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戦士メリリー 中編

 蠢く鎧(カースドアーマー)は小柄な外見に反して強敵だった。


 なにせ本来であれば弱点である生身の肉体がないのだ。

 それでいて自分の倍以上もあるどデカイ戦斧を軽々と振り回してやがる。

 カースドアーマーは騎士系(ナイト)の下級アンデッドであるが、騎士系アンデッドはスージーたちのような死体系(ゾンビ)アンデッドと比べて戦闘に特化しているから強いのだ。


 木乃伊(マミー)であるシェルリは自在に伸ばせる包帯でカースドアーマーを拘束しようと試みるが、鋭い大戦斧と怪力の前に苦戦している。


 殭屍(キョンシー)であるオフィーリアは身軽な動きで大振りの攻撃を避けながら剣で攻撃するも、全身が金属鎧のカースドアーマーに有効なダメージは与えられない。


 この2人であればカースドアーマーに多少なりとも対抗できる。

 しかし、いまだ下級アンデッドの屍食鬼(グール)であるスージーは――。


 バシュッ!!


「あうぅー!?」


 大戦斧による横薙ぎ一閃を避けられなかったスージーの上半身と下半身が泣き別れになってふっ飛ばされた。


「なっ……スージー!!」


 まさか死んじまったかと思って驚愕する俺をよそに、落下したスージーは平然としていた。


「うぅー……」


 切断されたことのショックよりも、肌を晒すのが恥ずかしいのか?

 スージーは赤面して涙目になりながら破れた服の裾を押さえてもじもじしている。


 かわいい。

 いや、そうじゃない。


 ひとつ咳払いをしてから俺はカースドアーマーに向き直った。


「ん、んんっ。…………よくも俺の可愛い仲間に手を出しやがったな!」


 俺が激昂すると、すぐに俺を守るようにシェルリとオフィーリアが駆け寄ってきた。


「ゴリ様! 生身であれの相手をするのは無茶です!」


「そうだよぉ! ゴリさんは下がっていて!」


 たしかに、今となっては耐久力は言うに及ばず。

 アンデッドとしての怪力を持った2人のほうが筋肉ダルマの俺よりも力が強い。

 当然カースドアーマーにだってパワーで負けるだろう。


 だが、どのみちこのまま持久戦に持ち込まれれば戦力で劣るこちらがジリ貧だ。

 短期決戦に掛けるしかねぇ!


「こういう相手はなぁ! 『ズバッ!』とやっちまうのが一番なんだよ!」


 それに、スージーを泣かせたのは許せん。

 俺は一直線にカースドアーマーに向けて走り出した。


「シェルリ、防御頼む!」


 いきなり無茶振りの命令をされてシェルリは驚きの声をあげた。


「えぇ、防御ぉ!?」


 カースドアーマーは突進してくる短絡思考の俺を迎え撃つように大戦斧を水平に薙ぎ払った。

 このままでは俺もスージーと同じ目にあって真っ二つだ。


「シェルリなんとかしろ!」


「ちょ、ちょっと待っててばぁ!」


 シェルリが大慌てで迫りくる大戦斧めがけて包帯を伸ばした。

 包帯を絡められた大戦斧は僅かに勢いを減じるも、人を殺すには十分過ぎる勢いを保って向かってくる。

 だがこれなら――。


「イー! ハー!」


 俺はヤケクソでカースドアーマー目掛けて大ジャンプした。

 跳んだ足元を紙一重で掠めて大戦斧が空を切る。


 俺の着地場所でカースドアーマーがこちらを見上げている。


 あとはこのまま勝てるかと楽観したのも束の間、カースドアーマーは小癪にも大戦斧の柄部分を跳んでいる俺に向けてきた。

 柄の先端は尖っていて、このままの勢いで腹にでも喰らったら風穴が空きそうだ。


「やべぇ!? オフィーリアなんとかしてくれ!」


 俺の懇願に慌ててオフィーリアが剣を投擲した。


「無茶し過ぎですよゴリ様!」


 オフィーリアが投擲した剣が大戦斧に見事命中して狙いを逸した。


 これなら!


「これでも喰らいなフ◯ック野郎! どりゃああああ!!」


 小細工一切なし。


 俺は大ジャンプした勢いのまま全体重を乗せたボディプレスをカースドアーマーにかましてやった。

 たとえ腕力に差があろうとも、体格差(フィジカル)というのは絶対的な違いなのだ。


 カースドアーマーも大戦斧を手放してなんとか俺を受け止めようとしたようだが、俺の半分ほどしかない小柄ではどう足掻いても筋肉ゴリラのボディプレスを受とめられるはずもない。


 ドンガラガッシャーン!!


 カースドアーマーは俺と地面に押し潰されてバラバラに飛び散った。


 といっても金属がひしゃげたわけではなく、鎧の結合部が外れて散らばっただけだ。

 散らばった鎧の部品がカタカタと動いて元に戻ろうとしている。


「痛ってぇ……。シェルリ!」


 俺が名前を読んだだけでシェルリは意図を理解してくれたようで、包帯を無数に伸ばして鎧の部品を元に戻らないようひとつひとつ拘束した。

 バラバラになった部品にそこまで力はないようで、俺たちはこれでやっとカースドアーマーを無力化することに成功した。











「はぁ……面倒な相手だったぜ」


 シェルリとオフィーリアが守ってくれたお陰で俺はかすり傷くらいで怪我らしい怪我もない。


 俺は土埃を払いながら立ち上がり、3人を褒めようと振り向いた。

 その瞬間、眼前にオフィーリアの剣が視線を遮るように突き出された。


「うおっ!? な、なんだ……?」


 驚いてのけぞる俺の様子に頓着せず、オフィーリアは平坦な声色で答えた。


「今はそちらを見ないでいただけますがゴリ様。少々お見苦しいかと存じますので」


 なんのこっちゃと思ったらシェルリの大きな声が聞こえてきた。


「こ、こっちみないでったらぁゴリさぁん! 包帯伸ばし過ぎたから足りないのよぉ!」


 どうやらカースドアーマーを拘束するために包帯を伸ばしすぎたらしい。


 「あの包帯が有限だったということは初めて知ったが、それとシェルリの方を見ちゃいけないことにどんな関係があるんだ……?」


「う"ー!」


 別の方角からスージーの怒ったような唸り声も聞こえる。


「わ、わかったわかった。俺が悪かったよ」


 俺は両手を上げてそっぽを向きながら降参(サレンダー)の意思表示をした。

 いくら俺のハーレム(自称)とはいえ、女たちの不興を買えば後々大変だからな……。


 ――――ともあれ。

 かなり死線をくぐった気がしたがこれで初のアンデッドとの戦闘は終わった。


 俺はひとまずスージーの手当てをすることにしたのだった。


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