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貴族オフィーリア 後編

 

 いつものように町中を巡って忙しく働いていると、オフィーリアが「そろそろ町の中心にゴリ様の神殿を建てませんか?」なんて言い出しやがった。


 俺がなんとか神殿建立を辞めさせようとオフィーリアを説得していると甘えるように彼女は俺の腕にしなだれかかってきた。

 動揺する俺の耳元で彼女は甘く囁いた。


「そんなこと仰らず。私達の町に私達が歩んできた軌跡を残したくありませんか……?」


 柔らかい胸の感触に鼻の下を伸ばしていると――――ずっと後ろを着いてきていたシェルリが大声を張り上げた。


「もう我慢出来ないんだからぁ! いつもベタベタベタベタくっついちゃってぇ! あたしたちの方が先輩なんだから!」


「うー!」


 スージーもそうだそうだと言っているようだ。


 シェルリたちの不満を聞いて、俺が何か答えようとするのを遮ってオフィーリアが話しだした。


「あら、こんな大衆の面前でそんな大声を出すなんて乙女がはしたない。あなたもゴリ様の傍に仕えるのであればもっと相応しい態度があるのではなくって?」


 オフィーリアは見下した様子でクスクスと笑っている。


 そんな態度にいよいよ頭にきたシェルリがオフィーリア目がけて平手を振り上げる。

 オフィーリアはなんなくその平手を片手で受け止めた。


 ガシィン!


 その音はとても女同士の喧嘩で出るような音ではなかった。

 近距離で2人はお互い本気で睨み合っている。


「ちょ、待てお前ら――」


 俺の制止の声を無視するかたちでオフィーリアとシェルリは喧嘩(戦闘)を始めた。











 シェルリが力を籠めた両手をオフィーリアに何度も何度も振り下ろす。

 しかしオフィーリアはその腕をことごとく受け止めた。


 ただ女の子2人が素手で殴り合っている。

 たったそれだけで周囲には激しい戦闘音が鳴り響き、周囲にいた町民たちが逃げていった。


 アンデッド特有の怪力を遺憾なく発揮した攻防だ。

 一般人が巻き込まれたら死傷者が出かねない。

 必殺の重さを載せた打撃戦の最中も2人は口喧嘩を交えている。


「そんなに私が気に喰いませんか? ご主人様を盗られて嫉妬に狂うなんて、滑稽ですね」


「ちがっ、ゴリさんとあたしはそういうのじゃないんだからぁ!」


 余裕を見せつけながら攻撃をいなし続けるオフィーリアに対し、シェルリは葛藤を抱えながらがむしゃらに腕を叩きつけ続けた。

 割って入ろうにも本気の殺意を感じさせる2人に思わず尻込みしてしまう。


 すると、防戦一方だったオフィーリアがおもむろに片手を自分の背後に回した。


 次の瞬間にはまるで魔法のようにオフィーリアの手には剣が握られていた。

 エスニックな装飾が施された剣は恐らくキョンシーの特殊能力で生み出されたものだろうか。


 オフィーリアは逆手に持った剣を追いすがるシェルリに向けて振るった。


「いい加減しつこいですわ!」


 ザンッ!


 不意打ちで避けきれなかったシェルリの右手が宙を待った。


 シェルリは別段痛そうな素振りは見せなかったが、純粋に悔しそうに顔を歪めた。

 地面に落ちた自分の手を拾おうとするシェルリをオフィーリアは剣先を向けて阻止した。


 意思ある死者(レブナント)といえど切断された肉体をすぐに復元することはできないようだ。


「先輩だかなんだか知りませんが、これ以上私とゴリ様の仲を邪魔するというのであれば容赦いたしませんよ」


 オフィーリアはシェルリの腕を露骨に踏みにじった。


 屈辱感に唇を噛むシェルリを見てオフィーリアは快感すら感じさせる恍惚とした表情で勝ち誇った。


「口ほどにもありませんねぇ……。ただのどこにでもいる町娘風情が」


 彼女は自分が他者より恵まれていること、他者より優れていることに溺れている。

 自分が特別な人間であると思い上がったオフィーリアの台詞を聞き。


「あ――――」


 とうとうシェルリの怒りが怒髪天を突ら抜いた。


「あっっったまきたんだからぁーーーー!!」


 怒号とともに眩い光がシェルリを包む。


 それはアンデッド進化の光だった。


 オフィーリアが光に怯んでいると何かが素早くシェルリから伸びた。

 その何かはオフィーリアが踏みつけていた腕を奪ってシェルリの元に回収した。


 そうして次第に光が収まっていく。


 シェルリは姿が変わり――――まるでミイラのように全身包帯姿になっていた。


 顔は隠されていないが、包帯が両手足の指先から首まで全身を覆っている。

 よく見れば包帯の隙間からあちこち色んな部分がはみ出ている。


 どう見ても全裸に包帯を巻いただけの姿――。


 ボディラインが強調された新しいシェルリの姿はあまりにも扇状的だった。


『中級アンデッドの木乃伊(マミー)ね。見ての通り包帯が全身を包んでいて、包帯自体がマミーの特殊能力よ。それから――――』


 修羅場が面白いのか、女神(サクラ)はなにやら愉快げに解説している。


 しかし俺はシェルリのいやらしい格好の方が気になってどうでもよかった。

 俺が生唾を飲み込んでいるとオフィーリアが先に仕掛けた。


「変態のような格好になったからなんなのですか!?」


 心臓に向けて素早く突き出した剣を不意に伸びたシェルリの包帯が絡め取った。


「!?」


 オフィーリアが驚いている間に、シェルリの包帯が次々と伸びてオフィーリアの全身を拘束していく。


 オフィーリアも抵抗して新しく生み出した剣で包帯を切るつけるも、すぐさま新しい包帯が伸びてくる。


 無尽蔵かとも思われる包帯の奔流についにオフィーリアは両手足を拘束されてしまった。


 まるで磔のように大の字で空中にぶら下がられ、今度はオフィーリアが悔しそうにシェルリを睨んでいる。


 俺はやっと戦闘が終わったかと思ったが――――。


 ドズンッ


「あぐっ!?」


 無抵抗のオフィーリアの腹をシェルリは全力で殴りつけた。

 身体をくの字に折り曲げたオフィーリアの口から息が漏れる。


「どこにでもいる町娘風情ですって? もう一度言ってみなさいよぉ!」


 抵抗できないオフィーリアは重機のような打撃を苦しげに受け続ける。

 いくら痛みを感じないアンデッド同士の戦いとはいえ、一方的な暴力は精神的にも厳しいはずだ。


 これ以上は見ていられない。


「やめろ! シェルリ! もういいだろう!」


「あああああ!」


 完全に正気を失ったシェルリは死霊術師(ネクロマンサー)の俺の命令を無視して次々と本気の打撃をオフィーリアに叩きつけた。


「自分だけ、自分だけ特別な人間だと思ってぇ!!」


 暴走したシェルリに俺の言葉は届かない。

 かといって本気で暴れるシェルリを力づくで取り押さえるなら、下手すれば俺だって死ぬかもしれない。


「くそっ! こうなりゃあ……」


 最後の手段として俺が決死の覚悟で止めに入ろうとした。


 するとその時、背後から聞き覚えのある泣き声が聞こえてきた。


「う"ぅ"〜……あ"ぁ"〜〜!」


 振り向くと、スージーが泣いていた。


 子どものような純真な泣き声。

 ただ悲しくて悲しくてしょうがない。


 感情の爆発に任せるがままのその泣き声は俺たちに響いた。


「あ"ぁ"〜〜! う"ぅ"あ"〜〜!」


「…………」


「…………」


「…………」


 気がつけばシェルリは正気を取り戻しており、オフィーリアの拘束を解いていた。


 俺たちは泣き続けるスージーにそっと歩み寄り、シェルリとオフィーリアが謝った。


「スージーちゃん、ごめんねぇ」


「ごめんなさい。もう喧嘩はしないから泣き止んでくれるかしら」


 まだぐずりながらもスージーは顔をあげた。


「うぅ〜?」


「もう喧嘩しない?」とでも聞いているのだろう。


 俺は真摯な声でスージーに――――いや、3人に謝った。


「すまねぇ。俺がお前ら3人を平等に扱わなかったせいだな。これからは誰かを贔屓したりせず、ちゃんとお前ら全員と話をするよ」


 それを聞いて安心したのか、スージーは再びいつもの笑顔を見せてくれた。


 シェルリとオフィーリアもお互いに謝って仲直りしてくれたようだった。












 こうして初めての喧嘩は終わった。


 異世界転生(イセカイッド)して自分だけのハーレムを作るっていうのは今でも俺の夢だ。


 しかし、ハーレムっていうのも大変なんだな。

 今回のように俺一人の行動で全員を不幸にしてしまうこともありうるのだから。


 もし本当にハーレムを作るっていうのなら、ハーレムの全員を平等に幸せにするように責任を取らなきゃならん。

 これまでまったくモテなかった俺にはちと荷が重い責任かもしれない。


 だが――――。


「いいぜ。みんなまとめて、“死んで(アンデッド)”ても俺が面倒見てやる!」


 もう二度とスージーを泣かせない。誰も悲しませない。


「これが俺のイセカイッドハーレムだ!」


 決意を新たに。


 俺は、俺だけの、異世界アンデッドハーレム作りに全力を尽くすことを誓ったのだった。


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