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エルテンリンク  作者: だっくす憤怒
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メスガキと親友







 剣に限らず、技は特定の武器で訓練しなければ覚えることができない。

 しかし、この法則に縛られているのは俺のような特殊なケースだけで、この世界の住人は普通に練習して習得できるらしい。


 例えば、レクセンの大好きな神速突き。

 俺の場合は銀の直剣を持ち、言葉にするだけで強制的に発動する。


 それに対してこちらの住人は、足先に魔力を溜めて爆発的な瞬発力で一気に貫く――というように、ただ武器を振り回しているだけでは扱うことができない。


 だからこそ気になるのは、こちらの住人が目的の技を秘めた武器を持ち、目的の技だけを練習したらどうなるのだろう? 


 俺、気になります。

 そしてなぜが、都合のいい実験台がいるんだよなぁここに。



「なぁ少年。誰かから剣術を習ったことはあるか?」

「ならったことないです」

「ほほう? じゃあ、かっこいい技を自分のモノにしてみたくないか?」

「っ、したいです!」

「だよなぁ! よしよし、お兄さんが教えてあげようじゃないか」

「うー!」

「あ、すまん。トマト畑を耕してからな」

「それならおれも手伝います」



 素直でええ子やん。願わくば、レクセンみたいなクソ野郎にならないように祈っておこう。あんな神速突きしかできない初心者丸出しのイケメンとか残念すぎるからな。


 よし決めた。少年にはまっすぐ育ってほしいという想いを込めて、始まりにして究極の剣技を伝授しようではないか。


 これは対人戦の話になってしまうが、直剣使いは本当に厄介で恐ろしかった。どいつもこいつも手練ればかりで、フェイントからの絶妙なディレイであったり、緩急をつけた立ち回りは思い出したくもないほどだ。


 そして、そんな玄人たちが愛してやまない技が一つだけある。あの技にどれだけ頭をかち割られたことだろう。



 昼過ぎにはトマトの種を植え、スムーズに作業を終わらせることができた。

 それから少年と昼食をとり、さっそく大岩のある砂浜で実験を開始することにした。



「少年。その木剣はもったいないから、こっちのしょぼい鉄の剣を持ちなさい」

「え? どこから出したんですか?」

「気にするな。で、君にはこの技を覚えてもらう」



 頭でお昼寝しているアサガオちゃんを少年に預け、大岩に向かって剣を正眼に構える。



「一文字斬り」



 踏み込みの初速は神速突きに迫る。剣を上げてから振り下ろすまで瞬きも許されない。


 ボッ!! という空気の破裂する音をきっかけに、振り下ろした刃から発生した真空波が大岩を削った。


 舞い上がった砂塵が薄くなると、縦に一文字の深い傷を付けた大岩の姿が見えてきた。

 基本にして究極。なんの変哲もない面打ちを、アホみたいに強化したのがこの一文字斬りだ。


 俺ではこのとおりオブジェクトの破壊すらままならないが、極まった一文字は低レベルのボスを確殺できるほどの火力を持つ。



「今のが剣技の基本中の基本、一文字斬りだ。剣は一文字に始まり、一文字に終わる。やたらと強い奴がそう言っていた。さ、やってみ?」

「…………」

「どうした?」

「う!!」

「ごめん、起こしちゃった? ならトマトでも食ってろ」

「……あ、あなたは、剣聖さまだったんですか?」

「剣聖が一文字斬りを使ったら、こんな岩なんて消し飛んで海が割れてるぞ? この程度は誰でもできるんだ。いや、できるようになるまで練習しろ」

「おれにも、できますか?」

「むしろできるようになれ。世界ってのは危険に満ちている。自分の身を守れたほうが人生楽しいに決まってるぞ」

「……はい!!」



 やっぱり素直な子には指導も熱が入ってしまうな。

 自分のフォームをイメージしながら、少年の打ち込みを細かく修正していく。もちろんこの行為に意味があるのかは俺にもわからない。


 暇になったアサガオちゃんに鼻毛を抜かれながらの指導ではあったが、すでに一文字斬りの片鱗が見え隠れしているような気がする……。


 これは鉄の剣による効果か、それとも本人のセンスか。要検証だ。


 なんでも、少年は孤児院でお世話になっているらしい。

 数年前に戦災孤児として冒険者に拾われ、先日村にやってきたばかりだとか。現在はその冒険者も亡くなってしまい、天涯孤独の身に……よくある話だな。


 少年の名はルウ。見た目は孤児とは思えないくらい小綺麗な格好をしている。


 ここの孤児院は村からの支援が厚いため、衣食住に困ることはない。

 人間性は最悪だし、人望も髪も無い村長ではあるが、こういった根っこの部分には尊敬できる面もあるんだ。



「俺はあそこにある、“成金になり亭”で世話になってるから、何かあれば顔を出しにこい」

「はい師匠!」

「……師匠は絶対にやめてくれ。それより気をつけて帰れよ」

「うん。神さまもまたね!」

「うっ!」



 どうでもいいが、右の鼻だけがスースーする。明日は左肩に乗せた方がいいな。






 翌朝、畑に水をやりにきたらトマトが急成長していた。頭がどうにかなりそうだった。

 満足そうにテシテシと叩いてくるアサガオちゃんを真顔で見つつ、言われた通りにたっぷりの水をくれてやる。


 その足で向かうのは、心の癒しになっているロゼのお薬屋さん。

 生意気でそっけない態度は相変わらずだが、この前は本当に心配してくれて嬉しかった。


 だからせめてもの恩返しってわけではないが、毎日欠かさず入り浸って営業妨害を行うことにしているのだ。



「おはようございます。金持ちのシルバーとアサガオちゃんです」

「う!」

「帰って」

「回復薬を一つ頼む」

「最近使ってないじゃん。しかも毎日一個ずつ買うとか、ばかじゃないの?」

「いつもすまないな。ついでに茶を頼めるか?」

「帰れ」



 こんなこと言ってるけど、根はとってもいい子なんだぜ。



「そうだ。アルファに手紙を出したけど返事がこない。どこかで潰されたのかな?」

「伯爵の私兵を連れてきたからな。レクセンとの連絡が途絶えたと判断したなら、念のために村から送られた手紙は回収するんじゃないか? 剣聖にゴブリン族への襲撃がバレたらまずいだろうし」

「そっか。じゃあ組合通しても無理っぽいよね」

「そりゃ無理だろ。表向きレクセンを派遣したのは組合だ」

「めんどくさ……別にゴブリン族なんて興味ないし、もういいかな」

「なんや、それでええんか?」

「だってボクに関係な――アルファ? なんでここにいるの」



 真横から聞こえてきた女性の声。いつ店の中に入ったんだ……? 

 しかも、あのエセ関西弁と赤いポニーテールは……まさかの剣聖様ご本人の登場だと!?

 予想外にもほどがある。



「元気そうやな! こっちは新しいお友達なん? ウチにも紹介してや」

「ただの客だから。しかもお金持ってるのに、回復薬一個しか買わない甲斐性なし」

「そらあかんわ兄さん。ケチはあかん。肩の妖精さんも呆れとるで」

「その子、森の神だよ」

「ほー、森の……ホンマに? 大森林の?」

「う!」

「おおう!? しゃべりよった!」

「信じられないけどほんと。そこのケチなシルバーに寄生してる」

「そらあかんわ兄さん。ケチはあか――」

「わかったからやめい!」



 さすがの剣聖もアサガオちゃんには面食らったようだ。

 アルファが指を差し出し、アサガオちゃんの小さな手と触れた瞬間、ニヘラっと頬を緩ませて抱っこしていた。


 クマのぬいぐるみとか好きそう。



「神様がこないに可愛いなんて思わへんかったわ! ええやん。なんぼなん?」

「神を買収するな。アサガオちゃん、天罰下していいぞ」

「ウソウソ、冗談やって!」

「ところでさ、どうしてここにいるの?」

「せや、忘れとった。ウチに手紙くれたやろ? アレ燃やされてもてん」

「ふーん」

「反応うっすいわ……ロゼたんは相変わらずやなぁ」

「たんはやめて」



 結局、中身はなんやねんと言われ、なぜか俺が説明するはめになった。


 仕方がないので、レクセンの言っていた伯爵とやらが、始祖の血筋を狙っていることを簡単に説明した。当然ながら、アルファはゴブリン族を狙う危険性を理解していたようだ。


 普段は部族間の仲が悪かったりするのに、対人族に関しては異常なほどの団結力を発揮する。だからこそ、わずかなきっかけで全面戦争になりかねないのだ。



「自分も大変やったなぁ。せやけどウチ、発言力ないで?」

「アルファでも潰せないの?」

「そら無理や。確かにウチは特別扱いされとるけど、伯爵を裁けるほどやあれへん」

「そっか。じゃあいいや」

「せやな」

「諦めるんかい!」



 決断が早すぎる。しかしまぁ、アルファが認知してくれただけでもよしとすべきか? この世界が原作通りに進むなんて保証もないんだし。



「しっかし自分、ロゼたんに名前覚えてもろたり、森の神様に懐かれるとか凄いやんか!」

「アサガオちゃんとは週に一回会っていたし、ロゼはああ見えて情に厚い女ですから」

「おお! わかっとるなぁシルバーはん。気に入ったで」

「こちらこそ。ケチな客から友達になれるように頑張ります」

「ほんならウチも協力させてもらうわ」

「しなくていいから!」

「にゃははは!」



 いつもよりロゼの表情が豊かで可愛らしい。やっぱり親友が来てくれて嬉しそうだ。



「あ、聞き忘れとった。伯爵の名前はなんやった?」

「知らない。レクサスとかいうヤツが伯爵の私兵を連れていたってだけ」

「レクセンな」

「……レクセン。あの神速剣のレクセンかいな」

「知ってるの? 神速突きが得意だったみたいだけど」

「それやそれ! ハイラインのお気にや。尊大やけど、結構な使い手やったなぁ」

「ふふーん。シルバーには子供扱いされたけどね」

「……おいやめろ。無駄にハードルを上げるな」

「ほう?」



 一瞬にして空気が変わる。

 アルファの目が細まり、膨大な魔力を至近距離で浴びせられた。


 その場から飛び引いたのは本能だった。

 アルファが躊躇なく腰の剣に手を伸ばしたのを見て、即座にアサガオちゃんを抱きしめてから入口へとステップ回避をしていた。


 一秒にも満たない自分の判断を心から褒めてあげたい。



「クハッ! 半端ない反応速度やんか自分。レクセンが子供扱いされるのもわかるわ」

「…………寿命が縮んだぞ! 今、マジで斬ろうとしたよな?」

「せやで? でも確実に当たらんかったわ。てか、なんでシルバーはんが無名なん?」

「ケチで器が小さくて、時代に遅れてもやり方を変えない老舗みたいな人だから」

「お前は老舗になんの恨みがあるんだ……」

「ロゼたんは古臭いしきたりとか嫌いやもんなぁ」



 老舗関係ないじゃん……。



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