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幕間 冒険者三人娘


 戦闘が終わり、あれから俺たちはゾロゾロと歩きながら暗い地下道から地上に向かって王城内を歩いていた。

 道中、すっかり人数が増えた俺たちはざわざわと騒がしく移動している。


「何故ボクがキミたちに従わないといけないんだい? ボクが主君と認めたのはゴリさんだけだよ」


 つーんとそっぽを向きながら生意気な態度をとるノワール。

 魔王軍の情報を聞き出そうと向き合っているメリリー、コトリ、シーリーンの冒険者三人娘はノワールに対して険悪な雰囲気だ。


「生意気な……クソガキ、だ」


 メリリーは言葉数少ないが、額に血管が浮いて青筋を立てている。


「やややや、やめようとメリリーちゃあん。この子すごい強いんだから……!」


 コトリはノワールに怯えて大きな身体を縮めてなんとかメリリーの後ろに隠れようとしているが、低身長なドワーフのメリリーに隠れるのはいくらなんでも無茶だ。


「あらあらぁ? 元魔王軍の隊長さんだっていうのにぃ、敗者は勝者に従うということも知らないのかしらぁ?」


 シーリーンは声や顔は笑っているが、怒りからか『地縛霊(ファントム)』の半透明の身体がチリチリと瞬いている。

 そんな三人娘の様子を見てもノワールはむっつりと黙っている。


 見るに見かねた俺はノワールに声をかけた。


「ノワール。せっかく仲間になったんだ。もう少し素直にだな……」


 俺が話しかけるとノワールは唇を尖らせた。

 戦っていた時の誇り高く凛々しい態度から一転した、子どもっぽくて可愛らしい仕草。

 あるいはこれがノワールの素なのかもしれない。


「ボクはこれが素直な態度だよーーです」


 嫌々ながらも新しい主人である俺の言葉に従おうとするノワール。

 中性的で整いすぎた顔立ちのノワールに睨まれると特殊な趣味のない俺でも背筋がゾワゾワするな。


「……命令には従うよ。けど! 先に言っておくけれどボクに()()()の趣味はないからね」


「ん? そっちの趣味ってなんのことだ?」


 俺とノワールのやり取りを見ていたシェルリとオフィーリアがハッとしてヒソヒソ話をしだした。


「やっぱりゴリさんって勘違いしてるのかなぁ? さっきもハーレムの話をしてたしぃ」


「いくらなんでも……しかしゴリ様は鈍感ですからね……」


 なんのことかわからんので聞いてみようとしたが遮るようにノワールは魔王軍の情報を話しだした。


「魔王軍には4つの軍隊があって、第1軍は魔王様の直属。第2、第3軍はここの隣国の神聖帝国を攻めているよ。ボクが所属する第4軍は知っての通りこのロイテル王国を攻めている」


「ふーん。ロイテル王国っていうのか、この国」


 よく考えたら王都王都と呼んでばかりで、俺は今俺たちがいる王国の名前すら知らなかった。

 そんな俺の様子を見てノワールが口を開けたままこちらを見ている。


「ご、ゴリさんはそんなことも知らずに王女を助けに王城まできたのか……!?」


 驚くノワールの後ろからなんでもないことのように冒険者三人娘の声がかかる。


「わわわわ、私も初めて知りましたぁ……」


「国の名前なんて……どうでも、いい」


「その日暮らしの冒険者なんてぇ、みんなこんなものよぉ」


 ノワールは信じられないと完全に呆れた様子だ。

 ついでに言うと、俺たちは王女を助けにきたんじゃなくてむしろ殺しにきたんだが、話がややこしくなりそうで俺は黙っておいた。


 気を取り直したノワールは話の続きをした。


「とにかく、ボクはその第4軍の先遣隊の隊長なんだよ。一応第4軍で2番目に偉くて、魔王軍の中でも幹部って呼ばれることもあるんだから!」


 ボクは偉いんだよと誇らしげに話すノワール。


「負け犬が……吠えて、る」


「今じゃこんな筋肉ゴリラに負けて私達と同じアンデッドのお仲間なのよねぇ」


「え、えへへへへ……新しい仲間……お友達……」


 三人娘の息の合った容赦ない突っ込みにノワールは「うっ」と小さく呻いた。

 この3人のコンビネーションはこれから頼りになりそうだ。


 そんなことを考えていると俺はふとあることに気付いた。


「ん? 先遣隊の隊長ってことは、王都にいるのとは別に本隊が近くにいるのか?」


「そりゃいますよ。そっちはボクの上司が率いています。ボクから連絡がなくなりましたから、数日中には王都にやってくるんじゃないですかね」


「オイオイオイオイ! そういうことは早く言えよ」


 慌てる俺を少し後ろを歩いていたオフィーリアが宥めるように近づいてきた。


「ゴリ様、落ち着いてくださいませ。猶予が数日あるのであればそれだけ準備ができます」


 走って寄ってきたシェルリもいつもの明るい笑顔で同意する。


「そうだよぉ! それに私たちは仲間も増えて強くなったからきっと大丈夫なんだからぁ!」


 根拠のないシェルリの能天気な明るさは見る人間を和ませてくれる。

 ノワールは腕を組んで考えながら喋り続けた。


「たしかにあの王女がいれば数の上では本隊に劣らないだろうけれど……うーん」


 先に地上に戻ったロイテンシア王女は『死者の姫(レギオンプリンセス)』という特殊系(エクストラ)上級アンデッドとなっている。

 その特殊能力は死体さえあれば下級アンデッドを無制限に生み出し、使役できるというものだ。

 幸か不幸か(巻き込まれた人間にとっては間違いなく不幸)、地上には国民や騎士、吸血鬼の死体が山のように積み重なっているはずだ。

 それらがすべて手勢となれば、下級アンデッドといえども恐ろしい軍勢だろう。


「もしかしてぇ、楽勝なんじゃないかしらぁ。下級吸血鬼(ブラッドサッカー)はそれなりに強いみたいだけど、不死身ってわけじゃないんでしょう?」


「アンデッドは……傷ついても、死なない」


「そそそそそれに! 王都で籠城すれば……攻める敵よりも、有利……」


 シーリーン、メリリー、コトリの三人娘も同意した。

 シビアな状況判断をして生きてきたベテラン冒険者たちの意見は信頼できる。


 状況は思ったよりも悲観的ではないかもしれない。

 そう俺が思い始めたところでちょうど俺たちは地上に戻ってきた。


 ブラッドサッカーで埋め尽くされていた地上はずっとすっきりしていた。

 なにせ倒れていた死者、蠢いていた吸血鬼が全部復興の人足になっているのだ。


 遠目に見えるロイテンシア王女が手を動かすと無数の下級アンデッドとなった民たちが瓦礫を逸し乱れぬ動きで片付けている。


「こりゃ復興も早そうだな」


 うっすらと白んできた空が昨晩の惨劇の終焉を物語るかのようだ。

 明るい未来を感じながら俺はついでの疑問を眩しそうにしているノワールに尋ねた。


「そういえば、その第4軍の本隊ってのは今はどこで待機しているんだ?」


「……はい? あぁ」


 吸血鬼らしく陽の光が苦手なのか、ノワールは煩わしそうにしながら。

 なんてことないように答えた。


「ポロニアスという貴族が領主の街ですよ」


 それは、シェルリが生まれた街であり。

 オフィーリアの一族が治める領地であり。

 王都に向かう前にーーーースージーを留守番させていた場所だった。



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