ……。

 やはり俺の行動は安易すぎたよな。


 そうだ。そろそろメスガキに報告してあげないと。

 用意してもらった日用品は使わなかったが、なにかしら贈り物でご機嫌をうかがわねばなるまい。まぁ、バナナでいいだろ。







「シルバーはつまんない」

「え? い、いきなりどうした」

「ちょっと期待してたけど、所詮は老舗どまりだね。創業日だけが誇りになっちゃった感じ。もう永遠に慎ましい生活してたらいいよ」

「あんなに仲良くなっただろ! どうしたんだ一体!?」



 よくわからんが、メスガキが塩対応に戻っている。

 老舗に恨みでもあんのかコイツは。



「わかんない? 探索者のくせに探索者じゃないから」

「…………いや、哲学はちょっと」

「そうやって誤魔化すシルバー嫌い。しんじゃえばーか!」

「わ、悪かったって……せめてもう少しかみ砕いて教えてくれよ」

「はぁ。どうせあの子をほっぽり出して帰ってきたんでしょ? 村が滅ぶとか言いわけして、あの子から逃げてきたのわかるもん」

「……はぁ? んなもん当然じゃろがい! 相手はゴブリン族だぞ? それは俺を責めるのが間違っている。強者の理論ってのは、弱い俺たちには通用しないんだ」



 無茶言いやがって。俺だって組合長や村長が逃げたのは理解できる。今回の件は災害みたいなもんだろうが。


 俺にとってこの村は、だらだらと過ごせる最高に腐った村だ。

 主人公は最初期にしか滞在しないし、この場所を失わずにすむならと思って頑張ったんだぞ。それを――



「ボクね、シルバーが困ってたら協力するつもりだったよ?」

「……あ、あぁ」

「ちょっとした騒ぎになるかもってワクワクしてたのに、その日の内に解決して帰すとかありえないよ。しんじゃえ」

「トラブル期待してんじゃねーか。冗談抜きで滅ぶって何度い――あ、お前まさか!?」



 こ、こいつ……最初から騒動を期待してやがったのか? 

 どおりでやたらと協力的で優しいなぁと思ったんだ。仲良くなれたと勘違いしちまったよクソが……。



「よくも騙してくれたな」

「別にだましてないじゃん。勝手に勘違いしたのはシルバーだし」

「お前だけが手を差し伸べてくれたって喜んでいた俺のピュアハートを返せ」

「……え?」

「責任取れよ。初恋だったんだぞッ!!」

「や、やだよ! ボクのせいじゃないもん!」



 めっちゃ困ってるじゃん。おもしろ。

 バカなメスガキだぜ。初恋なんてお袋の腹ん中に置いてきちまったよ。


 さらに攻勢を仕掛けようとするが、来店の鈴が鳴ったことで休戦を余儀なくされた。

 邪魔してくれた来訪者に視線を向けると、妙に頭皮が薄くなったジェイクが虚ろな目をこちらへ向けている。


 おや、なにかあったのかな?



「やぁロゼちゃん。なんだ、シルバーもいたのか」

「いらっしゃ~い」

「どうしたんだジェイク。いつもと違うような感じがするなぁ」

「は、ははは。わかるか?」

「いや? わからない。けど、なんか違和感がある」



 主に頭の部分がなァ!



「まぁそっとしておいてくれ……あ、そうだ。組合長があんたを探してたよ」

「は! 危機が去ったら仕事しろってか? いい身分だこと」

「あんたがゴブリンをなんとかした事は、もう皆が知ってるからなぁ。こう見えても感謝してるんだ」

「なぁジェイク。お前、あの時、逃げたよな?」

「いや……だってさ……」

「細かくて器のちっちゃいシルバー。ず~っと独り身のシルバーかわいそー」

「むしろでかい方だろが。それより、お前は責任取れよ?」

「ま、またそれ? もう飽きたからっ」

「逃げんの? ふ~ん? いいよ逃げても。今日からロゼは敗北者。器の小さい敗北者じゃけぇ!」

「……ッ!」



 負けるのが嫌い、逃げるのも嫌い、見下されるのはもっと嫌い。それがドラゴン。

 こんなどうでもいい煽りにも反応しちゃうあたり、まだまだ子供だな。











 ――探索者組合は、以前の賑わいを取り戻していた。


 エールを片手に、骨付き肉を豪快に食い散らかすチンピラだらけ。ぜひとも胡散臭いマナー講師を連れて来たいものだ。



「やぁシルバー君。こっちだよ!」

「……どうも」

「ははは……もちろん君の怒りはわかるとも! 特別な報酬だって用意させてもらった。それとは別だが、実は紹介したい人がいてね。ね?」

「紹介ですか?」



 事務室の奥へと連れていかれ、組合長の部屋で待っていたのは豪華な全身鎧を身に着けたイケメンであった。


 身長が高く、腰にはかっこいい銀の直剣を携えている。金のロン毛をなびかせ、青い瞳が俺を冷たく見下ろしていた。


 原作では見たことないの人物だ。

 鎧はわからないが、剣は王都で買える銀の剣か? だとしたら、覚えられる技は神速突きだろう。そこそこ使い勝手のいい剣技だった。



 原作では、武器による通常攻撃だけではなく、技能を習得して鍛えることができる。

 習得方法がやや特殊で、それぞれに技が設定された武器を使い込まないと習得できないというものだった。


 詳しく説明すると、銀の剣を持って神速突きを使わないと習得できない。

 習得できれば武器を変えても発動できるようになり、今度はスキルアップの要領で使うほど強くなっていく。


 残念ながら、俺はレベル不足のせいで体術しか使い物にならないが。



「こちらはレクセン殿。王都で活躍している冒険者で、数多くの実績を持つ優秀な実力者なのだ」

「いえお恥ずかしい。あらためて、僕はレクセン。よろしく頼むよ」

「はぁ。どうも」



 まるでゴミを見るような目で見られている。

 めっちゃ態度にでてるやんけ……そりゃそうか、王都で結果出すほど頑張っている奴からすれば、俺みたいにやる気ない奴なんて論外だもんな。



「さ、二人とも座って話そうじゃないか。エクレア君、飲み物をたのむよ!」

「うん。話というのも、例のゴブリン族の件なんだ。あー、君の名前は……」

「君で結構ですよ」

「そうはいかないだろう?」

「君で結構ですよ」

「だから!」

「君で結構です」

「…………そう、か。わかった。とにかく、冷静に話をしよう。冷静に」



 わかったからはよしろや。



「……僕は別件でこの村にやってきたのだけれど、ゴブリン族絡みとなれば一般人の手に負える問題じゃあないだろう? だから君に詳しく話を聞きたかったんだ」

「なるほど」

「それでね。疑うわけじゃあないんだけど、例のゴブリン族をどうしたんだい?」

「里に帰ってもらいました」

「説得してかい?」

「用が終わったら帰りましたよ?」

「ほう? それは妙だ」



 え? 凄まじく嫌な感じ。なんか怪しまれてるんだけど……。



「念のために確認するけど、君はゴブリン族を連れて、再度遺跡に入ったかい?」

「いいえ」

「そうだよね。おかしいんだよそれは」

「え? なにが?」

「だってそうだろう? 組合長にも確認したけど、ゴブリン族は魔晶石を求めていたんだ。なら、どうしてもう一度挑戦しなかったのかな?」

「あぁ。それは魔晶石じゃ解決にならないからです」

「どういう意味だい?」

「魔力過剰生成放出障害。それが、彼女の妹さんが患っていた先天性の病です」

「……はい?」



 説明するの面倒くさいなぁ。

 何を疑っているのか知らんが、必死にがんばった結果がこれか? たまらんきに……。



「生まれながらに途方もない魔力を持つが、放出器官が一般レベルであったがために発生する障害です。放出しきれずに溜まった魔力は、出口を探すように自身の体を傷つけ、確実な死をもたらします。それを防ぐために魔石や魔道具を用いることで――」

「わかった!! よくできた話をありがとう。それで誤魔化せると思っているのか?」

「え?」

「随分と口のまわる男なんだね君は。で、彼女をどこに売ったんだい?」

「……俺の話聞いてた? なんで最後まで聞かないの?」

「聞いたさ。で、誰に売ったのかな?」



 これは、予想外。

 売ったってお前……それだけは絶対にありえないのよ。怒りより悲しみの方が強いなんて久しぶりだわ。



「始祖の血は、知ってるよな?」

「無論だとも。例の彼女がそうだったみたいだね? そして、どれだけ高額で取引されるかも予想できる」

「取引は、できないんだよ」

「ふふ。高額すぎてかい?」

「死ぬから」

「…………どういう意味かな?」

「死ぬんだ。危機を感じたあいつらは自ら死ぬ。通称、ファイナルコードと呼ばれる自滅魔術を使い、周囲一帯を巻き込んで灰燼( かいじん)に帰す。町一つくらいなら丸々消し飛ぶぞ」

「……く、くははは。よくもまぁ嘘がポンポンと。笑えないほど愚かだね君は!」



 本当だよ? 歩く爆弾は伊達じゃないんだって。

 信じないかー、う~ん。どうしよ……わかってもらう方法がなさそうだ。


 そもそも行商だって滅多にこない田舎だぞ? 俺から買ったとしてどうやって移送するってんだ? 国を代表するような実力者をかき集めないと移送もままならん。検問は? 買収できる程度の権力も必要じゃないか。リスクが多すぎるわ。



「俺にどうしろと?」

「誰に売ったか、素直に白状することだ。悪いけど、君をかばうことはできそうにない。ここまで往生際と頭の悪い男だとは思わなくてね」

「ふ~ん。じゃあ、本人を確認すれば満足するのか?」

「できないことをいうものじゃないよ。どうせまた嘘をつくのだろう?」

「なるほど。話を聞く気はないと」

「君が自供しないからね。組合長、彼の身柄は僕が預かります。伯爵殿の私兵をお借りしているのでご心配なく」

「は? 待ってもらいたい。こんなのはあんまりではないか!」

「この件を一任したのは組合長です。後はお任せください」

「ま、待ちたまえ! 彼の話をちゃんと聞くべきだ!!」



 ……組合長が俺を助けようとしてくれてる? ちょっとだけ見直したぞ。


 しかし面倒なことになったな。こいつの目的が全く読めない。俺を売人に仕立てるにせよ、かなり無理があると思うんだが。


 これまでの一年間が、平和だった反動かねぇ。



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