聖騎士ヌアザ 第6部
次に俺が目を開いたのは聖剣の極光が放たれてからすぐのことだった。
見上げた謁見の間の天井は聖剣が放った光によってぶち抜かれて朝日が差し込んでいる。
穏やかな光景だな、と場違いな俺の感想は脇腹に走る激痛ですぐさま現実に戻された。
「うぐっ――!」
苦悶する俺に3人娘の声が降りかかる。
「ゴリ様!」
「ゴリさぁん!」
「うっうー!」
オフィーリア、シェルリ、スージーがすぐに仰向けになった俺の視界に顔を出す。
とっさに身を起こそうとしたが、激痛に悶えることしかできない
「ううー!」
すると動けないでいる俺の手をスージーが掴んだ。
俺の手の平を自分の胸に当てて、真剣な眼差しで見つめてくる。
痛みさえなければ喜ばしい場面だが今はそれどころではない。
「ーーッ! 『分け与えよ』(ドレインタッチ)!」
すぐさまスージーの意図を理解した俺は対して生命力を奪う死霊術を唱えた。
アンデッドは生者と比べてかなり生命力は低いが、ないわけではない。
スージーから俺の体に生命力が流れ込んでくる。
「う、うぅ……」
ただでさえ少ない生命力を奪われてスージーの口から苦悶が漏れる。
苦しそうに耐えるスージーに比例して俺は徐々に自分の脇腹から痛みが引いていくのを感じた。
「ゴリさぁん! 次はあたしからぁ!」
「私の生命力もお使いください、ゴリ様!」
これ以上生命力を奪ってはスージーが動けなくなりそうなところで、交代するようにシェルリが俺の手を自分の胸元に引き寄せた。
さらに続けてオフィーリアも代わる。
3人から生命力を譲り受けて緩やかに回復した俺は自分の脇腹を見て、どれだけ酷い怪我だったのかを自覚した。
恐らく、ドレインタッチを躊躇っていれば命はなかっただろう。
だがいくら生命力を譲り受けたとて、致命傷が完治するわけじゃない。
「ファ○ク……! 状況はどうなっている?」
しかしそのお蔭で俺はよろめきながらもかろうじて上体を起こした。
自らの意志で俺に生命力を分け与えてくれた3人は俺のそばで立ち上がれないほど弱っている。
俺の隣にいたロイテンシアは護衛騎士たちに庇われたようで、護衛騎士は消滅してしまったようだがロイテンシアはなんとか助かっていた。
だが、ロイテンシアも苦しげに顔を歪めるだけですぐには動けそうにない。
俺と3人娘とロイテンシアは動けない。
それにメリリーは、あの聖剣の光の直撃を受けて……。
絶望的な状況に歯噛みする俺に、消滅したはずのメリリーの声が響く。
「安心しろ、お前は私が……守る」
謁見の間の下方を見やる。
俺の目に入ったのは聖剣を携えたヌアザと対峙する、消滅したはずのメリリーの姿だった。
大盾ごと粉砕されたはずのメリリーは俺に止めを刺そうとするヌアザに立ちはだかっている。
その後ろ姿は見慣れた鈍い銀色の金属鎧から変わっていた。
朝日を吸収するような黒い禍々しい鎧、吹き飛ばされた大盾の代わりとでもいわんばかりに、彼女の両手にはひと回りは巨大になったメリリーの代名詞とでもいうような大戦斧を手にしている。
ハルバートの先端からは禍々しい呪いの霧が立ち上っている。
それは彼女が騎士系中級アンデッドの『死せる魔剣士』から上級アンデッドの『暗黒騎士』に進化した姿だった。
「ふん。随分と都合のいいタイミングで進化するものだな?」
ヌアザが皮肉げに話しかける。
消滅の寸前に進化によって怪我も完治したのかメリリーは無傷のようだ。
たしかに偶然にしては神がかり的なタイミング。
いや、あるいはメリリーの仲間を守るという強い意志がもたらした奇跡か。
アンデッドの系統の中でも騎士系は戦闘力において抜きん出て秀でる。
なかでも騎士系上級アンデッドともなればその戦闘力は竜種とも比肩するとすら言われる。
目に見えて強化されたメリリーを見てもヌアザは不敵な笑みを消さずに軽口を叩いた。
「どれほど進化しようとも、聖騎士である我々が貴様らの天敵であることは変わらない。まして、この私が佩く聖剣の前ではアンデッドなぞ塵芥に等しい」
口では傲岸不遜なことを吐きつつも油断なく聖剣を構えるヌアザに俺は怒りとともに叫ぶ。
「なんの……なんのつもりだヌアザ! まさか最初からーー!?」
俺の声を聞き、俺を仕留め損なったことに気付き不快げに眉をひそめたヌアザは「何をいまさら」という態度で威厳たっぷりに返答した。
「そうだとも。この国がアンデッドに毒されていることは『勇者』殿から聞き及んでいた」
「勇者――――だと?」
魔王を倒したのは神聖騎士団ではなく勇者と名乗る何者か。
たしかにそんな噂は聞いていたが、まさか実在したとは。
しかし、なぜその勇者とやらが訪れてもいない王国の現状を把握しているんだ――?
「私が使者の振りをしていたのはたんに、アンデッドに有利な夜を避けたのと貴様らの不意をつくためだ。――――聞こえるだろう?」
ヌアザの言葉にはたと気づく。
あれだけの轟音が響きながら、メリリー達以外に誰も謁見の間に様子を見にやってこない。
耳を立てると城の外から激しい戦闘音が聞こえてきた。
「先程の極光剣が総攻撃の合図だ。神の教えに背く化け物共は根絶、ネズミ一匹逃さぬよ! クハハハハハ!」
自分の絶対的優位を確信してヌアザが下品に哄笑する。
最初からそう決めてあったのだろう。
王宮で光の柱があがったのを合図に王都を包囲していた神聖騎士たちに一斉攻撃を仕掛けよ、と。
せっかく復興が進んでいる王都が再び侵攻される。
しかも神聖騎士団の目的は殺すことではなく消滅である。
殺された人間は死霊術でアンデッドとして蘇らせることはできるが、アンデッドは消滅させられれば二度と蘇ることはない。
今すぐにでも迎撃に向かいたいところだが、立ち上がることすらままならない俺たちに何ができる?
目の前にいる聖騎士団たちが俺たちを逃がすとも思えない。
「くそっ! 俺たちは平和に暮らしたいだけなのに何故こんなことをする!? 宗教とやらがそんなに大事か?」
「貴様らアンデッドが平和なぞ笑わせるな! 歩く死体が生者の世界を脅かす限り聖騎士団は許しはしない!」
問答無用とばかりにヌアザが再び大剣を構えた。
極光剣を阻止すべくメリリーは即座に大戦斧を振るう。
ドラウグルだった頃と比べ物にならない大質量。
呪いの霧を纏った大戦斧が相手を存在ごとこの世から消し去らんとばかりに振り下ろされる。
だがその致命の一撃はヌアザを庇って前に出た護衛機が音もなく盾で受け止めた。
「な、に……!?」
渾身の一撃を振るったメリリーが驚愕する。
ただの人間が盾だけで大質量の激突を無効化したのだ。物理的にありえないことだ。
見れば、護衛騎士が構えた盾はヌアザの聖剣のように光を放っている。
アンデッドに特効のある聖なる盾なのか。
俺たちが驚いている隙きにヌアザは必殺の攻撃準備を終えてしまった。
あとはそれを振り下ろすだけで俺たちは為す術もない。
「――元凶である貴様さえ消し去れば、アンデッドどもはすべて消え去るのだ」
メリリーが無駄だとわかっていても聖剣の射線に入って俺を庇う。
身動きできないロイテンシアが何かできることはないかと必死に腕を伸ばしている。
スージー、シェルリ、オフィーリアが俺にのしかかるように身を挺して守ろうとする。
「ちくしょう! なにか――なに、か……?」
俺は最後まで諦めること無く生き残る術を見出すために無い頭を振り絞った。
すると。
ふと、あることに気づいた。
メリリーがいるのに、シーリーンとコトリはどこに行った――?
「汚らわしい死霊術師よ! 滅びろ! 神技! 『極光――――」
やここまでかと思われた、その時。
「こここ、このぉ〜〜〜〜!!」
どこか聞き覚えのある間の抜けた大きな声とともに謁見の間の壁が木っ端微塵に破壊された。
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