盗賊シーリーン 前編
王都の広場で繰り広げられた一悶着の結果、俺は全身に火傷を負ったうえ倒れてきたコトリの巨体の下敷きになった。
いよいよ俺もくたばったのかと思ったが、なんと驚いたことに目を覚ますと全身傷一つなくなっているじゃねぇか。
聞けば、なんとコトリは神官だったらしく正気を取り戻してすぐに生者用の回復魔法で瀕死の俺を治療してくれたらしい。
フィジカルばかり目立つのでてっきりコトリは巨人族の格闘家だと思っていたが――よく考えれば、俺も人のことは言えない。
世の中にはでっかい神官がいれば、俺のような筋肉ダルマの死霊術師(ネクロマンサー)だっているのだ。
――――ここは王都のどこかの路地裏らしい。
人目につかない薄暗い裏路地で、先程の戦闘でボロボロになった仲間たちが倒れている。
俺は慌てて死者用の回復呪文で仲間たちを回復してやった。
回復呪文のお陰で俺たちは見た目のうえでは態勢を立て直した。
一息つくためにどこかの宿屋で休憩をしたかったが、あれだけ大立ち回りをしておいてそんなことをしたら宿屋に迷惑を掛けてしまう。
人混みに紛れようにも。
俺、シェルリ、オフィーリア、メリリーはまだマシだが――――巨人族のコトリがあまりにも目立ちすぎる!
『燃える死者』のコトリは特殊能力で全身を発火させると当然の帰結として衣服は全部燃えてしまう。
燃えている最中は炎のお陰で見えちゃマズい部分は際どく見えなくなっていたが、今のように戦闘終了後は新しい服を用意しなきゃならん。
かといってその辺で死んでる兵士の服が巨人族のコトリに着れるわけもなく、今はひとまず露天の天幕に使われていた帆布を拝借している。
それでさえも身長3メートルのコトリにとってはバスタオルくらいの大きさでしかなく、必死に裸身を隠そうと両手で押さえている姿は色んな意味で目が離せない。
特に身長の大きさを差っ引いてもお釣りが来るほど大きな2つの膨らみは見応えがある。
「そうか、巨人族ってのは背がデカいだけじゃなくてそっちもデカいのか……」
布地からはみ出ているコトリのあれやそれやを見ながら深く頷く。
その態度が気に喰わなかったらしく背後からシェルリとオフィーリアの拳が俺の後頭部と脇腹にめり込んだ。
「うぐぅ」と苦痛に呻いてから俺は居住まいを正した。
俺にはこのパーティのリーダーとして確認しなければならないことがあるんだった。
「コトリ、お前は邪教徒の嫌疑を掛けられていたが……ひょっとしてメリリーを死霊術で蘇らせたのはお前か?」
自分より頭ふたつみっつ小さい俺の声を聞いてビクッと怯えたあと、コトリは「は、はいぃ……」と弱々しい声で返答した。
気弱そうな声でコトリは頷き、事の顛末を語りだした。
腕利きとしてそれなりに名の知れた女冒険者パーティであるメリリー、コトリ、シーリーンの3人はある日、重大な護衛依頼を受けることになった。
なんでも、魔王軍がこの国に襲撃計画を立てているという情報を手に入れたので、それを隣国に伝えて助力を仰ぐための使者を護衛する依頼だとか。
護衛に国の正騎士団を伴えば動きを魔王軍に悟られる危険がある。
そういった理由で腕利きの冒険者パーティであるメリリーたちに声がかかったのだろう。
しかし。どういう経緯かはわからないが結果として、使者の計画は魔王軍にバレてしまったようだ。
メリリーたちが護衛する使節団は隣国に向かう道中で襲撃されてしまった。
襲撃してきた魔王軍は少数精鋭で、特に1人強い魔族がいたらしい。
美少年のような中性的な美貌を持ったその年若い魔族は護衛する使者を安々と殺し、使者を庇ったメリリーは致命傷を負ってしまう。
幸いにも、使者を殺すという目的を達したことで魔王軍は生き残ったコトリ、シーリーンと数名の兵士を残して立ち去った。
パーティの要であり心の支えであったメリリーを喪ったことでコトリは心神喪失状態となり、知識としてだけ覚えていた死霊術を初めて使ったのだという。
シーリーンはそれを止めようとしたそうだが、狂乱するコトリを止めることが如何に困難かは俺たちもよく知っている。
だが結局メリリーを蘇らせることは失敗したらしく、更に悪いことに死霊術を使おうとする場面を生き残った兵士に目撃されてしまった――――。
「そうか……ということは、俺たちが出会ったメリリーの蠢く鎧はその時の死霊術が不完全だったせいで時間差で動き出したんだろうな」
コトリは路地裏の冷たい地面に女の子座りをしながら俯いている。
座って俯いても俺より目線の高い彼女の顔はその時の自分の過ちを思い出して辛そうだった。
つっかえながらもコトリは言葉を続けた。
「わ、私のせいでシーリーンちゃんが……悪いことした私を庇ったせいで連れて行かれちゃったんですぅ……」
メリリーがグスグスと泣いているコトリの背中(身長差のせいで背中というより腰だ)をポンポンと優しく叩いている。
仲の良いパーティだったんだろうな。
俺はコトリが落ち着くのを待ってから話しかけた。
「そのシーリーンっていう盗賊ダークエルフ娘がどこに連れて行かれたかわかるか?」
「王都までは私と一緒だったんだけど……た、たぶんお城に連れて行かれたのかも」
王城か。
街の中心に目を向けると、路地の隙間から城の尖塔が僅かに見て取れた。
距離的には遠くはないが……。
思案しているとオフィーリアが進言してきた。
「王城に忍び込むのであれば私にお任せください、ゴリ様。それにコトリ様がこうして処刑されたことを考えれば、あまり時間はありません」
たしかにオフィーリアの魅了があれば忍び込むこと自体はそう難しいことではないかもしれない。
それを聞いて今度はシェルリが。
「でもでも、さっき戦ったばかりであたしもう疲れたんだからぁ! アンデッドでも気分的には疲れるよぉ!」
これももっともな意見であり、怪我は魔法で治ってもパーティの消耗は否定できない。
続いてメリリーが。
「明日には……兵士は、増える」
俺たちはさっきまで特大の揉め事を起こして逃亡した身だ。
時間が経てば経つほど王城に忍び込むことは難しくなるだろう。
最後にコトリが。
「シーリーンちゃん……」
離れ離れになった仲間の名前を心配そうに呟いた。
こうして全員の話を聞いていると、改めて俺のハーレムは人数が増えたと実感する。
俺の脳裏に町で留守番してくれているスージーが心配そうに俺の帰りを待っている顔が浮かんだ。
アンデッドといえど、不滅の存在ではない。
ここからの動き次第では俺を含めたここにいる誰かが失われてしまうかもしれない。
悩ましい状況であるが、こういう時こそ俺が決める必要がある。
チート能力を持って異世界転生してきた身として、ハーレムの主としての責任をまっとうしなければならない。
仲間たちはじっと俺のことを見ている。
大切な仲間たちの視線を受けて、俺は拳を握り締め――。
「行くぞ――――シーリーンを、助けに!」
俺はアンデッドパーティを率いるネクロマンサーとして決断を下した。
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