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エルテンリンク  作者: だっくす憤怒
4/20

がおたん






「フィーネは生まれつき魔力が多くて、魔力そのものが自分を傷つけちゃうから、母上さまが魔石を使ってそれを防いでいましたゴブ」



 あぁ……生存率ゼロパーセント。魔力過剰なんたらとかいう先天性のアレか。

 原作のサブイベントでも似たような話があった。


 魔力の生成速度が異常なせいで、体外への排出が間に合わなくなる奇病の一つ。魔石や魔道具を利用して排出を促したり、騙し騙し命をつなぐ以外に方法がないって感じだ。


 魔石の消費量も半端じゃなかっただろうな……。



「里のみんなは助けてくれましたゴブ。でも、もう魔石が見つからなくて……。最近は魔獣の襲撃も増えたせいで、探しにもいけないッ!」

「…………」

「もう、時間がないゴブ……フィーネには、時間が……っ!」

「妹さんが十歳を過ぎているなら、魔晶石じゃ無理かもしれない」

「…………え?」

「個人の魔力次第になるそうだが、十歳を過ぎるとさらに魔力が増してしまう。だから魔晶石があったとしても焼け石に水だ。どうしても救いたいのなら別の方法しかない」

「別の方法? 助けられる方法があるですかッ!?」

「あるにはある」

「お教えてください!!」



 別に隠すつもりはない。けど、ゴブリン族とはこれっきりにしないとな。

 冷たい言い方になるが、今回は村の存続が危ういから保護したに過ぎないんだ。あくまで主人公の予定に狂いが出ないように。もちろん俺の未来のためでもある


 本来なら、組合に投げてさよならの予定だったんだから。



「もちろん教える。ただ、いくつか注意すべきことと、約束してほしいことがある」

「は、はい!! ディーネにできることはなんだってしますゴブ!」

「なら落ち着いて聞いてほしい。まずは――」



 ――説明が長引いてしまったが、要点をまとめよう。


 第一に、助けてくれる相手と自分で交渉すること。

 実を言うと、魔力なんちゃらをどうにかできる存在が近くに住んでいる。

 基本的に温和な性格だが、メスガキドラゴン級の力を持っているため、絶対に敵対してはならない。



 第二に、大きなリスクが伴うこと。

 魔力なんちゃらの実態は病ではない。なので、俺が教えた方法は原因となる魔力を誰かが肩代わりする必要があり、同時に命も共有するというリスクがある。だから年齢が近く、伴侶や兄妹といった健康な存在が望ましい。


 片方が死ねば二人とも死ぬ。ケガだろうが病気だろうが関係なくだ。



「で、最後になるが。これらの話を口外しないこと」

「内緒にすればいいですゴブ?」

「そう。そしてこの件が終わったら、二度と人族に近づかないほうがいい」

「……え?」

「これは絶対条件だ。君は俺という人族に会わなかった。この話を教えたのは、名前も知らない竜人だったことにする。異論は許さない」

「そ、そんな……どうして!?」

「断るならさよならだ。これは妹さんのためだけじゃなく、無駄な争いを避けるためでもある。わかってくれるな?」

「ディーネは受けた恩を忘れないゴブ。それに、こうやってちゃんとお話すれば――」

「――わかりあえるって?」

「はい、きっと!」

「過去の歴史をたどれば、そういった類の話が山ほど出てくる。けどな? 今もお互いで殺し合っているのが現実なんだ」



 原作が軋轢( あつれき)を一つのテーマとして取り上げているから、こういう話が随所に散りばめられている。結局は最後までわかりあうこともなく、憎しみが残るだけ。

 それが変えようのない世界の宿命だ。



「ちょうど今の俺たちのように、悪い奴ばかりじゃないと思ったご先祖様も、手を取り合おうと皆に協力を求め、そして多くの血が流れてしまった」

「……それは、そうかもしれないけど」

「人族とゴブリン族が離れて暮らすのは、それが最善であることを本能が知っているからだ。過去の大戦ではお互いの数が半分になるまで殺しあったそうだよ? 俺たちのエゴ……勝手な考えで、仲間を危険に晒すのは正気じゃない」

「……あ……ぅ」

「お互いのため、君の家族のためでもある。だから約束、してくれるな?」

「…………はい」

「よし、じゃあ行こうか。時間が惜しい」



 幼い子にこんなこと言いたかなかったけど、原作に出てこない犬耳族にでしゃばられても困るンだわ。良い印象だけを植え付けて、早々にお帰り願おう。



 外に出れば、赤い夕陽が半分ほど海に沈んでいた。

 向かう先は、村から南に広がる大森林の中枢。


 普通に考えたら、こんな時間から森に入るのは自殺行為だろう。しかし、俺にはそんな無茶を通せるだけの理由があるのだ。


 俺は、ゲームシステムに囚われている。


 この世界においてシルバーは弱い。基礎能力は固定だし、レベルが変動する気配もなかった。

 さらには敵対反応を感知すると、体は自然と機械的な動きしかできなくなる。例えるなら、モニター越しに操作していた主人公と同じように、プログラム通りの動きに制限されてしまうというもの。


 武器を振ったあとの硬直。ブレのない回避距離。高さの変わらない跳躍。その全てが均一になってしまう。当然のように走る速度も変わらない。単純な話、有事の際はゲーム通りの動きしかできなくなってしまうのだ。まるで呪いのように。


 だが、俺はそのおかげで今も生きていられる。先ほど述べたデメリットに比べ、メリットがあまりにも多すぎたから。


 まず、体力が無尽蔵であること。

 ゲージが見えるわけではないのだが、スタミナが途切れない限り延々と走ることができる。さらに抜刀状態や、敵対反応を維持すれば、睡魔を無効化して徹夜で行動することも可能だった。


 そして最も恐るるべきは、致命傷を受けた場合の痛みの薄さ。それもパフォーマンスに一切の影響が現れない。即死しないかぎり全力で動けるため、逃げに徹するなら誰にも負けない自信がある。


 他にも多々あるが、この呪いがなければ死んでいたのは明らかだ。

 さらに大森林や周辺の地形を把握している俺にとって、夜の闇など障害にもならない。



「あ、あの!」

「ん?」

「この先は大森林ですゴブ」

「そうだな」

「夜の大森林に入るですか?」

「もちろんだ。そして中心部まで走り抜けるぞ」

「…………」



 ディーネの青ざめた顔が面白い。でも実際は言うほど危険でもないのよ。


 南の大森林には森の神がいる。その影響から、攻撃性の高い魔獣は中枢に近寄らず奥地から出てこない。

 森全体が大自然の恵みに溢れ、薬草に果実といった資源も豊富だ。



「おんぶするぞ。そしてこのロープで体を固定するんだ」

「ふぇ!? そ、そんな、ちゃんと歩けますゴブ!」

「妹さんのためだ。君は魔力も体力も空に近いんだから、グダグダ言わずにさっさとしがみ付け。返事は?」

「はいぃ!」



 中枢への道は簡単。大森林の入口からひたすら直進すればいい。

 鬱蒼( うっそう)と生い茂る森の中ではあるが、俺が週に一度は通っているおかげですっかり道ができていた。


 突然だが、俺は抜け目のない男だ。

 これまで慎ましく生活してきたのは全て未来のため……。

 主人公がメインストーリーを終えて消え去った後は、潤沢な資源を掘りまくって優雅な引きこもり生活を送るつもりだからな。


 ロゼのお薬屋さんの隣に、シルバーのパン屋さんを開業し、こってりパンで成人病を蔓延させてやるのが俺の夢だ。村人全員をフォアグラにしてやる。


 これからもメスガキドラゴンに媚びへつらい、今現在進行中のゴブリン族とかいう嫌がらせだって完璧に乗り越えてみせよう。


 いや待て……それだけで安全足りうるだろうか? 否である!!


 ――こんなこともあろうかと。


 そう言ってドヤるためには保険が必要だ。そして、その保険こそが森の神。

 必ず週に一度は通い、果物を乱獲して信者の如く捧げる。そうして今もチマチマと信用を高めている途中ってな寸法よ。


 森を走り抜ける途中、そこかしこに成っている果実の収穫は慣れたもの。カゴを預けたディーネに手渡し、おいしそうなバナナをたくさん収穫していく。



「シルバー。このバナナ食べていい?」

「いいぞ。かなり余るはず――ってお前、食ってから言うな」

「おいしいゴブー!」

「だよなぁ! 俺にも一本くれ」

「はい」

「さんきゅ、って食いかけじゃねーか。新品よこせバカ!」

「片手だと揺れて大変ですゴブ」

「だからって横着するか? 意外といい性格してやがるな……」



 別に食いかけでも俺は気にしないが、まさか二本目も食いかけを差し出されるとは思わなかった……いや、別にいいんだけど。


 やがて生い茂った森を抜け、中枢へとたどり着いた。

 そこには広大な湖と、中心部の陸地にそびえ立つ一本の大木が鎮座している。正確な高さは不明だが、まさに雲を突き抜けるファンタジーな光景だった。


 ロープを解いて降ろしてやると、さすがのディーネも呆けた様子で黙り込んでいた。



「ゴブリン族でもここは初めてだろ? 綺麗だよな」

「ふあぁ…………」

「水も直に飲めるほど澄んでいる。ここだけはいつ来ても、絶対に荒らしてはいけない場所だと思わされるよ」

「はい。ここに、森の神さまがおられるですか……」

「そう。あの大きな木の下にな」



 まばゆいほどの月明かりに照らされ、湖の中心部まで続く一本の道。それは、ツタが絡み合って形成された森の神が作った橋だ。


 陸地が近づくにつれ、緊張のせいかディーネの足元がおぼつかない。転ばないように手をつなぐと、汗ばんだ手から動揺が痛いほど伝わってくる。


 大木の下には大きな切り株。まるで器のようにくりぬかれたその中には、上から滴り落ちる雫が水たまりを作っていた。


 そんな切り株のふちに座る人形のような少女が、俺を見てニッコリと微笑む。

 頭に生えたアサガオを揺らし、フワフワと飛んで俺の肩に着地すると、ディーネの持つカゴにチラチラと視線を泳がせる。


 彼女こそが森の神。アサガオちゃんこと、通称がおたん。


 体長は約二十センチ。全身ほぼ緑色。葉っぱのワンピースを着ているのか、着ているように肌を変化させているのかは定かではない。常に眠たそうな糸目と、う、という言葉だけで感情を表現するマスコットキャラだ。


 そして、原作では主人公に次ぐ重要な存在。



「アサガオちゃん。今日も果物持ってきたぞ。さ、ディーネ。バナナを差し上げて」

「は、はい。どうぞ!」

「……う」


 若干の迷いはあったようだが、素直にバナナを受け取ってご満悦の様子。

 食い終わったアサガオちゃんは、俺の頭にバナナの皮を乗せ、テシテシと小さな手で頬を叩いてくる。どうやらおかわりを所望しているらしい。



「よかったなディーネ。第一印象はなかなかみたいだ」

「え? 本当ですか? よ、よくわかんないゴブ」

「うー」

「今度はそっちのリンゴをよこせだって」

「シルバーは神の言葉がわかるですか!?」



 もちろんわからない。

 そう言いたかったが、食い終わったリンゴの芯を口に放り込まれて何も言えなかった。


 今はゴミ箱&通訳。普段なら果物を貢いでくれる謎の生物あたりか?  

 彼女から見た俺は、きっとそんなもんだろう。




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