幕間 シェルリとオフィーリア、それと女神
これはシェルリとオフィーリアの町から王都に向けて旅立ってすぐの時の話だ。
ポカポカと心地よい日差しが差し込む馬車の中で揺れに任せてぼんやりしているとオフィーリアが肩を寄せてきた。
「ゴリ様。お飲み物はいかがですか? お注ぎいたしますわ」
まだ昼前だというのにオフィーリアはぶどう酒を勧めてきた。
「さぁさぁ、どうぞ……」
仕事はしっかりしていてもこういうところは貴族なのだなと思いながら盃を受け取ると、ぶどう酒のボトルを傾けながらオフィーリアは露骨に胸を俺の腕に押し当ててくる。
それどころか深いスリットの入ったチャイナドレスから大胆にも生足を俺の足と絡めてくるではないか。
しかし改めて思うがスリットというのはどうしてこれほどエロいのだろう。
ロングスカートから覗くふとももというのはある意味で裸よりもエロいのではなかろうか。
俺がそんなオフィーリアを見て生唾を飲み込んでいると、俺とオフィーリアを引き剥がすようにシェルリが間に割って入ってきた。
「ちょっとオフィーリア! あなたいい加減にしてよぉ!」
シェルリが突然オフィーリアを引っ張るものだから俺まで釣られて馬車の中でもんどり打って転倒してしまう。
裸に包帯だけの姿であるシェルリと密着するよう倒れたことにより、少女特有の温もりと華奢なボディライン、そして裸同然の肌の柔らかさが全身に感じられる。
さらに反対側からはオフィーリアの温もりが――。
俺は平静を保つのに多大なる努力を強いられた。
そんな俺の努力にまったく気づかず、シェルリとオフィーリアは我先にと立ち上がると睨み合って口論を始めた。
「いきなり何をするのですか不躾な! いつも言っておりますけれどシェルリさんは口より先に手が出る癖を直されてはどうですか?」
「何よ! オフィーリアこそいつもいつもゴリさんに色目ばっか使ってさぁ!」
2人が言うように、これはいつものやり取りだった。
オフィーリアは初対面の時から俺に対して崇拝のような感情を抱いている。
それは今回のような熱のこもった言動と恋人同士のような近すぎる距離感というわかりやすい表現で表されるのが常である。
いくら俺が死んだ彼女を生き返らせた命の恩人だとしても、ここまで露骨に好意を持たれるものだろうか。
対して、出会った頃のシェルリは俺に生き返してもらったという恩は感じているようだったが特別な感情を抱いている素振りはまったくなかった。
それがどういうわけか、オフィーリアが仲間になってからは彼女が俺とくっつこうとするとすぐに怒り出して今回のように喧嘩を始めるのだ。
こうなると俺が何を言っても2人は気がするまで言い争いを続けることになる。
ポジティブに考えれば2人は俺のことが好きで、俺の取り合いをしているということになるのだろう。
毎回毎回騒がしいのは勘弁だが、俺は”モテる”という人生初の経験に思わずほくそ笑んでしまう。
俺が自分の人生において初めての経験に戸惑っていると、突然脳内に女の声が響いた。
『あなたの魅力ではありません。恋心というのは、ライバルが存在することで勝手に芽生えたり燃え上がったりするものなのですよ』
不意にテレパシーで話しかけられて俺は馬車の中で飛び上がって驚いた。
「うおおっ!? 女神か?」
女神は驚く俺の様子を見て小さく笑う気配があった。
『貴族の娘があなたを慕っているのはヒヨコの刷り込みと同じですね。病弱で外に出たこともない彼女が初めて出会った父親以外の異性、それも自分を救ってくれた恩人ですもの。好意を持って当然ではありませんか? 幸運でしたね』
女神は頼んでもいないのに俺のハーレムの内情を勝手に解説し始めやがった。
『町娘についてですが、彼女はたんに、後から湧いて出た泥棒猫があなたと過剰に接触するのが気に食わなかっただけなのでしょうね、最初のうちは。それが何度もオフィーリアとあなたを取り合いしているうちに、自分があなたに恋をしていると勘違いをし始めた。思春期の少女がよくする勘違いでですね――――』
ベラベラとまぁ人様の心の内を語りやがる。
まだなにか言い出しそうな女神に嫌気が差して俺は女神の言葉を遮った。
「いつから女神からセラピストに転職したんだ? 仕事をサボりすぎて女神をクビにされちまったのか」
『あなたこそ久しぶりだというのにご挨拶ですね。たしかに最近なにかと忙しくてあなたの様子を伺っていませんでしたが、しっかり死霊術師として活動しているようですね』
恐らく新しく仲間になったメリリーのことを言っているのだろう。
メリリーのことで思い出したが、メリリーと一悶着あった時にこいつが居ればもっとスマートに解決できたんじゃないか。
「そうだ! お前このファ◯ク女神! 肝心な時にいねぇで何やってやがった! 俺を監視してカミサマたちとやらを楽しませるのがお前の仕事じゃなかったのかよ」
『……以前も言った通り、あなたの異世界生活は順調過ぎて神々に飽きられているのですよ』
俺の剣幕をどこ吹く風と受け流しながらも、女神はどこか不機嫌そうな気配を出している。
『飽きられてしまったのだから仕方ありません。私も当分は仕事を忘れて自分の好きにさせてもらいます』
そう吐き捨てるように言うと、女神の気配は冗談みたいにすっぱりと俺の脳内からいなくなった。
恐らく、また監視をやめてどこかに行ったのだろう。
「おいこらフ◯ック女神!? おい! ――クソッ、言いたいことだけ言って消えやがってあのアバズレが」
俺はせめてもの反撃として悪態をつく。
勝手に異世界転生させて、勝手に飽きるとはカミサマってのもろくなもんじゃないな。
女神との会話が終わり周囲に視線を向けると、ついさっきまで俺の傍で俺を取り合っていたシェルリとオフィーリアがいなくなっている。
見れば、狭い馬車の中で2人は斜向かいに座るメリリーの傍で3人固まるように座っていた。
まるで俺から少しでも距離を置こうとしているようだ。
じっとこちらを冷たい目で見つめる3人のうち、メリリーが小さく呟いた。
「あいつは……いつも、ああなのか」
メリリーの質問にオフィーリアが小声で答える。
「ゴリ様は時折、ああして虚空に向かって会話されることがあります。死霊術師でいらっしゃいますから、死者の神と交信なされているのかと……」
オフィーリアの発言を受けてシェルリが同じく小声で答える。
「傍から見ると相当ヤバい人だよねぇー……」
あんまりの言われようであったが女神の声が聞こえるのは俺だけであるのでさもありなん。
「もう二度と話しかけてくるんじゃねぇぞフ◯ック女神がよ……」
俺は天を仰ぎながら深い溜息をついた。
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