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検死官 ゴーリー


「フ○ック!」


 俺はムシャクシャしながら終業のタイムカードを切った。

 仕事とはいえ、今日も頭のおかしい野郎の死体を見る羽目になったからだ。

 酔っ払ってケツから噴水に飛び込んで水圧で内臓破裂だと?


「なにが悲しくて毎日頭のイカれた連中の死体を拝まなきゃならねぇんだ!」


 俺の名前はアーノルド・ゴーリー。


 ロスベガス警察で検死官をやっている。

 ここは合衆国(ステイツ)で1番頭のおかしい奴らが集まるロスベガス州。


 ハイスクールの頃、教師から「お前は強面(こわもて)で体もデカいし、警察官(ポリスマン)にでもなったらどうだ? 少しは女にモテるかもしれんぞ」と言われた。

 いくらモテたいからといってそれを真に受けた俺がバカだった。


 勉強して警察官になれたはよいものの、運悪くロスベガス警察になんか配属されちまった。

 おまけに役職はよりによって検死官ときたもんだ!

 女と無縁の職場で毎日死体とにらめっこだなんて、俺はどこで道を誤ったんだ?


 俺は私服に着替えて最悪の気持ちのまま警察署を出た。


 こんな日は早く家に帰ってDVDを見るにかぎる――。

 昨日ジャパンからやっと届いたジャパニメーションのDVDだ。


 俺はティーンの頃からジャパンの萌えカルチャーが大好きなんだ。

 特に()()()()()()(※異世界転生系作品のこと)が最高だ。


 クソみたいな仕事の毎日だが、イセカイッドを見てる時だけは気分がスカッとするぜ。


 イセカイッドは良いぞ。

 冴えない主人公がホットな女神様のお陰で現代から剣と魔法の異世界に転生するんだ。

 それで女神からもらったチートスキルで悪い奴らをやっつけて、自分だけのハーレムを作るんだ。

 ファンタジーの世界だからエルフでもネコミミでもなんでもありだ。


 イセカイッド作品を見ている時だけは俺はクソみたいな仕事のことを忘れられる。


「俺でもイセカイッドできれば俺だけのハーレムが作れっかなぁ……」


 俺はドラッグストアでコークと冷凍ピザをカゴに突っ込みながらそんなことを考えていた。


 そんな俺の妄想をブチ壊すように店の外から男たちの喚き声が聞こえてきた。

 俺はチッと舌打ちしてカゴを店員に預けてから店の外に出た。


 店の外では道路の真ん中で下半身丸出しの男がふたり取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 ロスベガスでは日常的によく見かける光景だ。


「ロスベガス警察だ! 何やってんだテメェら!」


「ポリスぅ? おい! お前がさっさとケツ出さねぇからポリ公が来ちまったじゃねぇか!」


 下半身丸出しの男が、同じく下半身丸出しの男と言い争っている。


「そりゃこっちのセリフだ! お前こそケツを出しやがれ!」


 二人の男たちは取っ組み合いになりながらケツがどうのこうのと汚い話をしている。


「なんだぁ? ゲイの喧嘩か? どっちがカマ掘るかで揉めるならホテルでやってくれや」


「誰がゲイだ! 俺はテキサス出身だよ!」


 誰も出身地なんて聞いてねぇよ。


「俺は消防士だぞこの野郎!」


 職業なんてもっと聞いてねぇよ。


「ワケわかんねぇこと言ってんじゃねーぞテメェら! 酔ってるのか?」


「酒なんか飲んでねぇよ! マ○ファナ吸ってただけだよ!」


 道理で話が通じないわけだ。酔っ払いではなく違法なハッパでキマった連中らしい。


「頭のおかしいヒッピー共がぁ! 俺の貴重なフリータイムを邪魔しやがって!」


 俺はこれ以上ラリった奴らの面倒は見きれないとヒッピー二人組に背中を向けて仲間に無線を入れた。 


 その時――。


「このテキサス野郎ぉー!」


 二人組の一人が片方の男を突き飛ばし、ケツ丸出しの男が俺のケツにケツからぶつかってきた。

 男の気色悪い生尻の感触に思わず飛び上がった俺はたまたま通りかかったボインの姉ちゃんの胸に顔から飛び込んだ。

 ボインちゃんは間髪入れず悪態をついた。


「Oh! ファ○ク!」


 ボインちゃんからスナップの効いたビンタをまともに受けた俺はフラフラとその場をフラついた。

 するとそこに運悪くやってきたピザ配達のバイクが背後から俺を跳ねた。


「オワーッ!?」


 ふっ飛ばされた俺の先には誰が置いたのかトランポリンがあった。

 トランポリンの反動でバイーンと大きく高く飛び上がった俺は、ロスベガスで有名な火山のモニュメントに落下した。

 この火山は本当の火を使って定期的に爆発することで観光スポットでも話題の場所だ。

 当然、そんな爆発に巻き込まれたらひとたまりもなく死ぬ。


「いてて……くそっ!」


 しかし不幸中の幸いか、俺が落ちた時はたまたま爆発していなかった。

 慌てて俺は火山の上で立ち上がった。もう少しで火口に落ちるところだ。


「さっさと下りねぇと火山が! ん……?」


 その時、俺の眼前にステイツの象徴であるコンドルが!

 あまりにも奇跡的な偶然で飛んできたコンドルは不幸にも俺の顔面に激突した。


「アウチッ!?」


 強烈な衝撃を受けて俺はそのまま火山の火口に落下した。

 衝突と落下の衝撃で目の中に星条旗の星が舞う。

 さらにトドメとばかりに火山が小刻みに揺れて爆発の準備に入ったようだ。


「ファ○ク……。死ぬ前に、ピザとコークでイセカイッドアニメを見たかった――――」


 火山はここぞとばかりに大爆発し、俺は盛大に爆死した。











「アーノルドよ――――目を覚ましなさい」


 偉そうな女の声に起こされて俺は目覚めた。

 気がつくと俺は見たこともない神秘的な場所にいた。


 なんか思わせぶりなスモークが漂っていて、暗いんだか明るいんだか。

 まるでイセカイッドアニメで主人公が転生する時に神様に呼び出される場所みたいだった。


 どこからともなく女の声が聞こえる。


「アーノルド。あなたは世にも奇妙で愉快な死に方をしましたね」


 偉そうな女の声はいきなり俺の死に様を煽ってきやがった。

 そうか、そういえば火山で爆死したんだったな俺。


 どこのどいつか知らないが死人を煽るなんてド外道めが!


「やかましいわ! 誰だアンタ。聖母マリア様か? 生憎と俺は無宗教だぞ」


 俺が文句を言うと目の前にぼんやりと女の姿が浮かび上がってきた。


 不思議な力で顔だけはぼんやりとして見えないが、なんとなく美人の雰囲気がある。

 聖職者っぽい簡素な白いローブ姿で、長く真っ黒な髪はアジア人っぽいな。


 神秘的な雰囲気の女は俺の文句を無視して言葉を続けた。


「あなたは1000年に一度の面白い死に方をしたとして多くの神々を喜ばせました」


「あぁ!? ふざけんなビ○チ女!」


「…………」


 俺の口汚い罵声に女は少し眉をひそめた気配を感じたが、それでも女は話を続けた。


「よってその褒美として、神の加護を持って転生することが許されました。異世界転生に憧れていたのでしょう?」


「勝手に話を――――」


 待てよ? 転生だって……!?


 まさかこの女はイセカイッドさせてくれる女神で、本当に俺をイセカイッドさせてくれるってのか?

 それに神の加護ってことは、イセカイッドお約束のチートスキルをくれるってことか!?


「オイオイオイ! そりゃ願ってもねぇ話だぜ!」


 俺は拳を振り上げて歓喜に打ち震えた。

 いかれた死に方をしたお陰ってのが気に喰わないが、この際どうでもいいぜ。


「ハッハッハッ! もうこの際アンタがマリア様でもブッダでもアッラーでも構わねぇよ!」


 クソみてぇな死に方をしちまったが、まさか俺がイセカイッドできるなんて!

 これなら本当に異世界で俺のハーレムが作れるかもしれねぇ!


 俺は生前ずっと考えていた自分のイセカイッドした時の設定をスラスラと言った。


「なら俺はジョブは『勇者』で、スキルは『俺を見た女が全員俺を好きになる能力』で頼むぜ!」


 だが女神はそんな俺の望みを鼻で笑って否定した。


「ふふっ。残念ですがアーノルド、あなたにはもっと相応しい職業技能(チートスキル)を与えましょう」


「あん?」


 女神(?)の声は少し震えていた。まさか笑っているのか?


死霊術師(ネクロマンサー)です。アーノルド、検視官のあなたにぴったりの職業ですよ」


「な、なにぃ!?」


「では……転生した先でも面白ろおかしく生きなさい、アーノルド。あなたのこれからには神々も大いに期待していますよ」


 とんでもない捨て台詞を吐いて女の声が徐々に遠ざかる。

 視界が光に包まれ、俺は薄れゆく意識の中で腹の底から叫んだ。


「このファ○ク女ーーーー!!」




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