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戦士メリリー 前編


 ――――俺がアンデッドハーレムを作ると決意してから数ヶ月の時が過ぎた。


 あれからどうなったかというと。

 とうとう町に死者の神を祀る教会が完成してまった。


 俺はそこで邪教の司祭様として崇められる羽目になっている。


 崇められるといっても、俺がやることと言えば町のあちこちで町民の悩みを聞いて回る御用聞きみたいなものだ。

 そして、死霊術師(ネクロマンサー)として俺ができることといえばやはり死人を蘇らせるくらいのこと。

 町のあちこちで蘇生希望を叶えているうちに少しずつ人口のアンデッド比率が上がってきている。


 アンデッドが増えることで今後この町はどうなるのだろうか?

 楽観的な住人たちは「死んでもどうせ生き返らせてもらえる」と不安のない気楽な生活を送っている。


 今のところ純粋に住民たちの幸福度は上がっているらしい。

 けれど、死亡率が下がれば必然的に食糧問題なども考えなければならない。

 アンデッドとて元は生者なのであるからして心理的にも生者と同じ飲食を必要とするからだ。


 かといってただのいち検死官でしかない俺は食料問題、まして町の運営なんて完全に門外漢である。


 そういった領地の運営は貴族であるオフィーリアの仕事だった。


 税収の管理に商業の活性化、街道の整備に農地の管理と、やることは多いが彼女はすこぶる有能であった。

 病弱で寝たきりだった彼女はいつかお父様のように立派な貴族になると勉強は欠かしていなかったらしい。


 彼女のお陰で今のこの町が成り立っているといっても過言ではない。


 そういうところは立派なんだが、どうにも事あるごとに俺に色仕掛けをしてくることはいただけない。

 ただでさえ悩ましいチャイナドレス姿だというのに、頻繁に腕や脚を絡めてくる度に俺のポセイドン(俺の下半身の名前だ)が暴れだしそうになる。


 俺に対する好意が明白なオフィーリアに対して、シェルリの態度は難解だった。


 会ったばかりの頃はそれこそ親戚の叔父さんのように気安く接してきたのだが、最近はどうも微妙に距離を置かれている。

 かと思えばオフィーリアが俺とくっ付いているのを見ると鬼の形相で怒ってきて引き剥がそうとする。

 しまいにはオフィーリアとシェルリで俺の両腕を引っ張って取り合いをはじめる始末。


 俺のことを異性として意識しているのか、はたまたただのオフィーリアへの対抗心なのか。

 とりあえず全身包帯姿で抱きついてくるのは俺のポセイドンが大荒れになるので勘弁して欲しい。


 因みにスージーはというと、オフィーリアとシェルリのわちゃわちゃしたやりとりを俺の後ろに控えてじっと見守っている。


 離れるわけでも引っ付くわけでもなく、常に付かず離れずの距離を保って俺が何か声を掛けるのを待っている。

 まさに秘書(セクレタリー)のような立ち振舞い。

 積極さに欠けるもののその献身的な態度は俺の胸を打つ。


 けれど、スージーはオフィーリアやシェルリのように何か特殊能力や特技があるわけでもない。

 せいぜいお茶を淹れてもらうくらいで、別段スージーに何かをやってもらうわけでもない。

 ただスージーが傍にいてくれると落ち着いた気分になるので俺も嬉しい。

 スージーもそうであってくれたなら嬉しいな。


 こんな風に、俺は騒がしいながらも平穏な異世界転生(イセカイッド)ハーレム生活を送っていた。

 イセカイッドする前には考えられないほど満たされた新しい日常。

 ずっとこんな日常が続けばいいなんて、フラグとしか思えないことを考えてしまうほど平穏な日々だった。


 そんな折。


 俺たちのもとに「町の北方で見たことのない魔物に襲われた」との急報が舞い込んだ。











「こいつは……」


 すぐさま現場に駆けつけた俺たち4人の目に入ったのは目を背けたくなるような惨状だった。


 町のはずれで作業していたと思しき町人たちが道に何人も倒れている。

 それも一見して生きてはいまいとわかるほど、ズタズタにされた状態でだ。


 俺はすぐさま現場検証を始めた。


「頭部の数から推測して被害者はざっと9人。いずれも手足、胴体の切断など損傷が激しい」


「目撃情報から野生の魔物による襲撃かと思われたが、遺体のいずれにも食い荒らされた痕はなし。切断面から鋭利な刃物によるものと推察される」


「凶器は恐らく刃渡り1フィート(約30センチ)以上の刃物。胴体を一撃で両断するほどの人間離れした怪力……」


 俺が現場検証している間、スージーたちはあたりの様子を見ていてくれた。

 検分を考察しているとスージーが警告するように「うー!!」と鋭く鳴いた。


 全員がスージーの方を振り向く。


 彼女の眼前には人型の何かが蠢いている。

 人型のそれは二足歩行で歩いている鎧だった。


 成人男性が着用するには小さいその金属鎧は身長の倍はあろうかという大戦斧を携えている。

 その鎧は、本来着用する人間の顔が見えるべき部分からがらんどうの中身が見えていた。


 ――――鎧だけが動いている。


「ありゃまさか下級アンデッドの『蠢く鎧(カースドアーマー)』か!?」


 ネクロマンサーとして日々働いていたこともあり、俺のネクロマンサーレベルは「8」まで上がっていた。

 レベルアップの恩恵で俺はアンデッドであれば一目見ただけで名前と性質がわかるようになっていた。


 しかし、アンデッドはネクロマンサーが生み出す存在であり、野生動物のようにアンデッドが自然発生することは決してありえない。

 アンデッドの傍には、必ずネクロマンサーが存在する。


 一体このカースドアーマーは誰によって生み出されたアンデッドなのか?


「おい女神(サクラ)、あれは…………おい?」


 本来であれば解説をすべき女神が返事をしない。


 最近、平穏な日常を送る俺の生活が退屈なのか女神が返事をしない時が度々あった。

 その度にサボタージュを咎めていたのだが、まさかこのタイミングで不在とは!


「ファッ◯女神め! 肝心な時に役に立たねぇ!」


 悪態を吐いているとシェルリが声を上げた。


「誰と話しているんですかゴリさぁん! 敵が来ますよぉ!」


 俺たちという新たな獲物を見つけたカースドアーマーは無機質な動きで大戦斧を掲げた。


 俺は大声で指示を飛ばした。


「避けろ!」


 ズッガァァン!!


 大上段から振り下ろされた大戦斧が地面を揺るがした。


 間一髪で避けたスージーたちはネクロマンサーの俺を守るように構えた。

 大戦斧が振り下ろされた地面が大きく抉れている。

 これほどの一撃を喰らっては、いくらアンデッドとはいえ一発で行動不能になるだろう。


 俺はチラリと周囲に散らばる町人たちの亡骸を見てため息を付いた。


「逃げてぇところだが……こいつを放っておいたら被害が増えちまうな」


 スージー、シェルリ、オフィーリアの3人に順番に目配せを送る。

 3人娘たちはにっこりと笑顔で返してくれた。

 口の端に笑みを浮かべて俺は開戦の宣言をした。


「よっしゃあ! あのフ◯ック鎧を鉄クズに変えちまおうぜ! 行くぞお前ら!」


「うぅー!!」


「任せてったらぁ!」


「ゴリ様のご命令であれば!」


 俺の合図を受けて3人は一斉にカースドアーマーに飛び掛かった。


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