幕間 おかえり、スージー
「スージー!!」
俺は戦闘が終わると同時にスージーが踏み潰された死体の山に駆け寄った。
倒した相手の死亡確認や残党の殲滅など、やらなければならないこと、優先すべきことはたくさんあるだろう。
しかし今の俺にとっては、スージーの安否確認以上のことは考えられなかった。
鼻をつく死臭。
腐乱した死体による汚染。
いずれも厭わず素手で肉片を片っ端から漁る。
アンデッドならいざしらず、生身の人間である俺にとっては感染症などで十分命にかかわる危険行為だ。
そんなことは元検視官である俺が一番よく知っている。
だが、この時の俺は冷静さを失っていた。
周囲でノワールや合流したメリリーとコトリたちによる残党狩りの戦闘音も耳に入らない。
待っていろ、スージー。
俺が絶対に見つけてやる。
――――仲間たちの制止の声を無視して死体の山をどれくらい捜索しただろうか。
これが異世界転生作品なら奇跡的に形見が出てきて感動に涙を流しそうなものだが、現実は非常である。
俺が生前の検視官の知識と経験を死にもの狂いで捜査し、見つかったのはスージーの左手だけだった。
だが、スージーのものだと確信が持てる肉体が一部でも見つかったのは幸運だ。
「頼む。間に合ってくれ……『渇望せよ、死せる者たちよ』!」
俺は一縷の希望を託して高度なアンデッド回復呪文を唱える。
回復の光がスージーの左手を包む。
しかし肉体を失い過ぎているのか。
光に包まれたスージーの手が現れても彼女が蘇ることはなかった。
「ゴリさん……」
近くに寄ってきたシェルリが悲しげな声を出す。
シェルリとスージーは初期からの仲間で、仲が良かったからな。
「ゴリ様……なんとお声がけすればよいか」
そっとオフィーリアが身を寄せてきた。
その声色には俺を慰めようとする優しさがあった。
二人は既にスージーの復活を諦めているようだったが、俺はまだ諦められなかった。
「まだだ! こうなりゃ……」
俺は左手だけとなったスージーを両手で祈るように強く、強く握りしめた。
「『貪り喰らえ、我が肉を』!」
最後の手段として俺はつい最近覚えたばかりの死霊術を唱える。
これまで死霊術師として数々の死闘をくぐり抜けてきた。
貯まりに貯まった経験値によっていつの間にか俺はネクロマンサーの高みへと足を踏み出しつつあった。
死線を超えて覚えた、ネクロマンサーの最高位に近いこの呪文は術者の命を削ってアンデッドを復活させる呪文だ。
これまでのような魔力を使うだけの呪文とは格が違う。
ほとんど消滅しかかったアンデッドを蘇らせるには術者の生命力――即ち寿命を対価として支払うことが求められる。
こんなハイリスクな呪文を使うくらいなら、アンデッドを生み出す呪文で新たなアンデッドを生み出した方がよほど効率はよいだろう。
だが、そのリスクを犯してもなお失うには惜しい仲間を蘇らせる時にのみ使用する。
そう、まさに今この時のための呪文なのだ。
魔力を使う時にいつも感じる軽い虚脱感とはまったく違う、ゾッとするほどの寒さが背筋を這う感触。
俺が奥歯が震えるほどの悪寒に耐えていると、握りしめたスージーの腕が光り始めた。
進化の時と似た光は次第に大きくなり、暫くするとそこには見慣れた少女が現れた。
両手で手を握りながら跪く俺の前に現れたのは間違いなくスージーだった。
「うー……?」
何が起こったのかわからないという顔をしながらも、スージーは俺の顔を見るとすぐに顔をほころばせた。
「スージー! よかった……! 俺のことがわかるか?」
ぶんぶんと首を縦に振りながらスージーの瞳には喜びの涙がポロポロと溢れた。
「うっうー!」
スージーは久し振りに飼い主に会えた飼い犬のように大喜びで俺に抱きついてきた。
「そうか。よかった、本当に。よかった……」
俺は抱きついてきたスージーの頭を何度か撫でると、一気に全身から力が抜けた。
立て続けの戦闘、寿命を削った呪文、そしてスージーを無事に助けられた安堵感から俺はその場で意識を失った。
このあと俺が目覚めたのは5日後のことだった。
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