幕間 ゴリとスージー
真っ暗闇の中、誰かが泣いている。
聞き慣れた泣き声がどこかから聞こえてくるんだ。
もうとっくに俺の命の炎は燃え尽きて、視界は闇に閉ざされている。
『あぁ、スージーの奴がまた泣いてやがる』
あの世とこの世を彷徨うようなぼんやりとした意識でそう感じた。
消えゆく意識が最後のとりとめもない思索にふける。
そういえば、出会った頃からスージーはいつも泣き虫だったなぁ。
両親がゴブリンに殺されちまった時。
シェルリとオフィーリアが喧嘩した時。
街で留守番して欲しいと伝えた時。
吸血鬼に襲われた街で再会した時。
それにーーーー俺が死んだ時。
仲間の中で一番付き合いが長く、一番素直に感情表現するスージー。
戦闘で役に立てないのを気にしてて、それでも健気に体を張って俺を守ろうとしてくれるスージー。
そんな彼女がまた泣いている。
悲しげな泣き声は俺の魂の底にまで響き続ける。
『あぁ、そういえば……』
それはいつだったか。
たしか俺は、誓ったんじゃなかったか。
”もう二度と、スージーを泣かせない”って。
最初の頃の俺は、異世界転生主人公に憧れていて、チート能力をもらって異世界にやってきて。
自分だけの異世界ハーレムを作ろうと意気込んでいた。
だが、ハーレムってのは俺が思うよりずっと大変で。
誰かを贔屓すれば誰かのやっかみを買い、それがいざこざになる。
人数が増えるほど揉め事は増えていき、ついには国家規模の争いにまで巻き込まれるような始末だ。
目の前のトラブルを解決することに必死で、いつの間にか俺は初心を忘れていたんじゃないか?
あれから何度スージーを泣かせただろうーー。
特に今回は完全に俺のせいだ。
俺が死ぬせいでスージーは大泣きしているし、俺が死ねば眷属であるスージーも後を追うように消滅してしまう。
俺は、たまたま運が良くて。
死んじまってからもこの異世界でチャンスがもらえただけの男だ。
我の強い女たちに振り回されるばかりで、どれだけ俺は彼女たちにお礼ができただろうか?
我ながら俺はハーレム主人公の器じゃなくて泣けてくる。
でもだからって、ここで死んじまってもいいかだって?
そうじゃないはずだ。
今もスージーは泣いている。
俺が泣かせているんだ!
たとえこれが死後にみた夢だったとしても。
性悪女神がもたらせた奇跡だったとしても。
『”死んでても”面倒を見る、それがアンデッドハーレムを作った俺の責任ーーーーだったな』
俺が存在することで異世界に多大な迷惑をかける?
生きてりゃ誰だって誰かに迷惑かけてんだ。
それに死んだからって俺がかけた迷惑は消えない。
なら、どんな手段を使ってでも生きて、責任を果たすだけだ。
俺は霧散しつつある俺自身に活を入れて、最後の呪文を唱えた。
「『死してなお歩み続ける』ーー!」
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