表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/53

幕間 女神の不吉な予言


『やぁ。相変わらず順調過ぎてつまらない異世界生活を送っているようですね』


 やっと王都の復興とハーレムのご機嫌取りが安定してきたと思った頃、随分と久し振りのあのファ○ク女神(サクラ)がテレパシーで話しかけてきやがった。


「今更なんの用だ? 俺の異世界転生(イセカイッド)生活は神様たちも飽きて放って置くって言っていただろうが」


『別に用はありませんが、ふと思い出したので覗いてみたのですよ』


「暇かよ……」


 クソ女神にとっては俺の多大な苦労も放置していたアクアリウムの水苔くらいしか興味がないのだろう。

 俺はできれば無視したかったが、しつこく聞いてきやがるので近況なんぞを教えてやった。

 クソ女神のことははっきり言って面倒に思っているが、一度死んだ俺にこの世界で生きるチャンスをくれた恩をまったく感じないというほど俺も不義理なやつじゃないのだ。











『なるほどなるほど。とうとう死霊術師(ネクロマンサー)のレベル15まで到達しましたか。この世界においてレベル15というのは人間という種族の限界ですから、もう頭打ちですね』

 

「種族限界?」

 

『えぇ。あなたの配下であるアンデッドたちもあなたの限界に引っ張られるので上級より上のアンデッドに進化することもないです』

 

「そういやぁスージー以外はもう全員上級アンデッドか。ということはスージーはまだ進化できるんだな?」

 

『あなたが最初に蘇らせた娘でしたか? あの娘くらいの才能ではせいぜい中級アンデッドの「意志ある死体(レブナント)」止まりでしょうね』


 スージーを馬鹿にされた気がして俺は一瞬ムカついたがすぐに冷静になった。


「む……いや、まぁたしかにあいつは荒事に向いてないからなぁ」


 これまでスージーはすぐに戦闘不能になるかお留守番していたからな。

 アンデッドとしての経験値的なものもあまり貯まっていないだろう。


『それでも進化すれば普通に会話できるくらいにはなるのではないでしょうかね』

 

「おぉ! そいつは楽しみだな」

 

 いつかスージーとまともに話がしたいと思っていた俺は素直に喜んだ。

 女神は性格がクソだが持ってくる情報は神としての有益なものが多くて助かる。

 そこで俺はふと「魔王軍の動向もこいつに聞けばいいんじゃないか?」と思った。

 

「おいク……いや、女神よ。魔王軍についてなんだが――」


『そういえば、近々あたな達の元に「お客」が行きますよ』


 俺の質問に被せるように女神が喋りだした。


「客? 客だと? まさか魔王軍がもう来るってのか!?」

 

『違いますよ。せいぜい楽しみにしているといいですよ。きっと刺激的な出会いが待っていることでしょう。――それではごきげんよう』

 

「おいちょっと待――――!」

 

 詳細を尋ねる前に女神は一方的にテレパシーを終わらせた。

 

「あのフ○ック女神め……」

 

 魔王軍じゃなけりゃ、何が訪ねてくるっていうんだ?

 こちとらまだ王都の復興も途中だっていうのによ。

 俺が女神の発言の真意を考えようとしたところ、部屋の扉を蹴破らんばかりの勢いでオフィーリアが飛び込んできた。










「大変です、ゴリ様!」

 

「おう。お前が取り乱すなんて珍しいな、どうした?」

 

 オフィーリアが答える前に後から部屋に入ってきたノワールが答えた。

 

「魔王軍の動向を偵察に出ていた部下が戻ったよ」

 

 ノワールに続いてぞろぞろとロイテンシア以外の仲間が俺の部屋に集まってきた。

 ロイテンシアは王女としての執務で忙しいのだろう。

 ともあれ、ロイテンシアを除いた全員が深刻な顔でノワールの話を聞いている。


 ノワールはただでさえ青白い吸血鬼(ヴァンパイア)の肌を一層蒼白にしながら言葉を続ける。

 

「魔王様が……。魔王様が隣国の神聖帝国の人間どもに()()()()()

 

「なっ――!?」


 それは衝撃の報告だった。

 この王国に攻め入ったのは魔王軍第4軍。

 たった1つの軍隊で王都を埋め尽くすほどの吸血鬼の群れだ。

 隣国の神聖帝国には第2、第3軍が攻め込んでいたはず。

 

「2つの魔王軍を退けただけじゃなく、魔王直属の第1軍と魔王も討ち倒したっていうのか!?」


 どう考えてもありえない話だ。

 たしかに俺は神聖帝国がどれくらいの国力を持っているのか一切知らないが、血を吸って無尽蔵に数を増やす吸血鬼の大群をたかだか1つの国が魔王ごと滅ぼすなんて。

 いくらなんでも荒唐無稽ではないか。

 訝しむ俺にオフィーリアがさらに眉唾な情報を口にした。


「あくまで噂ですが……この世界ではない異世界からやってきた『勇者』を名乗る者が現れ、神聖帝国と協力して魔王を倒したようです」


「異世界勇者だぁ!?」


 俺は文字通り椅子からずっこけた。

 慌ててスージーが駆け寄り俺を引っ張って起こしてくれた。


「そうだよねぇ! 異世界なんてそんなのあるわけないんだからぁ!」


「まったくです。それならば神聖帝国が魔王を倒したということのほうがまだ真実味があります」


 シェルリとオフィーリアは笑っているがまさに異世界からやってきた俺は笑い飛ばせない。


「そうか、ひょっとして俺の後釜か……?」


 女神が俺を異世界転生させたのは暇を弄ぶ神々の暇つぶしだという。

 俺が無難で順調な異世界生活を送る様子を神々は飽きて見捨てたとクソ女神は言っていた。


 つまり、俺を見捨てた代わりにもっと主人公向きのやつを異世界転生させて、勇者として魔王と戦わせたってのか?

 そいつはご苦労なことだな。


 もしこの話が本当なら、見ず知らずの勇者様が魔王を倒してくれたお陰で平穏なハーレム生活を送れるのかもしれねぇ。

 やっぱりイセカイッドも時代はスローライフだよな。

 大冒険して魔王を倒すなんて俺向きじゃないと思っていたんだよな。


 俺は難しい顔で情報の真偽を確かめようとする仲間たちに向かって声を上げた。


「オイオイオイ! 何くらい顔してるんだお前たち? 魔王がやられたってんならもうこの王国は安心なんだろう?」


 両手を広げてにっこり笑う俺にミラとノワールが反論する。


「バカ言うんじゃないわ! 吸血鬼の(ハイデイライト)真祖(ウォーカー)の魔王様が人間なんかに負けるわけないんだから!」


「信頼できる部下からの情報だけど、虚報を掴まされた可能性はゼロではないよ。こうなったらボク自身が神聖帝国に赴いて――――」


 元魔王軍幹部である2人は魔王の死亡と魔王軍の壊滅を受け止められない様子だ。

 対して冒険者3人娘は。


「なんだ……魔王と戦えないのか、つまらん」


 メリリーは強敵と戦える機会が失われたことを残念がり。


「よよよよよかったぁ……もうこれでヴァンパイアの親玉と戦わなくていいんだぁ」


 コトリは強敵と戦わなくて済んだことを安堵し。


「あまり平和になっちゃうとぉ、私達冒険者は食いっぱぐれるから困るのよねぇ〜」


 シーリーンは魔王がいなくなった後のことを考えていた。


 というかこの3人はまだ冒険者家業を続ける気なんだろうか?


 全員がバラバラの反応を示すなか、スージーが心配そうに俺の服の裾を引っ張った。


「うー……?」


 なんとなく「これでもう戦わなくていいの?」と聞かれているような気がする。

 思えば、いつも何かに急き立てられるように俺たちは戦ってきた。

 スージー、シェルリ、オフィーリアの3人であの街で暮らしていた俺たちは気がついたら魔王軍と王国のいざこざに巻き込まれていた。


 村育ちのスージーは街に来ただけで大はしゃぎをして。

 事故死して別れた家族と再会できたシェルリは大喜びして。

 オフィーリアは病気を克服して嬉しそうに領主の娘として執務をして。


 小さな幸せを少しずつ集めて平凡に暮らせればそれでよかった。

 色々話が大きくなっちまったが、復興したら王都で優雅に暮らすか、街に帰ってのんびり暮らすか。

 俺たちにも先のことに思いを馳せる余裕がやっとできたのかもしれない。


「あぁ、安心しろスージー。これでもう――――」


 安心だ、と。

 言いかけた瞬間。


 唯一この場にいないロイテンシアの言葉が俺の脳内に届いた。


『アーノルド様! 至急私の執務室――いえ、王城のテラスにおいでください!』


『ロイテンシア? お前も念話が使えたんだな。「死者の姫(レギオンプリンセス)」ってのはほとんどネクロマンサーと変わらん――』


『それどころではありません! 王都が……』


 ロイテンシアは王女らしからぬ切羽詰まった声で。


『神聖帝国の騎士団に王都を包囲されました!』


 未来への儚い希望をぶち壊す絶望的な状況を告げた。


 もし宜しければ感想やレビュー、ブックマーク追加をお願いします!

 ↓にあります☆☆☆☆☆評価欄を、★★★★★にして応援して頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ