幕間 ミラとノワール
俺はスージーを復活させて気絶してから5日間も眠っていたらしい。
俺が眠りこけている間、疲れを知らない仲間たちは復興をすすめてくれていた。
死んだ国民はロイテンシアが『死者の姫』の能力でアンデッド化して蘇らせ、他の仲間は破壊された住居や王城の修理をしていたようだ。
俺が目覚めた時には既に死亡した大半の国民、吸血鬼のアンデッド化は終わっていたようで、シェルリとオフィーリアの街は数日前のあの酸鼻を極める惨状からはなんとか脱していた。
目覚めた俺が身なりを整えて最初にやったことといえばミラを復活させることだった。
ミラが率いる魔王軍は退けたが、あくまでミラが率いるのは4つある魔王軍の一つでしかない。
たしか第2、第3軍は俺たちがいる王国のお隣の神聖なんとか帝国を攻めているんだったか?
第1軍が壊滅したという情報はもう魔王に伝わっていることだろう。
なんなら今すぐにでも魔王が率いる第1軍がここに攻めてきても不思議はない。
だからノワールの時と同様にミラをアンデッド化して蘇らせて、魔王軍の情報を手に入れようと踏んだわけなのだ。
あれだけ殺し合いをした敵ではあるが、ノワール同様に「負けたからには勝者に絶対服従」になると思ったのだが――――その目論見は見事に外れた。
「は? なんで私がアンタみたいなゴリラに従わないといけないわけ!?」
一度ぶっ殺されてもまったく懲りた様子のないミラは俺に命令されるのが大層不服だったようで、一度は敵対したメリリーやコトリも青くなるほど盛大に歯向かってきたのだ。
アンデッド化して騎士系アンデッド『死神』となったミラの能力は凄まじく、俺たち全員がかりで懲らしめるのに丸一日もかかった。
「……わかった、わかったわよ。今日のところは私の負けってことにしてあげる!」
2度も連続で倒されてしまい流石のミラも少しは大人しくなった。(あくまで当人にとっての少し)
さぁこれでやっと魔王軍の情報を聞き出せると思ったが――――なんとミラは魔王や魔王軍についてほとんど何も知らなかった。
「お前本当に魔王の第一の配下なのか? 魔王の右腕の癖にバカ過ぎるだろう」
呆れた俺の言葉にミラは手こそあげないがギャンギャンと小うるさく反論してきた。
「何よ! 私は真祖の寵愛なんだから、魔王様の愛を一身に受け止めるのがお仕事なのよ。難しい魔王様のお考えなんて知らないわよ!」
ミラのそんな言葉を聞いた元ミラ直属の部下であるノワールは頭を抱えながら小声で呟いた。
「ミラ様はああいうお方だからね……魔王様から指示を受けるのはミラ様だけど、第4軍の指示は概ねボクがやっていたんだよ」
中間管理職の苦悩を滲ませたノワールは手際よく自分の部下の吸血鬼を呼び寄せ、魔王軍の偵察を命じた。
命令された吸血鬼(アンデッド化しているので裏切る可能性は低いだろう)は跪いて頷くと音もなく消えていった。
「これでうまくいけば数日後には情報が手に入るよ。例えこの王国に再侵攻するとしても、軍隊っていうのはそう簡単に動かせるものじゃないからね。少なくとも半月から1月くらいの猶予はあると思う」
アホで考えなしのミラに対して優秀な能力を見せるノワールの評価を俺の中でひとつ上げた。
しかし、俺たちはなんのためにあれだけ苦労してミラを蘇らせたんだろうか。
頭痛を抱えながら俺はオフィーリアとシェルリの街を離れて王都に向かった。
「うー」
同じ轍を踏まないよう、今度はスージーも連れて全員での移動だ。
心なしかスージーの声も弾んでいる。
「言ってくれるじゃなぁい? このアバズレ王女」
「言葉遣いに品がありませんわ。いえ、盗賊風情に品を求めるのが無粋だったかしら」
王都ではロイテンシアとシーリーンが喧嘩をしながら待っていた。
執務室で王女としての執務をしているロイテンシアをシーリーンがダメ出ししているらしい。
お互いを罵り合っているが暴力には発展していないようなので何よりだ。
俺たちに気付いたロイテンシアは近衛騎士(当然こいつらもアンデッドだ)に下がるように命じた。
「お帰りなさいませ、アーノルド様。御身の武勲は聞き及んでおります。一重にこの度の勝利は優秀な死霊術師である貴方様の……」
「話が長いわよぉ」
深々と頭を垂れながら王女として俺に礼を述べるロイテンシアの言葉をシーリーンが遮る。
ロイテンシアはニコリと凄みのある笑みをシーリーンに向けるが『地縛霊』のシーリーンは気にする素振りもなく俺のちかくにふよふよと漂ってきた。
「よく頑張ったじゃなぁい。見直したわぁ。褒めてあげてもいいわよぉ?」
半透明の身体で俺にまとわりつくシーリーンの指が俺の背中をなぞる感触にぞわぞわする。
そこにメリリーとコトリも俺のそばに寄ってくる。
「ゴリのこと……認めてやっても、いいぞ」
言葉少なに俺への信頼を告げるメリリー。
「ごごごゴリさんのことは、そこまで、怖く、ないです……」
十分怯えている気がするが、コトリはコトリなりに俺への信頼感を口にしてくれる。
因みにコトリは『燃え盛る巨人』の能力で元の3メートル弱くらいの身長に戻っている。
「オイオイオイ……」
数々の死線をくぐり抜けたことで俺にもついにモテ期がやってきたのか!?
鼻の下が伸びるのを感じながらデレデレと冒険者3人娘と話していると、スージー・シェルリ・オフィーリアの町娘3人組から鋭い視線を感じた。
「これまで淑やかに出来る女としてゴリ様に仕えてきましたが、これからはもっと攻勢に出る必要がありそうですね」
「ゴリさん……新しい女ができたからって私達のこと捨てるの許さないんだからぁ!」
「ゔー…………」
俺は慌ててそちらに駆け寄って「お前たちも大切に思っている」と必死に伝えた。
いくつも言葉を重ねてなんとか誠意は伝わったかと安堵したのも束の間、今度はロイテンシアとノワールとミラが不満を言いはじめた。
「アーノルド様。市井の者にばかりかまけていらっしゃると私、拗ねてしまうかもしれませんよ? 王女である私のご機嫌を一番に考えねば後が怖いと思いませんか?」
「そんなことよりいつまで私を待たせるのかしら!? お客人にお茶とお菓子も出てこないのかしらこのお城は!」
「ミラ様、つい先日攻め入った側の我々がその態度はいくらなんでも厚顔が過ぎるかと……」
執務室は一斉に喋る9人の美女、美少女のやかましい声で埋め尽くされている。
しかもその声に耳をふさぐわけにもいかず、全員の女性の機嫌を伺わなければいけないのは他ならぬアンデッドハーレムの主であるネクロマンサーの俺である。
「知識として知ってはいたが、ハーレム系異世界転生の主人公ってのも大変なんだなぁ……」
ひとまず魔王のことはさておき――――俺は王都の復興とハーレムメンバーのご機嫌取りに全力を尽くすことになった。
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