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聖騎士ヌアザ 第7部

 

 ダンプカーでも突っ込んできたかのように突然謁見の間の壁がデカい破砕音とともに吹き飛んだ。

 敵味方含めた謁見の間にいた全員が何が起こったのかと身構えた瞬間。

 巨大な手がヌアザを鷲掴みにした。

 

「そうよぉ。コトリちゃん上手上手ぅ。狙ったとおりよぉ」

 

 瓦礫が崩れる音にまぎれて聞き覚えのある艶っぽい女性的な声が聞こえてきた。

地縛霊(ファントム)』の能力で壁を透過して様子を伺っていたシーリーンだった。

 

「ややや、やった……! できたよシーリーンちゃああん」

 

 気弱そうにどもった歓声をあげるのは今まさに巨大な手で壁をぶち破った張本人であるコトリだろう。

 いきなり自分の体より大きな手のひらに掴まれたヌアザは驚愕しながら身じろぎしている。

 

「なっ!? なんだこれは!」

 

 理解しがたい状況に混乱しながらも護衛の聖騎士達はそれぞれに下賜されたであろう光輝く聖なる武器を振るった。

 

「ヌアザ騎士団長!? 騎士団長を守れ!」

 

 聖槍が、聖弓が、聖槌が、コトリの手に向けて振るわれる。

 アンデッドに対してこれ以上ないほど致命的な効果を与える聖なる武器はしかし、コトリがヌアザを掴んだまま手を引いて謁見の間の外に出てしまったことにより空を切る。

 幾人かの聖騎士はその弾みで崩れた瓦礫の下敷きになって行動不能になったようだ。

 残された聖騎士たちは行動不能になった仲間を冷酷に見捨て、騎士団長であるヌアザを救出すべく謁見の間から慌てて出ていく。

 

「ゴリさぁん。助けに来たわよぉ〜」

 

 シーリーンがふわふわと俺の元に近寄って来るとファントムの能力で俺に生命力を分け与えた。

 どうやら俺を助けるために他のアンデッドたちから少しずつ生命力を集めてくれていたらしい。

 お陰で俺はなんとか自分の足で立てるくらいに回復し、アンデッドを回復させる死霊術で謁見の間に倒れ伏した仲間たちを回復させた。

 

 全員万全には程遠いが最低限動けるまで回復すると、俺たちは謁見の間の崩れた壁から外を覗き見た。

 

 城壁周辺をはじめ、王都のあちこちで戦闘が起きているのがわかる。

 だが今は助けに行きたくなる心をグッと抑え、コトリたちの様子を伺った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁ! くそっ、離せ化け物女が!」

 

 コトリは『燃え盛る(バーニング)巨人(ジャイアント)』の能力を最大限に発動し、なんと30メートルはあろうかという巨体になっていた。

 王宮を超える大きさの燃え盛る巨人の登場に王宮周辺にいた敵味方問わずが肝をつぶして逃げている。

 

 当のコトリは握りしめたヌアザを自信なさげに見つめている。

 普段は仲間を傷つけないよう炎を抑えて手加減をするコトリも、全身を激しく燃え上がらせながら今はきっと全力で握りしめているはずだ。

 だがそれでもヌアザは何か特別な加護のある装備でも持っているのか、苦痛の滲んだ声を上げつつもまだ元気そうだ。

 

 足元ではヌアザの部下たちがコトリに向かって一斉に聖なる武具や浄化魔法での攻撃を仕掛けている。

 しかしいくら聖武具や浄化魔法がアンデッドに特効であるとはいえ、あまりにも大きくなりすぎたコトリの全身を消滅させるには至らなかった。

 コトリに気を取られている護衛騎士たちをテレポートで接近したシェルリとオフィーリアがこともなげに不意打ちで殺したのが見えた。

 

 静かになったコトリの足元から俺は再び頭上に視線を戻した。

 

「このっ……! 卑しい亜人のデカ女め! 放せ! 貴様なぞこの聖剣のサビに……」

 

「え、え、え? ……放していいの?」

 

 ヌアザの巨人族であるコトリに対して人種差別を含んだ物言いに返答したコトリの声色はいつもと違っていた。

 表情も普段の気弱そうでいつも何かに怯えているようなコトリの表情とは趣を異にしている。

 

「なに……?」

 

 様子の変わったコトリにヌアザが不審げな声をあげる。

 コトリのそれは――――いじめっ子がいじめられっ子に向ける暗い笑みだった。

 

「わ、私ね。巨人族の中ではチビだったの。だからいじめられるのが嫌で生まれ故郷を出て人間たちの輪に入ったの。でもそしたら、今度はデカ女って馬鹿にされたの……」


 自らのつらい過去を語るコトリの声は冷めきっており、いつものどもり癖すらない。

 足元にいる俺たちにすら通るようなはっきりとした声だ。


 既にコトリが何をしようとしているのかをこの場にいる全員が察している。


 地上30メートル――。

 それは高層ビルもないこの異世界において、それはほとんど「空」と同義の高さだった。

 

 コトリはヌアザをゆっくりと自分の顔の高さまで持ち上げた。

 

「ま、まさか!? やめろ!」

 

 それまでの余裕から一転して色を失ったヌアザが本気の制止の声をあげる。

 

「……嫌。死んじゃえ、ばーか」

 

 子どもっぽい悪口とともにパッとコトリが手を離す。

 ほんの一瞬だけ重力から取り残されたように空中に放り出されたヌアザは、当然の帰結として落下を始めた。

 

「う、うわあああああ!」

 

 真下は王都の整備された石畳。

 ヌアザは重力に従ってどんどん加速していく。

 

 鎧を着たヌアザはバタバタと身体を動かしたがその行為は数秒後に訪れる結果に何も影響は及ぼせないだろう。

 

「誰かっ、誰か助けろ! 畜生! 神様――!! 助けてぇ!」

 

 聖騎士団団長ヌアザは最後に騎士団長としての誇りすら捨て去って、ただのか弱い女のような悲鳴をあげた。

 しかしその命乞いは神に届くことはなかった。

 

 およそ10階建てのビルくらいの高さから落下したヌアザは目を背けたくなるほどの勢いで石畳と激突した。

 その身体は重い金属音とともに一度小さく跳ね、それからピクリとも動かなくなった。

 石畳を抉るほどの落下の衝撃は金属鎧ですらひしゃげさせている。

 中身の彼女自身がどうなったかなど――火を見るより明らかだ。

 

 神聖騎士団、騎士団長ヌアザは無惨な死体を王都に晒した。

 

 巨大なコトリの姿と、女のような悲鳴をあげてヒキガエルのように潰れて死んだ自分たちの象徴たる団長を見て聖騎士たちは恐慌した。

 武器も何もかも投げうって逃げ出そうとするもの、正気を失ってがむしゃらに突撃してくるもの、泣き出してうずくまるもの。

 

 これを好機をみた俺は「ロイテンシア! 能力を使え!」と死霊術師(ネクロマンサー)として命令した。

 すぐに頷いたロイテンシアが『死者の姫(レギオンプリンセス)』として王都全体に届くよう命令を下した。

 

「『死者の群れ(アンデッドレギオン)』よ! 集結せよ! 我らが王都を汚した生者を生かして帰すな!」

 

 王都にいるアンデッドたちのほとんどは俺が寝込んでいた間にロイテンシアが死者から蘇らせた下級アンデッドだ。

 ロイテンシアの生みの親である俺もロイテンシアを経由して個別に命令を下すことは可能だが、ロイテンシアであれば巨大な群れをひとつのアンデッドとして統率して命令することができる。

 

 死者の姫の命令を受けて、王都の死者たちはそれまの散発的な反撃ではなく、まるで訓練された軍隊のように高度に統率された動きでもって反撃を開始した。

 一人の聖騎士に複数人で、自分を盾にして後方の味方で殺到して押しつぶす。

 

 聖騎士団も冷静であればそれに対処しただろうが既に彼らは統率者を失い混乱していた。

 多少の犠牲を出しつつも確実に死者の軍勢は聖騎士団を押し返していく。

 俺は勝利を確信して歓声を上げる。

 

「いいぞ! これなら……!」

 

 一時はどうなるかと思ったこの戦場も、なんとか生き残れたかと思ったその時――――。











『あらあら。やっぱりあの騎士団長じゃあなたは倒せなかったようね』




 唐突に、ゴリの脳内に聞き覚えのある声が響いた。


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