聖騎士ヌアザ 第5部
俺は寝ぼけ眼のままロイテンシアと並んで朝日が照らす謁見の間にやってきた。
謁見の間に入るのは俺とロイテンシア、そしてロイテンシアの騎士たちが10人ほど。
スージー、シェルリ、オフィーリア。それに冒険者3人娘には念の為仲間たちは隣の部屋で待機してもらっている。
ノワールとミラは元吸血鬼なので朝には極端に弱いようで起きてこないので放っておいた。
王族が座る大仰な椅子がある一段上の舞台から客人達を見下ろすと、意外な光景が広がっていた。
――不気味なことに、昨日の鷹揚な態度から一転して神聖騎士団たちは玉座の前に跪いて静かに俺たちを待っている。
見事に整列して頭を垂れる聖騎士たちは纏った白銀の鎧が朝日を反射させて光り輝き、まさしく神聖騎士団らしい神々しさを発揮していた。
どういう心境の変化かはしらないが、どうやら王宮に招かれたヌアザを含む騎士たちが全員揃っているようだ。
「ロイテンシア王女、ならびに宮廷魔術師よ。昨日は世話になった。貴国の我々に対する歓待は必ず本国に戻ったら教皇に伝えよう」
少なくとも口先では感謝を述べる相手にロイテンシアは恭しく応じると、当然の疑問を尋ねた。
「もう旅立たれるのですか? こちらとしては引き止める理由もございませんが、まだ朝日が上がったばかりですよ?」
「ふん、なに。この時間が一番都合がいいのだ」
恭順な顔を一瞬で捨てたヌアザは不敵な笑みとともに立ち上がった。
彼女に仕える聖騎士たちもゆっくりと、それでいて緊張感を伴って立ち上がる。
「機会を伺うだけのつもりだったが、貴様らとの戯れ、望外に楽しませてもらったぞ」
「なに……?」
俺はこれまで死霊術師として何度も死線をくぐってきたが、それでも本職の戦士や兵士じゃない。
だから俺は違和感を感じつつもヌアザが立ち上らせる気配が意味するものをすぐには理解できなかった。
「知っていたか? 今日は夏至……一年でもっとも日照時間が長い日だ」
ヌアザはあえて俺たちのいる玉座に背を向けると、俺が感じ取れなかった感覚――――殺意を篭めて腰の大剣を抜いた。
背後でバンッと謁見の間の扉が乱暴に開かれる音がした。
視界の端で血相を変えた仲間たちが駆けつけてくるのが見える。
「つまり、貴様ら化け物がもっとも弱くなる日だ!」
ヌアザが頭上に大剣を掲げると謁見の間に満ちる朝日が、光が、刃に収束していく。
光の大神の力を宿した聖剣を大上段に構えて振り返った聖騎士団長ヌアザの双眸は王女であるロイテンシアではなく、明確に『俺』を捉えている。
極大の魔力を纏い兵器と化した聖剣をヌアザは一切の躊躇なく、俺に向けて振り下ろした。
「神技! 『極光剣』!」
光り輝く聖剣から極光が迸る。
謁見の間の豪奢な内装を蒸発させながら必滅の光が玉座ごと俺たちを薙ぎ払わんと迫りくる。
「ゴリ!」
間一髪で間に合ったメリリーが大盾で俺たちを庇う。
メリリーが大盾を床に叩きつけて突き刺して固定する。
さらに金属鎧を纏った小柄な体躯すべてを使って大盾を支えようと踏ん張った瞬間、メリリーに光の奔流が激突した。
大盾が洪水のように押し寄せる極光を割る。
これまで何度も危機的状況でも仲間を守り続けてきたメリリーの大盾。
ぶっきらぼうだが誇り高い戦士の矜持を持つメリリーは今もまた身を盾として仲間を守ろうとしてくれていた。
メシャリ――――
しかし、止まらぬ光の奔流に大盾が軋む。
誰でもわかる、1秒後に確実に訪れる破滅を前にメリリーはそれでもけっして身を翻すことをしなかった。
「ゴリさぁん!!」
大盾が砕ける直前、シェルリの声とともに俺の視界が塞がれた。
きっとそれはシェルリが包帯で俺を守ろうとしてくれたのだろう。
だが、それも一瞬のこと。
俺の身を幾重にも守ったであろうシェルリの包帯を貫いて俺の視界は光に包まれた。
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