幕間 お留守番スージー
ドワーフ戦士のメリリーを仲間に加えた俺たち4人はメリリーの仲間を助けるべく、王都に向けて旅立つことにした。
スージーの村からシェルリたちの町までは歩いて数日かかったが、今回はオフィーリアが馬車を手配してくれるらしい。
「……ひょっとしなくともそれはシェルリを轢き殺した馬車じゃないか?」
俺はチラリとシェルリの顔色を窺ったが、シェルリはいつものように能天気に笑っていた。
シェルリのことだからマジで忘れている可能性もあるな。
当の本人が気にしていないようなので俺も気にしないことにしよう。
また、オフィーリアは馬車だけでなく糧食や着替えなど、旅に必要な物資はひととおり用意してくれた。
まさに至れり尽くせり。やっぱり貴族は違うな。
ただ気になったのは、その荷物の中に見たことのない黒い服が入っていたことだ。
オフィーリアに聞いてみると「それはゴリ様の新しいお召し物です!」と胸を張って顔を綻ばせた。
「ゴリ様は死霊術師でいらっしゃいますのに、前に出て戦われることが多いので……せめてこのお召し物を身に着けてくださいませ」
その装備はいわゆる皮革鎧と呼ばれるものだった。
流石にメリリーのような金属鎧には劣るが、非金属でありながらかなりの防御力を持つ。
それでいて鎧であるにも関わらず動きをほとんど阻害せず、魔法使いなどの後衛職に人気の装備らしい。
身につけてみるとたしかに悪くはない。
だが――ただでさえ筋肉ダルマの俺が鎧なんて着ると余計に図体がデカくなって脳筋に見えないか?
死を司る神の神官をイメージして黒を選んでくれたそうだが、俺が着るとどこぞのムキムキなダークヒーローみたいだ。
着用を渋る俺に対し、普段は俺からの命令であればなんでも一つ返事で快諾するオフィーリアが、今回のこれはかなり圧の強い「お願い」してきた。
仲間の心配を無下にするのも憚られて俺は黙ってこれを着ることにした。
「俺はともかく、お前らはどうするんだ?」
俺が尋ねるとシェルリが旅支度にはしゃぎながら答えた。
「アンデッドは鎧より頑丈だから平気だよぉ! 身体をバラバラにされるような攻撃を喰らうとダメだけど、そういうのは鎧を着ててもダメだから!」
「ふむ。まぁそんなもんか」
改めて俺は自分のハーレムを見渡した。
『木乃伊』のシェルリはボディラインの凹凸がくっきり出る扇状的な全裸に包帯姿。
包帯の隙間から見え隠れする肌色からは健康的なエロスを感じる。
『殭屍』のオフィーリアは深いスリットから覗く生足が悩ましいチャイナドレス姿。
シェルリとは真逆の蠱惑的なエロスが俺を狂わせる。
『死せる魔剣士』のメリリーは小さな身体に似合わない大戦斧とゴツい金属鎧姿。
そのギャップからくる可愛さと男のロマンが同居する欲張りセットだ。
1人だけまだ下級アンデッドである『屍食鬼』のスージーは特に決まった服装はないので白いワンピースを着てもらった。
普段の素朴な田舎娘っぽい服装も良いが、純白のワンピースも可憐で良いな……。
「うむ。完璧なハーレムだ!」
大満足でひとりりごちる俺だった。
「こうしていつまでも見ていたいが……」
俺は改めて自分の仲間たちのことを考え、ひとつの決断をしていた。
それは俺にとっても苦渋の決断だったが――――仲間のことを思えばそうせざるを得ない。
俺は健気に働くスージーの姿を目で追う。
戦闘であまり役に立てないからとスージーはとにかく手伝いをがんばってくれている。
呼び止めようとすると、ちょうど「準備できたよ」と言いにでも来たのかスージーがとてとてと近寄ってきた。
「うー」
「おう。わかった。……スージー」
「うー?」
スージーは幼い子どものような疑うことを知らない瞳で俺のことを見ている。
そんな彼女の様子にためらいながらも俺は口を開いた。
「実は、今回の旅についてなんだが……お前にはこの町で留守番を頼みたいんだ」
「あうっ!?」
ガビーン!!
古典的なサウンドエフェクトが聞こえてきそうなくらい露骨にスージーは落胆した。
こんな時、異世界転生主人公ならなんて声を掛けるべきだ……?
「い、いやほらよ! 誰かは残って町の仕事をしないといけねぇだろ!? 俺たち全員が王都に行っちまったらオフィーリアの親父が過労で死んじまう! アイツももう死んでるけどよ!」
涙目になったスージーは上目遣いで「もう私はいらない子なの?」とでも言いたげな悲しそうな顔で唸った。
「う"ー?」
「い、いやお前が足手まといって言っているんじゃねぇんだ! お前がいつも俺たちのためにがんばってくれているのは知ってる。けど、きっとこれからはもっと怖い敵も出てくるぞ! お前もまた身体を真っ二つにされたくないだろ?」
俺の言葉を聞いてもスージーはぷるぷると首を振ってイヤイヤしている。
スージーが俺の命令を無視するなんて、両親が殺された時以来だろうか。
激しい罪悪感に苛まれながらも、俺はスージーを心配する気持ちを伝えようと必死で言葉を選ぶ。
「……俺はまたお前が泣くような目に遭うところを見たくないんだよ。お前は平気だって言うかもしれないが、いつも酷い目に遭っているお前をもう見たくないんだ」
「うー……」
「この町を守るのだって大事な仕事だ。スージーだから任せられるんだぜ?」
我ながら、どこかで聞いたような薄っぺらい言葉しか出てこないことに泣けてくる。
それでもスージーは渋々納得してくれたようで、黙って頷いた。
「ありがとな。きっと悪いやつなんかみんな殺して、ついでにアンデッドにして帰ってくっからよ!」
自分でも緊張して何を言っているかわらかないが、とにかく安心させたくて頭を撫でてやるとスージーはちょっぴり嬉しそうに微笑んだ。
こうして俺は、スージーをこの町で留守番させることにした。
これは本心からスージーを心配しての選択だった。
――――果たして、この選択は本当に正しかったのか。
後になって何度も繰り返し自問自答することになるなんて。
この時の俺は知る由もなかった。
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