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エルテンリンク  作者: だっくす憤怒
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復讐を誓った日






 少女を抱っこしたまま、泣きじゃくるおっさんを前に頭を抱える。



「そういえば組合長。なんでこの子は遺跡に入ったんですか?」

「あ、あの時は――」



 組合長いわく……少女が遺跡に入ろうとするのを近くにいた探索者が止めたが、彼女は話を聞こうとしなかった。そこで知らせを聞いた組合長が駆けつけ、せめて護衛を付けてから挑戦してくれと頼むが、一人で来たからそれも無理と言われる。最終的に突破されてしまい、責任から逃れようと探索者たちが一斉に逃げ出してしまった。


 そこへちょうどよく俺が現れたらしい。



「事情は……まぁ、わかりました。言いたいことは山ほどありますが、まずは村の安全を確保するためにも、村長と相談してこの子を里に返してあげてください」

「え? わ、私が?」

「あたりまえでしょ。村のトップは村長と組合長なんだから」

「……嫌だ」

「は?」

「嫌だ! 私は嫌だ! 村長だって私に押し付けて逃げたんだも!!」

「え、あ……逃げるなデコ助野郎! ちょっと、エクレアさ――」



 飛び出していった組合長。

 同じく窓からスタイリッシュに脱出したエクレアさん。

 その二人を目の当たりにした俺は考えることをやめた。


 首筋に頬ずりしてくる少女を抱っこしたまま、静かにエールを飲み干す。



「終わりだ。この村は終わりだ!」



 すまない主人公。どうやら原作開始前に村が無くなるかもしれん。

 いや、マジでどうしようもないだろ。


 確実に言えるのは、メスガキドラゴンだけは大丈夫ってことだ。ゴブリン族はドラゴンを神のように崇め、天と地ほどもある力の差をよく知っているからな。


 できれば俺もメスガキに泣きつきたいところだが、彼女の不興を買うのは絶対に避けたい。ドラゴンってアホみたいにプライドが高く、自分を利用する者には容赦しない。最悪、その場で殺されるのがオチだ。


 そもそも、この子が遺跡に行きたがる理由さえ知らないのだからどうしようもない……俺が解決してやる義理もないのに、なぜこんなにも悩まねばならんのか。

 


 もはや最後の希望である、ロゼのお薬屋さんへと向かう道中も、俺を見た村人たちは逃げるように離れていく。どうやら彼女の存在が村中に知れ渡ったようだ。


 雑貨屋のロベルト。お前が趣味で集めたカサブタが詰まったビンを捨ててやる。

 漁師のジェイク。薄毛に悩んでいるらしいな? 朝は枕元に注意しとくがいい。

 村長。村長!? なんでテメーが逃げてんだ! あの腐れ筋肉が……まぁいい、ヤツならいつでも社会的に抹殺できる。



「ちわーっす」

「……シルバー? こんな時間にめずらしいね。どうかしたの?」

「やぁロゼ。今日も素敵だね」

「な、なにを言って――え、犬耳族? それも長の子じゃん」

「事情は俺にもさっぱりだ。とりあえず、これまでの経緯を聞いてもらった上でアドバイスがほしくてな」



 脇に挟んでいた少女の杖を立てかけ、椅子に座ってこれまでの出来事を掻い摘んで説明した。

 なんだかんだいってメスガキは情に絆されやすい。押し付けるようなマネをしなければ、アドバイスをくれると……いいなぁ。


 あわよくば、対ゴブリン族との矢面に立ってもらえないかと打算も兼ねている。



「――ふ~ん。相変わらずシルバーってお人好しだね」

「……なんか誤解してない? 俺まで投げだしたら村が滅ぶンだわ」

「そうかもね~。ふふふー」

「とにかくだな。この子が目覚めたら話を聞きたいんだが、俺だけだと警戒されるかもしれないだろ? でも見た目が同い年くらいのロゼがいてくれれば、ちゃんと事情を話してくれるんじゃないかと思ってな」

「うんうん、そういうことなら喜んで協力するよ!」



 ……あら意外。扱き下ろしてバカにしてくると思ってたのに、今日はやけに好意的なのね。いえ、助かりますけど。


 そこにタイミングよく少女が身じろぎし、両手を広げて大きく伸びをした。

 慌てて落ちないように体を支えてやると、眠たげな銀色の両眼が俺をジッと見つめる。



「だ、大丈夫か?」

「…………うん」

「どこか痛いところとか、ケガはないか?」



 ふるふると首を振り、鮮やかな銀の長髪がサラサラと流れていく。やがて、小さくあくびをすると、先ほどを同じ姿勢のまま寝息を立て始めた。


 違う、そうじゃない。



「待っ――」

「し~。よほど疲れてたみたいだね。また寝ちゃった」

「……えぇ。ど、どうしたらいい?」

「魔力も枯渇寸前だから寝かせてあげるしかないかな。あ、そうだ。ちょっとまってて」



 そう言ってロゼは奥の自室に入り、しばらくして大きなバッグを抱えて戻ってきた。

 その中に少女の着替えやら日用品などを用意してくれたらしく、俺はメスガキに感動しすぎて財布ごと差し出しそうになっていた。



「ロゼ……俺はお前を心から尊敬する」

「今さらボクの良さに気づいた? 見る目ないなぁ~」

「はい。今日から心を入れ替えてロゼ教を信心します」

「変な宗教作ったら燃やすね。そんなことより、早くこの子をシルバーの部屋で寝かせてあげて。寝違えたらかわいそうだよ」

「了解した。じゃあ――」



 ん? なんで?



「待った、俺の部屋に?」

「うん。だってこの子、さっきシルバーの顔を見て安心してたよ? ゴブリン族って警戒心が高いから、人族に身を任せて眠るなんて聞いたことないもん。きっと助けてくれた人だから安心したんだよ」

「待て待て待て、そうじゃなくてだな。いくら恩があろうと、部屋に連れ込んだらマズイなんてもんじゃ――」

「静かに。じゃあ聞くけど、村の人にこの子を預けられる?」

「それは……」

「でしょ? 今この子が安心できるのはシルバーだけ。さっきの様子なら事情も話してくれると思うし」

「……で、でもよぉ」

「いざって時はボクが力を貸してあげる。だからほら、しゃきっとするっ」

「おうふッ!?」



 ロゼに背中を叩かれ、驚きでチビりそうになった。


 だが、確かに後ろ盾を得られたことは素晴らしい。思わず悪代官のように歪んでしまった口元を隠しつつ、なんとかなりそうな空気に頬を緩ませた。いや、マジでいけるかもしれんな! 


 ありがとうメスガキドラゴン。世界で三番目くらいに愛してるぜ。



「そのかわり、事情がわかったら教えてね」

「了解だ。対応が決まったら必ず報告にくる」

「うんうん、じゃあまたね」

「おう、またな」



 もう、何も怖くない。

 今なら国王の顔面に屁をぶちかましても無罪放免。むしろ身が出たっていい。

 なんたって俺のバックにはメスガキドラゴン様がおられるのだからな。


 でも冷静に考えると、押し付けられた仕事が面倒になっただけなのでは……。

 いや、たとえそうであっても、これを乗り越えれば組合長にも融通が利くようになる。そう、悪いことばかりじゃないはずだ。


 そんな風に、物事を都合よく考えながら宿へと戻った。



「ただいま~」

「おう、お疲れさ……ほほう? 今日はめんこいのを拾ってきたな」

「なりゆきで。見ての通りゴブリン族だから、刺激しないでやってくれ」

「バカ共には忠告しておこう。だが、夜は静かに楽しめよ?」

「……よく見ろ。手を出したら村も滅ぶんだが?」

「フ。それもまた人生」

「やかましいわ」



 なに言ってんのコイツ。

 つくづく思うが、この村で頼りになるのはメスガキドラゴンだけだ。


 組合長はアレだし、村長はそれなりに頼れるはずだが責任感がない。おまけに不倫の常習犯だから人間性は最低。この村を拠点とする探索者は善人が多いものの、怠惰で向上心が薄く大黒柱がいない。


 俺個人に限れば、だらだら過ごせる最高の環境ではある。が、こういった問題が発生すると誰も使えないというオチなんだよな。


 よっこいせーと自室のベッドに少女を寝かせようとするが、またもや上手くいかない。

 首に巻き付いた手を解こうとすると、余計に力を入れて放してくれなかった。数分間に渡る静かな攻防を繰り広げ、全てを諦めた俺は、目を覚ますまで待つことを選択した。


 今言える確かなことは、膀胱がマジでヤバいということだけだぜ。



「――んんっ」

「おはようさん」

「……おはよう、ございます」

「悪いけど、ここで待っててくれるか? お兄さんオシッコもれちゃいそうでな」

「あ、はいゴブ!」



 ゴブ? え、語尾がゴブ? 


 そこまでしてでもキャラクター性を求める貪欲さには戦慄するが、尿意には逆らえなかった。交代で少女がお花摘みをしている間も、脳内会議を続けて全会一致でヤベー奴という結論に落ち着いた。対処法がマジでわからない。


 俺がベッドに座って頭を悩ませていると、戻ってきた少女が隣にちょこんと座り、不安げな表情で言葉を待っていた。



「俺はシルバー。この村で慎ましく暮らしている探索者だ。言える範囲でいいから、君のことを教えてもらえないか? 名前だけでもいい」

「……ディーネです! 犬耳族の里からきましたゴブ」



 彼女の名はディーネちゃん。身長は百三十程度で、銀色の眼と長髪が映える淡い褐色肌の美少女だった。頭部にはピンと立った犬耳が生えているように見えるが、実際は耳ではなく触覚らしい。お尻にはブンブンと揺れるフサフサの尻尾があり、オサレな緑色のローブには、ちゃんと尻尾用の穴があるようだ。



「それでだ。理由があったのはわかるんだけど、一人で遺跡に挑むなんて無謀すぎる。なぜそんな危険なことを?」

「……どうしても、魔晶石が必要だったんです」

「魔晶石って、最下層を目指していたのか」

「最下層に魔晶石があるゴブ? ほんとにあるゴブ!?」

「そりゃあ、あるのは確かだけど……」



 ゲーム的に言うと、魔晶石はボスのドロップアイテムだった。

 フレーバーテキストによれば、宝物庫を守るために設置されたゴーレムの核が、長い年月を経て、遺跡の魔力を吸収したために結晶化した物――と書いてあったはず。


 用途はサブイベントに一つ。残りは換金用だったな。



「……よかった。まだ、希望はあったゴブ」

「その様子だと、また一人で挑むつもり?」

「はいです! 妹を助けるには、どうしても魔晶石が必要なんですゴブ」

「俺に止める権利はないけど、今の君が最下層に向かうのは自殺と変わらないぞ? いや待て……妹さんを助けるのに魔晶石が必要って、誘拐でもされたのか?」



 よせばいいのに、好奇心が抑えられずに質問した自分を殴りたい。

 もしかして、原作に犬耳族がいなかったのは、この事件が原因なのだろうか? 


 ごめん組合長。アンタの気持ち、今なら痛いほどわかるよ……。



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