貴族オフィーリア 中編
オフィーリアを蘇らせた翌日。
ポロニアスは町民を町の広場に集まらせた。
町の広場は埋め尽くさんばかりの人だかりになっている。
いきなり貴族なんぞに集められてさぞ町民たちは不満だろうと思ったが、意外なことにポロニアスは領民から好かれているらしかった。
朗らかな挨拶が交わされた後、壇上に上がってポロニアスは高らかに宣言した。
「こちらにおわす司祭様こそは死者の神を祀る大司祭ゴリ様であらせられます!」
いつの間にか大司祭にされてしまった。
俺は今すぐにでも帰りたかったが、ポロニアスがこちらを手招きしている。
ここで俺が登壇しなければポロニアスが気の毒だと思い、俺は嫌々ながらも壇上に上がった。
大勢の視線が一気に俺に集中する。
これまでの人生でここまで人に注目されたことのない俺は緊張で口の中がカラカラに乾いていることを自覚した。
すぐ近くでスージーとシェルリが心配そうにこちらを見上げていた。
「これからは我が町ではゴリ様のご指導のもと、死者の神を正教といたします。既に信仰を持っておられる方に改宗を迫ることはいたしませんが、興味がある方には是非とも信仰していただきたい!」
流石に面食らったようで町民たちは困惑している。
なにせ突然の領主の邪教信仰宣言だ。
一歩間違えば暴動になるんじゃないか。
すると、そこで見計らったようにチャイナドレス姿のオフィーリアが壇上に上がった。
オフィーリアの顔を見た町民たちから大きくどよめいた。
これは後から聞いた話だが、オフィーリアは美しいが病弱で出歩くことのできない不憫な娘として隠れた人気があったのだという。
ごく稀に体調が良い時は館のテラスから顔を出して町民に手を振っていたとか。
まさに深窓の令嬢というわけだな。
その彼女がピンシャンした歩みと露出の高い格好で現れたのだからそりゃ驚くだろう。
オフィーリアは町民たちの好気の視線に晒されながらも堂々とした態度で口を開いた。
「ゴリ様は無念を残して病床に倒れた私を無私の愛で救ってくださいました。お父様の宣言はその愛に報いるためのものです。あなた方に何を強制するものでもございません」
柔らかな慈愛に満ちた笑みを浮かべるオフィーリアの言葉に町民たちはうっとりと聞き入っている。
オフィーリアの尋常でない訴求力に俺は違和感を覚えたが彼女は言葉を続けた。
「ですが、もし何か生活で困ったことがあればご相談ください。伴侶に先立たれた、子どもが病に苦しんでい
る、農作物を魔物に困っている……どんな悩みも必ずやゴリ様がお救いくださるでしょう!」
いや、死霊術師の俺にできるのは死んだ人間を生き返らせることだけなんだが……。
生きた病人とか農作業の困り事なんかを持ってこられても逆に俺が困るぞ。
俺の思いをよそにオフィーリアの狂信的な熱意にあてられたのか町民たちは歓喜の声をあげている。
引きつった笑いを浮かべるのが精一杯の俺はこうして一躍この町の英雄に仕立て上げられてしまった。
それから俺は忙しく町中を駆け巡った。
西に死人あれば生き返らせ、東に病人あれば死ぬまでは精一杯生きろと諭し、北に魔物に困っている人あればスージーたちと一緒に討伐する――――。
そんな忙しい日々の中でオフィーリアは常に俺の隣にくっついていた。
オフィーリアは美人だし格好も生足出し放題でエロいし俺も悪い気はしない。
因みにスージーとシェルリは渋々といった風に俺とオフィーリアの後ろにいつも着いてきてくれた。
たまにシェルリの視線が痛かったが、忙しくて俺は2人に構うことがあまりできなかった。
町人の悩みを解決する度に俺の評判はどんどん上がっていく。
しかし、今更だが何故ネクロマンサーなんていう胡散臭い職業の俺がこんな簡単に受け入れられたのだろう?
この世界で死者の神を祀るのは邪教だって聞いたが……。
気になったので女神に聞いてみたら答えてくれた。
『オフィーリアでしたっけ? 彼女は中級アンデッドの殭屍になったようね。下級アンデッドのスージーたちと違って、中級以上のアンデッドは生前と姿が変わってそれぞれ特殊能力を持つようになるのよ』
なんだか女神は最初の頃に比べてくだけた口調だ。
『キョンシーは「魅了」の能力があるからそれで町人たちがあなたを受け入れやすいようにしたんでしょ。あまり万能の能力ではないけど、町民たちはもともと好感度高かったからよく効いたんじゃない? 知らないけど』
女神の態度は露骨に投げやりだった。
流石に俺がそれを咎めると女神は面倒臭そうに答えた。
『だってあなた順調なんだもの。もっとおもしろおかしいことになると思ったのに。あまりつまらないと他の神様たちから私の評価に響くのよね』
俺のイセカイッド生活が順調で何が悪い。
相変わらずファ◯クな女神だった。
まぁいいか。
なるほどキョンシーね。どおりで蘇った時にいきなりエロい格好になるわけだ。
魅了って能力も露骨に強いな。オフィーリアはこれからも頼りになりそうだな。
ひょっとして、スージーたちも進化して中級アンデッドになればエロい格好になるんだろうか?
楽しみで仕方がない。
しかし、たしかにこうしてこの町を拠点に信仰を広げていけば、簡単に俺だけのハーレムを作れるかもしれない。
見た目が生者と変わらなくて、しかもセクシーなアンデッドたちを集めて。
どの美少女も俺を司祭様と崇めて――――。
いいぞ! まさにチート能力持ち転生者じゃないか!
俺はこれからの自分の順調なイセカイッド生活を思い浮かべてほくそ笑んだ。
しかし、すべてが順調というわけにはいかなかった。
ずっと放っておいたスージーとシェルリの不満が爆発したのだ。
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