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真祖の寵愛ミラ・リャナンシー 後編


「う"う"う"う"!!」


 ミラの足首に噛み付いていたのは首だけになったスージーだった。


「スージー!? お前そんな姿になって……!」


 「町を守ってくれ」なんていう俺の留守番させるための約束を律儀に守って、そんな姿になるまで戦ってくれていたのか。

 首だけになって死体の山の一部になりながらも、今もまた俺を守ってくれている。


 俺が驚いていると、リサが噛まれていない方の足を振り上げた。

 その行為の意味するところを理解した俺は咄嗟に制止の声を張り上げた。


「やめっ……!」


 だが、俺が制止する前にミラはなんの躊躇いもなく上げた足を振り下ろした。


「なんなのよこいつ!」


 まるで道端に落ちていた果物を踏むようにリサは首だけになったスージーを踏み潰した。


 グシャッ――――


「――――――――」


 一瞬だけ、戦場を静寂が包んだ。

 スージーは跡形もなく潰れて消えていた。


 リサが汚らしいものを落とすように足首に刺さった歯を払うと、すぐに足の怪我は元通りになった。


 眼前で起こった信じられない出来事に俺もシェルリもオフィーリアも言葉もない。


「ふんっ。死にぞこないのさらに死にぞこないの分際で。目障りなのよ!」


 そこに吐き捨てるようなミラの悪態が聞こえてきた。

 空っぽになった心に怒りの火が灯る。


 異世界転生(イセカイッド)して最初に仲間になった俺のスージーを。

 俺たちの大切な仲間を。


 俺は割れんばかりに奥歯を噛み締め、叫んだ。


「てンめぇえええええええ!!!」


 怒髪天を突く怒号とともに俺はダメージも忘れて跳ねるように立ち上がる。


 ――こいつ、だけは!


 俺の怒りに応えるように満身創痍のシェルリとオフィーリアが光りだした。

 それは先程のコトリと同じく、進化の光だった。


 激昂する俺をミラが冷めた眼で見つめる。


「雑魚を潰したくらいでいちいちうるさいのよ!」


 血の刃(ブラッドブレード)で一息に勝負を決しようとミラの片手が俺に向かって上がる。

 止めようとしたノワールはもう片方の手から放たれた複数のブラッドブレードに阻まれる。


 逃れられない死の予感。

 だが放たれる直前になってミラの近くになんの前触れもなくシェルリが現れた。

 進化の光が収まったシェルリの見た目にはそれほど変化がない、以前と変わらぬ全裸に全身包帯姿だ。

 ただ、全身を包む包帯にはびっしりと禍々しい謎の文字が刻まれている。


「何よ! びっくりするじゃない!」


 すぐさま目標を変えたミラの手からブラッドブレードが放たれる。

 先程包帯の盾を貫通して身体を真っ二つに両断された血液の刃をしかし、シェルリは回避の素振りすらせずにその身に受けた。


 ブラッドブレードを受けたシェルリは包帯ごと縦に真っ二つにされた。

 あまりに呆気ない一撃にミラが眉をひそめた瞬間、切断されたシェルリの姿がほどけた包帯の中に消えた。


 消滅したかに見えたシェルリは風に流されるように別の地点に集まった包帯の中から何事もなかったかのように出現した。

 シェルリは完全な無傷でいたずらっぽく微笑む。


「は!? 何それインチキ!」


 困惑の声をあげるミラ。

 俺はミラが混乱している隙きに進化したシェルリをネクロマンサーの能力で視た。


 ゾンビ系上級アンデッド、『高貴なる木乃伊(マミーロード)』。

 基礎ステータスの底上げに加え、無尽蔵に包帯を伸ばして包帯のある場所なら好きに消失と出現ができる。

 炎が弱点なのは変わらないが、『地縛霊(ファントム)』のシーリーンと同じく物理攻撃にはほぼ無敵となった。


「もうっ! 切っても切ってもキリがないわね、面倒くさい!」


 何度切断しても再出現するシェルリに痺れを切らしたミラがこちらに向き直る。

 今回の戦いにおいて完全なる足手まといである俺をまず始末するつもりなのだろう。

 妖しく光る金色の魔眼で再び俺を見つめた。


 強烈な頭痛と目眩がくると身構えた俺に対し、いつもの熱っぽいオフィーリアの声がかけられる。


「ご安心くださいませ、ゴリ様!!」


 再び俺を魔眼から守るために立ちはだかったオフィーリアは金糸で意匠を凝らしたチャイナドレスを着ていた。

 こころなしかスリットが大胆に深くなったドレスから覗く生足が眩しい。

 無論衣装がエロくなっただけではなく、魅了(ファッシネイション)の能力が純粋強化されたようでミラの魔眼を完全に相殺していた。


 魔眼を無効化されたことを心底不愉快そうにミラは口を荒らげた。


「アンデッドの分際で私が魔王様からいただいた魔眼に対抗するなんて……生意気だわっ!」


 魔眼による攻撃を諦めたミラは背中の翼を羽ばたいてコウモリの大軍を再び召喚した。

 1秒後にはまた殺到してくるであろうコウモリたちをしかしオフィーリアは笑って受け流す。


「たしかに私は守るのは苦手ですが、攻めるのでしたら得意ですわ」


 オフィーリアは両手を広げて仰々しくくるりと1回転する。

 すると彼女を中心に無数の剣が現れ、コウモリに向かって突撃した。


 殭屍(キョンシー)だったオフィーリアがよく両手に二刀流で持って戦っていた剣は意思を持つかのように追尾してコウモリたちを殲滅した。

 今のオフィーリアはキョンシーから進化し、死体系(ゾンビ)上級アンデッドの『尸解仙(シージェシェン)』となっていた。


 フィジカルなステータスは据え置きだが、魅了など以前から持っていた能力が純粋強化されている。

 更に自分の両手の中に限って無限に生み出せていた剣が、自分の近くであれば空中に生み出すことができるうえ射出する能力まで得ていた。

 無限の弾丸を持つ中距離アタッカーというほとんど反則のような強さだ。


 魔眼を跳ね返しながら無数の剣を自在に操りコウモリを引き裂いていくオフィーリア。

 視界の端で消滅と再出現を繰り返しながら回避盾としてミラの気を引くシェルリ。

 二人のお陰で気配を消して少しずつミラに攻撃を当てられるようになってきたノワール。


 二人の進化によって戦況は激変した。

 常識はずれの再生能力でダメージが通っているようには見えないが、確実に攻撃は当たりはじめている。

 このまま有利を少しずつ広げていけば活路が見いだせるかもしれない。

 そう思い始めたところ、俺が予想した展開よりもはやくミラの堪忍袋の尾が切れた。


「あぁ~! もう! やってられないわ!」

 

 一転して防戦を強いられるようになったミラが不快感を顕に地団駄を踏んだ。


「なんなのよ! なんなのよ! 進化したくらいでいい気になるんじゃ――ないわよ!」


 言うやいなやミラは魔眼とコウモリ召喚をやめ、無秩序にブラッドブレードをバラ撒きだした。

 魔力をすべてブラッドブレードに使っているようでその数はこれまでの比ではない。


 防御不能の攻撃をこうもバラ撒かれては接近することもできない。

 俺は足手まといにならないようとにかくその場から離れた。


 そんな癇癪を起こして攻撃しまくるミラの足元に細かく切断されたシェルリの包帯が落ちた。

 次の瞬間、ミラの目と鼻の先に包帯の欠片からシェルリが出現した。


「!?」


 面食らうミラをシェルリは包帯で一瞬でぐるぐる巻きに拘束した。

 苦しげな声をあげるミラ。


「うぎっ!」


 今こそが好機とノワールが必殺の一撃を叩き込むべくミラの頭上高くに跳躍した。

 

「この……!」


 何かしら反撃を企てたミラが動くより前に拘束された包帯を貫通してオフィーリアの剣が何本もミラに突き刺さった。


 ドスドスドスドス!


「ぎゃあああ!」


 吸血鬼としてどれほど異常な再生能力を持っていたとしても、剣が突き刺さったままでは再生もままなるまい。

 拘束に加えて身体に複数の穴を開けられたことで本格的に行動不能になったミラ大鎌を振り上げたノワールを見上げた。


「や、やめなさいノワール!」


 ミラの頭上高くで跳躍の頂点を迎えたノワールが重力に従って徐々に加速しながら落下してくる。

 逃れられぬ死の運命を目の前にしてミラは大物ぶった態度を捨てて狂乱した。


「いや……いやよ! 死にたくないわ! 助けて、魔王様! 魔王様!」


 幼い外見そのままの幼子のような泣き言を無慈悲に両断するかのように、ノワールは大槍を振り下ろす。


冷血なる死の血槍(ヴラド・ツェペシュ)――!」


 呪いの血槍による死の刺突を脳天に受け、真祖の寵愛(リャナンシー)の少女はひとたまりもなく絶命した。



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